連載レポート124:桜井悌司「インターネット自由度ランキング2023とラテンアメリカ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート124:桜井悌司「インターネット自由度ランキング2023とラテンアメリカ」


連載レポート124

「インターネット自由度ランキング2023とラテンアメリカ」

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

2023年10月19日付けで、米国の人権団体のフリーダムハウスが、「インターネットの自由度ランキング2023」(Freedom on the Net 2023)を発表した。この調査は、2011年に開始され、採点の基準は、インターネット及びデジタル・メディアにおける言論・表現の自由度を「アクセス規制」、「コンテンツ規制」、「ユーザー権利の侵害」の3分野の観点から21の質問項目と100以上の詳細質問を設定・調査し、0-100ptsでスコア化し評価している。71点以上が自由度「フリー」の国々、41点から70点までの国々は、「部分的にフリー)、40点以下の国々は「フリーでない国々」:と分類されている。

「調査の概要」

2023年調査によると、1位から17位までの国は、アイスランド、エストニア、カナダ、コスタリカ、英国、台湾、ドイツ、日本、オーストラリア、フランス、ジョージア、米国、イタリア、アルゼンチン、南ア、アルメニア、セルビアのとなっている。これらの国々は総得点71点以上で,インターネット自由度「フリー」の国々である。総じて欧米の国々が並んでいるが、4位のコスタリカ、6位の台湾、7位の日本、9位のオーストラリア、ジョージア、14位のアルゼンチン、16位のアルメニアは注目に値する。「部分的にフリー」の国数は、36ヶ国である。「自由ではないない国々」の数は、17ヶ国で、最下位の70位は中国、69位はミャンマーとなっている。

フリーダムハウスは、調査の主要結果として、下記のような重要なポイントを挙げている。

*世界のインターネットの自由度は13年連続で低下した。当局がインターネットサービスを停止し、WhatsAppやInstagramをブロックし、反政府デモを鎮圧するために監視を強化したためである。

*表現の自由に対する攻撃は、世界中でより一般的になっている。フリーダム・オン・ザ・ネットが対象とした70カ国のうち、過去最多の55カ国で、人々はネット上での表現に対して法的な制裁を受け、41カ国ではネット上での発言を理由に身体的暴行を受けたり殺害されたりした。

*人工知能(AI)がネット上の偽情報キャンペーンを加速させる恐れがある。

*インターネットの自由を守るために、民主主義の支持者たちは、過去のインターネット・ガバナンスの課題から学んだ教訓をAIに適用しなければならない。

*約49億人がインターネットにアクセスしている。

*フリーダムハウスの推計によると 78%が、政治的、社会的、宗教的な問題に関するコンテンツを投稿したために逮捕または投獄された国に住んでいる。

*68%が、当局がオンライン上の議論を操作するために政府寄りのコメンテーターを配置した国に住んでいる。

*67%が、2022年6月以降、ネット上での活動を理由に個人が攻撃されたり殺害されたりした国に住んでいる。

*66%が、政治的、社会的、宗教的コンテンツをホストするウェブサイトがブロックされた国に住んでいる。

*54%が、ソーシャルメディア・プラットフォームへのアクセスが一時的または恒久的に制限された国に住んでいる。

*46%が、しばしば政治的な理由で、当局がインターネットやモバイルネットワークを切断した国に住んでいる。

表1 2023年調査でインタ^ネット自由度でフリーと判断された国のリストと中国・韓国のランキングと得点

国 名 世界

順位

Total Score & Status

合計点と自由度の状況

100点満点

Obstacles to Access

アクセスへの障害

25点満点

Limits on contents

内容に対する制約 35点満点

Violation of User Right

個人権利の侵害 40点満点

アイスランド 1(1) 94(95) Free 25(25) 34(34) 35(36)
エストニア 2(2)  93(93) Free 25(25) 31(32) 37(36)
カナダ 3(4) 88(89) Free 23(23) 33(32) 32(32)
コスタリカ 4(3) 85(88) Free 21(19) 33(34) 31(33)
英国 5(5) 79(79)  Free 21(21) 30(30) 25(25)
台湾 6(5) 78(79)  Free 24(24) 29(30) 25(25)
ドイツ 7(8) 77(77)  Free 23(23) 28(28) 26(26)
日本 7(8) 77(77)   Free 22(22) 29(29) 26(26)
オーストラリア 9(10) 76(76) Free 23(23) 28(28) 25(25)
フランス 9(10) 76(76)  Free 23(23) 29(29) 24(24)
ジョージア 9(7) 76(78) Free 19(19) 29(31) 28(28)
米国 9(10) 76(76)  Free 21(21) 30(30) 25(25)
イタリア 13(13) 75(75) Free 21(21) 29(29) 25(25)
アルゼンチン 14(17) 73(71) Free 19(19) 28(27) 26(25)
南ア 14(15) 73(67) Free 17(22) 29(24) 27(21)
アルメニア 16(14) 72(74) Free 19(20) 28(28) 25(26)
セルビア 17(14) 71(72) Free 22(22) 24(25) 25(25)
           
韓国 18(20) 67(67) P.Free 22(22) 24(24) 21(21)
中国 70(70) 9(10) Not Free 7(8) 2(2) 0(0)

注:同得点の場合は同順位にした。( )内は2022年調査

「ラテンアメリカの調査対象国9カ国のインターネット自由度の概要」

調査対象国70か国のうち、ラテンアメリカ諸国はわずか9カ国で、チリやウルグアイなどが含まれていないのは残念である。9ヶ国のうち、「フリーな国」は、コスタリカとアルゼンチンの2ヶ国で、「部分的フリーな国」は、コロンビア、ブラジル、エクアドル、メキシコ、ニカラグアの5ヶ国、「自由のない国」は、ベネズエラとキューバの2ヶ国である。

コスタリカは常に上位を占める国であるが、今回3位から4位になった原因は、フリーダムハウスによれば、コスタリカでは、選挙キャンペーン・マネージャーがネット荒らしを雇い、国内最大のメディア数社に嫌がらせをした大統領が選出され、インターネットの自由のチャンピオンとしての地位が危うくなったからであるという。

2022年調査と比較して、ランクの上昇した国々は、アルゼンチン、コロンビア、メキシコの3ヶ国で、順位に変化のない国は、エクアドルとキューバの2ヶ国、下落した国は、ニカラグア、ブラジル、ベネズエラ、コスタリカの4ヶ国である。

表2 ラテンアメリカ調査対象国9カ国のインターネット自由度ランキング2023

国 名 世界

順位

Total Score & Status

合計点と自由度の状況

100点満点

Obstacles to Access

アクセスへの障害

25点満点

Limits on contents

内容に対する制約 35点満点

Violation of User Right

個人権利の侵害 40点満点

Argentina 14(17) 73(71) Free 19(19) 28(27) 26(25)
Brazil 23(21) 64(65) P. Free 20(20) 23(24) 21(21)
Colombia 21(23) 65(65) P. Free 19(19) 25(24) 21(21)
Costa Rica 4(3) 85(87) Free 19(21) 33(34) 31(33)
Cuba 67(67) 20(20) Not Free 4(4) 9(9) 7(7)
Ecuador 23(23) 64(64)  P. Free 18(18) 24(24) 22(22)
Mexico 25(27) 62(61)  P. Free 18(18) 25(25) 19(18)
Nicaragua 48(45) 42(45)  P. Free 11(11) 17(16) 17(15)
Venezuela 57(55) 29(30)   Not Free 7(7) 11(12) 11(11)

Freedom House が世界70カ国のインターネットの自由度を調査したもので、2023年10月19日に発表された。( )内は2022年調査