連載パナマ・レポート43:ルベン・ロドリゲス 2023年11月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート43:ルベン・ロドリゲス 2023年11月分


連載パナマ・レポート43: ルベン・ロドリゲス 2023年10月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)

I.政治

 A. 秩序の不安化

 現在、デモクラシー復帰後最も大規模なデモが行われている。その原因は、10月20日の夜に官報に公布されたカナダのFirst Quantum子会社である鉱業会社Minera Panamáの採掘権契約に関する法律にある。契約の成立に対して、労働組合、様々な市民グループがデモに参加することとなり、教育省、パナマ大学および、いくつかの私立大学が全国の授業を中止した。デモにおいては警察と国民が対立し、負傷者も出ている。

 さらに、成立後の政府対応は状況を悪化させている。コルティソ大統領が12月17日に契約の取消についての国民投票法案を国会に提出した。しかし、選挙裁判所はこのような国民投票の準備期間がないと発表した。また、国会は、自ら法律の廃止法案についての議論を行ったが、専門家がこうしたやり方で契約を取消せば契約不履行による損害賠償責任が求められる恐れがあると指摘され、最終的に新たな採掘に関する契約の交渉を停止とする法理が可決した。なお、議論の間、国民が契約の成立を支持した議員の住宅前でデモを行い、契約を成立すべきではなかった、または契約を読んでいないと認めた議員もいる。

 その後、いくつかの大臣および副大統領と関係がある企業がMinera Panamáと契約と結んでいると明らかとなったにもかかわらず、政府が説明義務を果たすことなく、むしろ、契約取消の経済的な悪影響を主張し、契約の必要性を強調している。さらに、与党PRD議員、市長、知事等の親戚が返済義務なしの高額奨学金を受けたとも報道されている。以上をもって、国民の不満が高まり、南北アメリカ大陸の国々を結ぶパンアメリカンハイウェイがデモによって閉鎖され、ダビッド県でガソリン、ガスのような日用品不足、他の県では食糧不足が発生している。こうした状況下、デモに対する不満をもった一般の男性は、デモに参加した二人の男性を射殺して逮捕された。

 民間企業協議会は一か月以上に及ぶ全国デモによる経済的な悪影響は17億ドルを超えると発表している。また、物流業界の経済的な損失は週2億ドルを上回ることがわかった。以上によって国際市場におけるパナマの位置付けが影響を及ぼしている。アメリカ格付け機関のムーディーズはパナマの長期債務格付けをBaa2からBaaa3に下げた。First Quantum株価が40%以上下落している。

 法律の合憲性についての訴訟は既に提起されている。国家訴訟官と行政訴訟官は最高裁判所に法律が違憲であると意見書を提出している。パナマの違憲訴訟においては、行政訴訟官の意見の他、政府、Minera Panamá、その他の意見がある者が11月23日までに最高裁判所に意見書を提出することができる。最高裁判所は既に、11月24日から判決が下るまで休憩なしの議論を行うと発表している。専門家によると国際仲裁廷において損害賠償責任が問われた場合、契約を承諾した法律の違憲判決が責任免除理由となると指摘されている。

II.外交

 A.移民問題

 近年、アメリカを目指し、パナマを通過する者が急増している。パナマの入国管理局長は9月下旬時点でダリエン県からの入国者が40万人を超え、2021年(約134,000人)および2022年(約250,000人)の人数を上回っている。そのうち6万人は子供、2か月から7か月の新生児は3万人であると発表した。移民中、ギャングやテロ組織に属している者も発見され、レイプのような犯罪が起きている。

 アメリカ政府が、アメリカ入国審査官とパナマ入国審査官の6か月協力計画を公開した。この計画の下で、アメリカ入国審査官はパナマでアメリカ入国手続きを行い、難民に該当しない者は直ちに返還される。

以   上