福田 恵理(在ブラジル大使館 三等書記官) / 山内 創(同上)
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ルーラ政権1年目の環境政策 -ボルソナーロ政権との比較を通じて 福田 恵理・山内 創(在ブラジル大使館三等書記官)
はじめに
2022年11月にエジプトで開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(COP27)には、当時のボルソナーロ大統領ではなく、その前月に決選投票で大統領選を制したばかりのルーラ氏が出席した。この舞台で、就任前のルーラ現大統領は演説で、「ブラジルが(国際社会に)戻ってきた」と宣言し、特にボルソナーロ政権の環境政策を批判してきた欧米を中心とした各国メディアにより好意的に報じられた。また同演説では数々の野心的ともいえる環境関連政策を打ち出した。これらは新政権発足から1年、着々と実行されつつある。
他方、ボルソナーロ政権へのアンチテーゼとして船出を切ったルーラ政権においても、環境保護と自国産業の発展といった命題からは逃れられない関係にあるようだ。このような状況にあって、ルーラ政権は法定アマゾンの構成州である北西部アクレ州出身の、マリーナ・シルヴァ氏を第一次政権から引き続き環境分野を所掌する大臣に据えている。ブラジル国内はもとより、世界的に有名な環境活動家であるシルヴァ氏を新政権の環境分野における、いわばアイコン的存在として環境・気候変動大臣に登用したルーラ政権の意図には、同大臣の専門性を超えた思惑も垣間見える。
本稿では、まず、ボルソナーロ前政権の環境政策に対するブラジル国内外での評価を振り返り、ルーラ現政権の環境分野における取り組みと今後の展望を概観する。執筆者は、職務上、環境・気候変動省をはじめとした、ブラジル政府関係者と環境問題について議論することが多いが、その際、同分野における先方からの日ブラジル協力への期待はことのほか大きい。本稿末尾では、環境分野における日本の対ブラジル技術協力についても紹介する。
ボルソナーロ政権の環境政策と対外認識
2019年の政権発足から2021年6月に罷免を受けるまで、ボルソナーロ政権で環境大臣を務めたサレス大臣は演説で、環境分野における旧態依然とした意思決定プロセスの排除と各種検査の迅速化を目指すと述べ、政権発足後間もなくして、ブラジル環境審議会(CONAMA)の定員削減に踏み切った。環境許認可に関する規範や基準、および環境汚染防止に関する基準を制定する権限を有する同組織は、連邦、州、市町村政府や企業、市民社会の代表者、約100名から構成される機関であったが、ボルソナーロ政権発足の半年後には地方政府や市民社会の構成員を大幅に削減し21名に減員されている。
また、実行には至らなかったものの、2015年に署名を行ったパリ協定の脱退も示唆し、ブラジル国内で同協定を所管する部局の機能縮小を行った。
さらに、2019年7月にボルソナーロ大統領が、国立宇宙研究院(INPE)の森林伐採や森林火災に関するデータの信憑性を疑う発言を公然と繰り返し、INPEのガルヴァン所長が応戦したことで大きな波紋を呼んだ。一連の議論におけるボルソナーロ政権の主張は、INPEが森林破壊のデータを水増しして発表することで、政権にダメージを与えようとしているとの趣旨であった。
上記のような一見過激ともとれるボルソナーロ政権の根底にあった行動原理はどのように形成されたのであろうか。
この点、ボルソナーロ政権で外務大臣を務めた、アラウージョ大臣が掲げた、「反グローバリズム」理念があったと考えられる。ブラジル国内の大学で教鞭を執るある識者によると、ここでいう「反グローバリズム」とは、国際潮流を意味するグローバリゼーションに対抗すべきという趣旨ではなく、国際的なアジェンダを建前として、主権国家の行動を不必要に制約する流れを指すものとのことである。つまり、環境や人権等の分野で国家主権の意思決定が軽視される場面が多々あり、このような分野では、西欧諸国のNGOの論理が支配的で、各国政府へのロビー活動により国連委員会等の場で新たなルールが作られ、主権国家の利益が制約を受けるという構図である。さらに、欧米諸国の理念を行動に移す現地NGOに環境保護関連予算が流れるという、既存の構造への挑戦といえる理念であったのだろう。