連載レポート127:桜井悌司「学習到達度調査(PISA)2022とラテンアメリカ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート127:桜井悌司「学習到達度調査(PISA)2022とラテンアメリカ」


連載レポート127

学習到達度調査(PISA)2022とラテンアメリカ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

2023年12月5日に、経済協力開発機構(OECD)は、世界81ヶ国・地域の15歳69万人を対象とした学習到達度調査(PISA, Program for International Student Assessment)を発表した。この調査は、2000年に開始され、3年毎に行うもので、全世界の15歳児童を対象に、「読解力」、「数学的リテラシー」、「科学的リテラシー」の3分野での成績を発表するものである。前回の2018年度調査では、79カ国・地域の児童が受験した。今回はコロナに影響で4年ぶりに実施となった。今年は、73ヶ国に加え、中国の地域のマカオ、台湾、香港、ウクライナ地域、キプロス、アゼルバイジャン(バクー)、パレステイナ、コソボの8カ所が別掲され、合計81ヶ国・地域となった。

昨今、世界の様々な組織が公表する多くのランキングで日本は必ずしも芳しくないが、このPISA調査では、日本のランキングが上昇したこともあり、日本の大手新聞では大々的に取り上げられた。12月6日付けの日本経済新聞は、「読解力3位、数学的応用力5位、科学的応用力では、2位」と報じている。

下記に、表1数学的リテラシー、表2読解力、表3科学的リテラシーの世界ランキングと得点(2018年及び2022年)を紹介する。

2018年の調査では、中国の4都市(北京、上海、江蘇、浙江)が3部門ともに1位を占めていたが、今回は、おそらくコロナの影響かと思われるが実施されなかった。したがって、中国の地域では、マカオ、香港、台湾の3地域のみのエントリーとなっている。

「数学的リテラシーの調査結果」

数学的リテラシーを見ると、世界では、シンガポール、マカオ、台湾、香港、日本、韓国、エストニア、スイス、カナダ、オランダがベスト10である。アジアの国及び地域がベスト10の6つを占めている。ラテンアメリカ諸国では、前回の10か国から今回14ヶ国が対象となり、4か国が追加された。順位をみると、チリ、ウルグアイ、メキシコ、ペルー、ウルグアイ、コスタリカ、コロンビアと続く。対象国・地域81を3分割し、上位、中位、下位に分けてみると、かろうじて中位にチリとウルグアイが入るのみで残りは全て下位国に入る。ラテンアメリカ諸国は数学が得意ではないと言えよう。とはいうものの、前回2018年の調査と比較すれば、多くの国がランクを上げていることが理解できる。とりわけペルーは、12ポイント、チリは7ポイント、ウルグアイ、コロンビア、ブラジル、アルゼンチンは5ポイントの上昇である。得点では、コスタリカの17点、メキシコとドミニカ共和国の14点の上昇が注目される。またJICAが力を入れている算数・数学教育の対象国である、グアテマラ、エルサルバドル、ドミニカ共和国の今後の動向を見守りたい。

表1 数学的リテラシー(Mathematics Literacy) 2022年

順位

世界

国名 得点 順位

LAC

国名 得点
1(2) シンガポール 575(589) 52(59) チリ 412(417)
2(3) マカオ 552(558) 53(58) ウルグアイ 409(418)
3(5) 台湾 547(531) 57(61) メキシコ 395(409)
4(4) 香港 540(551) 52(64) ペルー 391(400)
5(6) 日本 536(527) 63(63) コスタリカ 385(402)
6(7) 韓国 527(526) 64(69) コロンビア 383(391)
7(8) エストニア 510(523) 65(70) ブラジル 379(384)
8(11) スイス 508(515) 66(71) アルゼンチン 378(379)
9(12) カナダ (512) 67(-) ジャマイカ 377(-)
10(9) オランダ 493(519) 74(76) パナマ 357(352)
11(21) アイルランド 492(500) 77(-) グアテマラ 344(-)
12(15) ベルギー 489(508) 78(-) エルサルバドル 343(-)
12(13) デンマーク 489(509) 79(78) ドミニカ共和国 339(325)
12(18) 英国 489(502) 80(-) パラグアイ 338(-)
12(10) ポーランド 489(516)      
17(29) オーストラリア 487(491)      
27(34) スペイン 473(481)   OECD平均得点 472(487)
  世界対象国地域数 81(79)   LA対象国数 14(10)

注:( )内は2018年調査の数字。

2018年の第1位は、中国の地域(北京・上海・江蘇・浙江)で591点であった。

「読解力の調査結果」

世界のベスト10の国をみると、シンガポール、アイルランド、日本、韓国、台湾、エストニア、マカオ、カナダ、米国、ニュージーランドとなっている。ここでもアジアの国・地域が10のうち5までを占めている。ラテンアメリカ諸国では、チリ、ウルグアイ、コスタリカ、メキシコ、ブラジル、ジャマイカ、コロンビア、ペルー、アルゼンチン、パナマと続く。上記の上位7ヶ国は、全世界のうちの中位に位置する。コロナの影響で世界中の読解力が下落しているが、ラテンアメリカ諸国でも前回と比較できる10ヶ国を見ると、得点では6カ国が下降しており、とりわけコスタリカが11点、メキシコが5点、チリが4点、ブラジルとコロンビアが各4点下落している。上昇している国は、パナマ15点、ドミニカ共和国9点、ペルーが7点上げている。それでもランキングでは、コスタリカを除く、9カ国はすべてランクを上昇させており、とりわけ、パナマ12ポイント、ペルー9ポイント、チリ6ポイント、ウルグアイ、ブラジル各5ポイントが注目される。

表2 読解力(Reading) 2022年

順位

世界

国名 得点 順位

LA

国名 得点
1(2) シンガポール 543(549) 37(43) チリ 448(452)
2(7) アイルランド 516(518) 43(48) ウルグアイ 430(427)
2(14) 日本 516(504) 49(49) コスタリカ 415(426)
4(9) 韓国 515(514) 49(53) メキシコ 415(420)
5(17) 台湾 515(503) 52(57) ブラジル 410(413)
5(5) エストニア 511(523) 52(-) ジャマイカ 410(-)
7(3) マカオ 510(525) 54(58) コロンビア 409(412)
8(6) カナダ 507(520) 55(64) ペルー 408(401)
9(13) 米国 504(504) 58(63) アルゼンチン 401(402)
10(8) ニュージーランド 501(506) 59(71) パナマ 392(377)
11(4) 香港 500(524) 66(-) グアテマラ 374(-)
12(12) オーストラリア 498(503) 68(-) パラグアイ 373(-)
13(14) 英国 494(504) 70(-) エルサルバドル 365(-)
14(6) フィンランド 490(520) 74(76) ドミニカ共和国 351(342)
15(13) デンマーク 489(501)      
28(-) スペイン 474(-)   OECE平均得点 476(487)
  調査対象国・地域 81(79)   LA調査対象国 14(10)

(注)( )内は2018年調査の数字。

2018年の第1位は中国の地域(北京・上海・江蘇・浙江)で得点は555点であった。

「科学的リテラシーの調査結果」

世界のベスト10をみると、シンガポール、日本、マカオ、台湾、韓国、エストニア、香港、カナダ、フィンランド、オーストラリアとなる。ここでもアジアの国・地域が10のうち6まで占める。

ラテンアメリカをみると定番のチリ、ウルグアイ、コスタリカがベスト3で、以下、コロンビア、メキシコ、ペルー、アルゼンチン、ブラジル、ジャマイカと続く。中位国にランクされるのは4ヶ国で残りは下位国となっている。

ここでも前回調査と比較して、得点では、4か国が下げ、6カ国が上昇している。とりわけ、ドミニカ共和国の得点上昇は24点、パナマは23点と著しい上昇を見せた。ランキングでは、変化のなかったメキシコを除く9カ国で上昇を見た。とりわけパナマ11ポイント、ウルグアイ9ポイント、コロンビア8ポイントは注目に値する。

表3 科学的リテラシー(Science Literacy) 2022年

順位

世界

国名 得点 順位

LA

国名 得点
1(2) シンガポール 561(551) 43(45) チリ 444(444)
2(5) 日本 547(529) 45(54) ウルグアイ 435(426)
3(3) マカオ 543(544) 54(60) コスタリカ 411(416)
4(10) 台湾 537(516) 54(62) コロンビア 411(413)
5(7) 韓国 528(519) 57(57) メキシコ 410(419)
6(4) エストニア 526(530) 59(64) ペルー 408(404)
7(9) 香港 520(517) 60(64) アルゼンチン 406(404)
8(8) カナダ 515(518) 61(64) ブラジル 403(404)
9(6) フィンランド 511(522) 61(-) ジャマイカ 403(-)
10(15) オーストラリア 507(503) 65(76) パナマ 388(365)
11(22) アイルランド 504(496) 72(-) グアテマラ 373(-)
11(12) ニュージーランド 504(508) 72(-) エルサルバドル 373(-)
13(23) スイス 503(495) 74(-) パラグアイ 368(-)
14(14) 英国 500(505) 77(78) ドミニカ共和国 360(336)
14(13) スロベニア 500(507)      
16(18) 米国 499(502)      
28(25) スペイン 485(483)   OECD平均 486()
  世界調査対象国 81(79)   LA調査対象国 14(10)

(注)( )内は2018年調査の数字。

2018年の第一位は中国の地域(北京・上海・江蘇・浙江)で得点は590であった。

「過去5回の調査から見たラテンアメリカ」

2000年の最初の調査は、32ヶ国(OECD加盟国28ヶ国、非加盟国4ヶ国)の15歳の児童26万5000人を対象に行った。ここでは、2009年に行われた第4回調査と2022年の第8回調査と比較してみよう。第4回と第8回では、世界における調査対象国数とラテンアメリカ対象国数が異なるので、比較してもそれほどの意味はないかもしれないが、大まかな趨勢を理解することができよう。

「数学的リテラシー」

表4をみると、第4回の調査対象国6ヶ国(チリ、ウルグアイ、メキシコ、コロンビア、ブラジル、アルゼンチン)のすべてが最新の第8回調査と比較して、ランクを落としている。第5回からエントリーした2ヶ国(ペルー、コスタリカ)、第6回から参加したドミニカ共和国も同様にランクを落としている。唯一第7回から参加したパナマは、順位を上げている。

表4 PISAテストの成績のランキングの推移(ラテンアメリカ諸国) 数学的リテラシー

国名 2022順位

第8回

2018順位

第7回

2015順位

第6回

2012順位

第5回

2009順位

第4回

チリ 52 59 48 51 47
ウルグアイ 53 58 51 55 42
メキシコ 57 61 56 53 48
ペルー 59 64 62 56
コスタリカ 63 63 59 56
コロンビア 64 69 61 62 53
ブラジル 65 70 66 58 54
アルゼンチン 66 71 42(BA区) 59 52
ジャマイカ 67
パナマ 74 76
グアテマラ 77
エルサルバドル 78
ドミニカ共和国 79 78 70
パラグアイ 80
LA調査対象国数 14 10 9 8 6
全調査対象国 81 79 70 65 65

 

「読解力」

2009年の第4回調査と2022年の第8回調査を読解力で比較すると、ランクを上昇させている国は、対象8ヶ国のうち、チリ、ウルグアイ、ブラジル、ペルー、パナマの5ヶ国で、メキシコとコロンビアはランクを落としている。アルゼンチンは変化なしとなっている。とりわけ、ぺル-とチリの上昇は、それぞれ8ポイント、7ポイントと著しく好転している。第5回調査からエントリーしたコスタリカは順位に変化がない。第6回目から参加したドミニカ共和国はランクを落としている。

表5 PISAテストの成績のランキングの推移(ラテンアメリカ諸国) 読解力Reading

国 名 2022順位

第8回

2018順位

第7回

2015順位

第6回

2012順位

第5回

2009順位

第4回

チリ 37 43 42 47 44
ウルグアイ 43 48 46 54 47
メキシコ 49 53 55 52 48
コスタリカ 49 49 51 49
ブラジル 52 57 59 55 53
ジャマイカ 52
コロンビア 54 58 54 57 52
ペルー 55 64 63 65 63
アルゼンチン 58 63 38(BA) 61 58
パナマ 59 71 62
グアテマラ 66
パラグアイ 68
エルサルバドル 70
ドミニカ共和国 74 76 65
対象LA国数 14 10 9 8 8
調査対象国数・地域 81(73) 79 70 65 65

 

「科学的リテラシー」

2009年の第4回調査と2022年の第8回調査を科学的リテラシーで比較すると、チリ、ウルグアイ、コロンビア、メキシコ、アルゼンチン、ブラジルという対象6ヶ国すべてでランクを落としている。第5回から参加したペルーは順位を6ポイント上昇させているが、コスタリカは順位が落ちている。第6回からの参加のドミニカ共和国もランクを下げている。ラテンアメリカでの教育の重点は、算数教育と科学教育にあると言えそうだ。

表6 PISAテストの成績のランキングの推移(ラテンアメリカ諸国)科学的リテラシー

国名 2022 2018 2015 2012 2009
チリ 43 45 41 46 40
ウルグアイ 45 54 44 54 43
コスタリカ 54 60 48 51
コロンビア 54 62 50 57 53
メキシコ 57 57 51 55 49
ペルー 59 64 54 65
アルゼンチン 60 64 58 51
ブラジル 61 64 53 59 52
ジャマイカ 61
パナマ 65 76
グアテマラ 72
エルサルバドル 72
パラグアイ 75
ドミニカ共和国 77 78 56
対象LA国数 14 10 8 8 6
調査対象国・地域数 81(73) 79 70 65 65

 

「調査実施側のいくつかのコメント」

ここでは、調査の実施機関であるOECDのいくつかのコメントを紹介する。

*今回の調査では数学を中心に、COVID-19パンデミック前後の生徒の成績、幸福度、公平性に関するデータを初めて収集した。全体として、PISA2022年調査では、OECD全体で平均成績がかつてないほど低下した。2018年と比較して、平均成績はリーディングで10点、数学で15点近く低下した。成績の低下は部分的にしかCOVID-19の流行に起因しておらず、2018年以前からリーディング・サイエンスと数学の得点低下はすでに明らかであった。

*カンボジア、コロンビア、コスタリカ、インドネシア、モロッコ、パラグアイ、ルーマニアを含む多くの国々が、この10年間で教育へのアクセスを急速に拡大し、例えば普遍的中等教育に向けて大きく前進した。

*COVID-19パンデミックの影響を分析すると、OECD全体で約半数の生徒が3ヶ月以上の休校を経験した。しかし、アイスランド、スウェーデン、チャイニーズ・タイペイのように休校が限定的な教育制度と、ブラジル、アイルランド*、ジャマイカのように休校が長期化した教育制度の間で、成績の傾向に明確な差は見られなかった。

*この調査では、困っている生徒を助けてくれる教師がいるかどうかが、OECD全体で数学の成績と最も強い関係があることもわかった。

*この調査では、子どもたちの教育成績に対するテクノロジーの影響が急速に変化していることも明らかになった。PISAによると、学校でのデジタル機器の適度な使用は、成績の向上と関連しているが、これは、学習から目をそらすのではなく、むしろ学習を支援するためにテクノロジーが使用されているかどうかによる。

*OECD加盟国の平均で、45%の生徒が携帯電話が近くにないと緊張したり不安になったりすると回答し、65%が少なくとも一部の数学の授業でデジタル機器を使って注意散漫になると回答した。アルゼンチン、ブラジル、カナダ、チリ、フィンランド、ラトビア、モンゴル、ニュージーランド、ウルグアイでは、その割合は80%を超えた。

また世界銀行のブログでは、「ラテンアメリカとカリブ海諸国における青少年の学習危機:新PISA結果の初見」(The learning crisis of adolescents in Latin America and the Caribbean: A first look at the new PISA results)というタイトルで、世界銀行の人間開発デイレクターのJaime Saavedraと米州開発銀行の社会部門マネージャーのFerdinando Regaliaは、下記のような4つの問題を提起している。

  • ほとんどのラテンアメリカ諸国の15歳児は、社会経済的格差の深い学習危機に直面している。ラテンアメリカ諸国では平均して、生徒の75%が数学の基礎的習熟度を下回り、55%が読解の習熟度を下回っている。これは、これらの青少年が、社会や将来の学習に効果的かつ生産的に参加するために必要な知識を示すことができないことを意味する。成績の男女差は教科によって異なり、一般的に男子は読解力で遅れ、女子は数学で上回っている。急速に変化する仕事の世界における将来の雇用可能性や収入など、個人の成功や、より一般的な発展のためには、青年期に基礎的スキルを強化することが重要であることを考えると、この結果は、将来の生産性と成長の可能性について非常に懸念すべきシグナルを示している。
  • 第2に、OECD加盟国の生徒とLAC諸国の生徒の間には、学習成果において大きな隔たりがある。LAC14カ国のうち、リーディングのチリを除く14カ国は、OECD加盟国を下回っている。単純な指標を用いると、数学の場合、OECD加盟国の平均的な生徒に対するLACの平均的な生徒の得点の不足は、学校教育の5年分に相当する。
  • 第3に、学習成果は正しい方向に進んでおらず、ほとんどの国で低い成績が増加しており、回復と加速学習のための的を絞った介入策の実施が急務となっている。これは特に数学で顕著で、2018年PISAラウンドと比較すると、12カ国中7カ国で、より多くの生徒が基礎的習熟度を下回っている。こうした変化は、数学のベースラインの成績が非常に低い状況において非常に顕著である。
  • 第4に、2018年から2022年にかけて学習水準が低く不平等であり、学習習熟度が後退しているというこの図式は、パンデミックによる損失に部分的に起因しているとしか考えられない。新PISAデータはパンデミック後初の国際学習評価だが、2020年のおよそ1年前(2017年にPISA for Developmentに参加したパラグアイは2年前)と1年後の変化も反映している。しかし、パンデミックがこの暗澹たる図式に寄与していることは、国内評価が更新されたすべての国について、初等教育でほぼ普遍的な学習低下が観察されたことでも検証できる。            以  上