執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)
11月19日の決選投票でJavier Milei候補が選出され、新政権発足まであと一週間となったアルゼンチン。市中の様子は大きく変わらない様ですが、選挙後の動きで注目すべきなのがアルゼンチンペソ(A$)と米ドル(US$)の交換率の変化です。
このグラフは2019年12月から今年10月迄の公定レートと市中レートの変化を示すものですが、ほぼ直線的に安値を付けてきたA$が8月の予備選でMilei氏が候補者として選出された時点から公定レートはほぼ値動きを止め、一方下落の動きが加速していた非公式レートが、Milei氏の当選が決まってからは動きを止め、A$1,000/US$の手前の水準に留まっています。https://www.lanacion.com.ar/
これが今後のアルゼンチンとの取引に如何なる影響を与えるのか?現時点では何とも言えませんが、Milei次期大統領は既に非公式に米国を訪問し、前任者の示していた中国重視姿勢を米国寄りに改め、またMauricio Macri元大統領(2015-19年)の政権時に中銀総裁を務めたLuis Caputo氏を経済大臣に据える事を決め、大衆迎合的バラマキ政治からの決別姿勢を鮮明にしています。今週のA$の堅調な動きは、こうした新政権の打ち出す改革への期待が形になったもので、Milei政権の発足に市場が大きな変化を求めている証左と言えます。
変化の話題をもう一つ。音楽配信サービスのSpotifyが、ウルグアイ政府の示した著作権保護の姿勢に反発して、同国での有料配信サービスを停止すると発表しました。
この決定により、年明け1月1日には有料サービスが停止され、無料サービスも2月1日に止まってウルグアイではSpotifyは存在しないことになるようです。
2019年に中国を訪問した際、Googleが使えずにGmailでのやりとりもできなかった事を思い出しました。Spotifyは普段から使っていないので判りませんが、利用者にとっては手痛い決定であろうと推測します。
次に痛い話から暑い話へ。
パラグアイ気象庁の予測によると、年明け2月3月は通常のエルニーニョ現象ではなく、メガニーニョという猛烈な暑さになるそうで、今から覚悟が必要です。
因みに昨日土曜日も湿気を含んだ猛烈な暑さで、外出するのがはばかられました。
でも夕方に降った豪雨の御蔭で、今日日曜日は相変わらずの湿気ながら雲が多い空模様なので少しマシなお天気になっていると言えます。
拙宅の目の前の通りでは、コロナ明け久々の5㎞・10㎞持久走大会が開催され、剣客自慢の皆さんが走りを愉しんでいました。
先週の長距離走大会の部分で、健脚とすべきところ剣客と変換ミスがあって多数の方々から御指摘を頂きました。大変失礼いたしました。
丁度この週末はNetflixの碧眼Blue Eye Samuraiという作品を視ていたので、剣客という変換ミスを何も考えずに見過ごしてしまいました。真剣勝負ならバッサリ切られて御仕舞というところです。手書きだったらあり得ないこの誤字、昔は起こり得なかった事ですが、何でもパソコンで調べて、娯楽ですらパソコンの画面で愉しむようになると、こういうミスが増える気もしますが、一方でAIの発達により、文字変換の適切な選択が自動的に行われて、将来的には無くなってくるのかもしれません。
そもそも、字を書かなくなっている現代において、文字を書く能力が大幅に低下していますが、当然読む力も衰えて行くことが懸念されます。そうなると、遠くない将来、象形文字の日本語よりも、表音文字の英語やスペイン語に置き換わっていく可能性もあるのかも、と思ってしまいます。
時差12時間のパラグアイでは、日曜朝のお愉しみは大河ドラマ『どうする家康』を見ることですが、先週、大阪城を攻めることを決意した家康が行書で南無阿弥陀仏という文字を何回も書いていました。が、その大阪城に人質で送った孫の千姫を想うシーンでは楷書でお千と書いていて、違和感を感じました。剣客の間違いを御指摘下さった皆様はどう感じられたでしょうか?
さて、前置きが長くなりましたが、その長距離走大会で大きな氷の袋を担いで飲物を冷やす用意をしている様子をみて、以前から気付いていたものの具体的な指標が無いのでご披露できなかったパラグアイの文化をご紹介しようと思い立ちました。
それが今日のことば、hieloです。
パラグアイに来て最初に違和感を感じたのが、どんな田舎に行っても道路わきに「Hay Hielo」と書いた札や表記があることで、「氷あります」という意味のこの表記、最初は何のためか判りませんでした。
しかしこれがパラグアイだけでなく南米南部の共通文化であるテレレに必要だということに気付くのに時間はかかりませんでした。
パラグアイ人は何処に行くにもTermoという保温水筒を持ち歩きます。この水筒には氷水を入れて、それをテレレの茶葉を入れたグアンパという容器に入れて、ボンビージャという茶漉しストローで飲むのです。
これで熱中症を防ぐというのが暑いパラグアイで生き残るための大切な生活の知恵。しかもテレレは複数の人達で回して飲むのが流儀です。
コロナ禍の間は、感染防止が徹底されてテレレの回し飲みも自粛されましたが、今は完全に以前の生活に戻って、回し飲みも普通に行われています。
それだけでなく、パラグアイではビールを氷に入れて冷やします。
通常シャンパン等の高級ワイン用に使われるシャンパネラというバケツが、パラグアイではビールを冷やすのに使われるのです。
これもパラグアイに来て驚いたことの一つ。
周辺諸国と比べてもビールが割安なパラグアイで、わざわざビールを氷に入れてテーブル脇に置く。随分贅沢に感じますが、それがこの国の常識なのです。
一年半ぶりに日本に帰ってきましたが、冬なのに暖かい。パラグアイでメガニーニョという高温懸念が地球の反対側の日本にまで影響しているようで驚きました。
久々の日本の冬、さぞかし寒いだろうと気合を入れて帰ってきましたが、拍子抜けするような温かさに驚きましたが、今日の首都圏は12月としては異例の25℃ということで、日中は本当に薄着で過ごせましたね。
真夏のパラグアイも相当に暑い土曜日となっているようです。
ABC Color紙電子版では、Calor Extremo=極端な暑さ、ということで40℃を超える地域が全国的にみられるとの予報。
https://www.lanacion.com.py/pais/2023/12/16/anuncian-sabado-muy-caluroso-y-con-chaparrones/
La Nacion紙でも強烈な暑さに警戒するよう訴えています。
如何にも暑そうなアスンシオンの夜明け。一方、日本は明日以降急激に冷え込んで、12月としては異例の寒波がくるとの予報。
https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/893977?display=1
世界中の気候がおかしくなっていますが、農業関係者にとっては大変な試練の時期となりそうです。
パラグアイでは西部チャコ地方で旱魃が続いて牧畜業がダメージを受けていましたが、来週は牧畜産業宿願の米国向け輸出が25年ぶりに再開される見通しであるという明るいニュースが報じられています。
https://www.ultimahora.com/los-primeros-envios-de-carne-a-eeuu-partiran-el-proximo-miercoles
日本では株式市場の大納会は29日だそうですが、アスンシオン証券取引所は15日で今年の取引を終了したようで、今年一年の取引額が44億ドルと、昨年の34億ドルを10億ドル上回って、経済活動が以前にも増して活況を呈している様です。
https://www.ultimahora.com/bolsa-de-valores-de-asuncion-cierra-un-ano-record-en-negociaciones
44億ドルを今日のレート¥142/US$で換算すると、およそ6250億円で、一日の商いが3兆円を超える東京証券取引所の足元にも及ばないものの、昨年比30%もの成長率ということは、来年も継続的に成長が続くと予想されます。
https://www.bolsadevalores.com.py/
この原稿を書いている間に、パラグアイ各紙の電子版では今日の暑さに対する警告がそれぞれトップ記事になってきました。パラグアイのみならず、南米南部の皆さん、くれぐれも熱中症にはお気をつけください。
常々パラグアイの人口密度が低く、日本は高いって話を皆さんにしていますが、国別ランキングの位置づけを改めて確認しました。
https://eleminist.com/article/1653
結果として改めて分かったのは、日本は過密トップ10には入っていないということ。
1平方キロメートルあたり、日本は347人で世界195の国と地域の中で25位。
で南米の国々はというと、
115位 エクアドル 71人 日本の約5分の1
140位 コロンビア 46人 〃 7.5分の1
151位 ベネズエラ 32人 〃 約11分の1
155位 ペルー 26人 〃 約13分の1
155位 チリ 26人 〃 〃
158位 ブラジル 25人 〃 〃
165位 ウルグアイ 20人 〃 約17分の1
169位 パラグアイ 18人 〃 約19分の1
174位 アルゼンチン17人 〃 約20分の1
181位 ボリビア 11人 〃 約32分の1
187位 ガイアナ 4人 〃 約87分の1
187位 スリナム 4人 〃 〃
ということで、やはり南米の人口密度は極めて疎であることが判ります。視方を変えればエクアドルで5倍、パラグアイは19倍、ガイアナは87倍の広さが人間一人当たりに与えられた広さということ。とは言っても、実際には土地の所有は限られた人たちに与えられた権利で、国民全部が自分の土地を所有している訳ではありません。
そういう訳で、南米各国の問題の一つが、土地オーナーの知らない間に棲みついて居住権→所有権を主張するinvacion(不法占拠)です。
多くの場合、一定の年限にわたって棲みついた実績が認められると、その土地の所有権まで付与されるというのが南米諸国の共通概念です。パラグアイの新聞La Nacion電子版によると、長らく放置されていた鉄道の復興工事が正式に決まった途端に鉄道用地に建物を建てる輩が出てきたという問題が発生したようです。
パラグアイの鉄道は南米最古の1861年、日本では和宮内親王が徳川家茂に嫁した江戸時代文久元年に開通したものですが、2000年代初め頃までに廃線となって文化遺産化していました。 https://www.fepasa.com.py/
それを交通手段として復活しようと先般予算がついて着工ということになったのですが、早速不法占拠が始まったというニュースです。
日本に帰って久々に近所の映画館に行って話題の「ゴジラー1」を観てきましたが、空襲で焼け野原になった当時の日本で、どのように地権を主張したのか?改めて不思議に思いました。
ベネズエラでは隣国ガイアナとの国境騒動が起こったことは日本でも報道されましたが、国境でも土地の所有権でも古くから争いの種になっていて、ウクライナやパレスチナでの実例を繙くまでもなく、近隣地域での所有権争いが止むことは中々ない様に思われます。
一方で、外国で活躍するパラグアイ人の帰国ラッシュが始まりました。
これまた南米のどこでも見られる派手な家族歓迎の様子ですが、こうした光景がアスンシオン空港で毎日見られるようです。
https://www.ultimahora.com/mas-de-82-000-paraguayos-retornaron-al-pais-para-las-fiestas
年末年始の帰省ラッシュは日本でも始まりますが、他の地域で過ごしてみると、領土争いで近隣同士が血を流す紛争が如何に無駄なものであるか実感できます。
円安の効果で日本を訪れる外国人も増えている今、あまり重要でない裏金問題に早く終止符を打ってもらい、隣国との協調関係を如何に維持して無駄な武力衝突を避け、武器の購入を止めて、経済活性化を優先した政治になって欲しいと願う年の瀬です。
以 上