アルゼンチンで都会から離れた場所を巡り布教活動をしているプロテスタントの牧師ピルソンは十代の娘レニを伴って車で移動していたが、ある時荒野のど真ん中で車が動かなくなり、通りかかったトラックに牽引されて自動車整備工のグリンゴ・ブラウエルのところに連れていかれた。本書はブラウエルの息子と思われる十代半ばのタピオカを加えた4人の一昼夜足らずの間に起きた出来事を綴ったリアリズム小説。
牧師は常に神の福音を説くが、十数年前にある町で妻を置き去りにレニを乗せた車を走らせ、以後信仰に生き妻をなくし男手ひとつで幼い娘を育てる牧師として振る舞っている。タピオカも母がある時突然グリンゴを訪ねあなたの子だから預かれと置いていった境遇をもつ。車の修理が終わった時、牧師は突然40年前の自分をタピオカに見たので一緒に連れて行きたいとグリンゴに告げ、殴り合いの末に自分の居場所を感じられないでいたタピオカの意思もあって共に出発するというところで物語は終わっている。
著者はアルゼンチン北東部のパラナ川とウルグアイ川に面したエントレリオス州の辺境の町で生まれ、2012年に出版した本書は英訳をはじめ各国で訳本も出て、2019年にエジンバラ国際フェスティバルで英翻訳書作品に与えられる賞を受けた。
〔桜井 敏浩〕
(宇野和美訳 松籟社 2023年10月 151頁 1,800円+税 ISBN978-4-87984-445-3)