『乾杯、神さま』 エレナ・ポニアトウスカ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『乾杯、神さま』 エレナ・ポニアトウスカ 


女性ジャーナリストである著者が監獄取材の途中で注目したホセフィーナ・ボルケスに、これまでの経験を語ってほしいとインタビューを申し込み、毎週通いつめて話しを聞き取ったドキュメンタリーの形を取っているフィクション。本書では、オアハカ出身でメキシコ革命を兵士として生きた後、大きく変動するメキシコシティの地を這いずくばって家事など肉体労働者として生きてきた文中ヘスサという、伝統的な枠組みにははまらない女性の生きた姿を書き留める。ディアス政権に対する武装蜂起を起こしたオブレゴン、サパタ、マデロと指導者が次々と替わる時代の中で大尉と結婚したヘスサはビジャ派との戦闘で夫が戦死、一兵士として闘った。戦地を離れ寡婦年金を受け取るべくメキシコシティに向かい二十代の大半を過ごす。雑務係として女性専門の病院で働き始めたが、売られた喧嘩を買い警察に連行され二度目には刑務所に入れられる。目まぐるしく変わる政権の下で家政婦や露天商で生活を賄い生きたヘスサだが、家賃の値上がりによりどんどん住まいは郊外に追いやられる。その中でヘスサはエスピリチュアリスモ(ユダヤ教とカトリック教義と心霊主義を融合したもので、革命による社会変動の中で労働者・農民や先住民の間で広まった)の寺院に通うことを心の拠り所とした。

メキシコ革命とその後の社会変動の中で生きた一個人の証言を多声的な〈女性〉の物語へと昇華させた、セルバンテス賞受賞の女性作家によるルポルタージュ文学の長編。原書は1969年刊行、本邦初訳。巻末に訳者の詳細な解題があり、ヘスサの生きた1900年代の背景であるメキシコの政情、社会の変動を詳細に解説していて理解を助けてくれる。

〔桜井 敏浩〕

(鋤柄史子訳 幻戯書房(ルリユール叢書) 2023年8月 203頁 4,800円+税 ISBN978-4-86488-278-1)