林 瑞穂(在ウルグアイ大使館 一等書記官、農林水産政策研究所 客員研究員)
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第三次ルーラ政権に対する金融市場の評価と同政権における農業部門・農業政策の動向 林 瑞穂(在ウルグアイ大使館一等書記官・農林水産政策研究所 客員研究員)
2023年1月1日にルイス・イナシオ・ダ・シルヴァ(以下、ルーラ)大統領による第三次政権がスタートし、執筆時点(2023年12月11日時点)で11か月が経過した。本論では、これまでの第三次ルーラ政権の軌跡について、ブラジルの主要産業である農業を切り口に論考を試みたい。その際、金融市場における現在のブラジルに対する評価、また2023年の農業生産や輸出の実績を整理するほか、農業に関する政策に係る第三次ルーラ政権とボルソナーロ前政権の類似点と相違点について簡単に考察する。
第三次ルーラ政権に対する金融市場の評価
2022年10月30日にブラジル大統領選決選投票が実施され、2003年から2010年の8年間で2期の大統領職を務めた労働者党(PT)のルーラ氏は、50.9%の得票率で49.1%のボルソナーロ現職大統領に僅差ながら勝利し、これにより3期目の大統領職就任となった。ラテンアメリカ地域ではコロンビアやチリで左派政権が誕生しており、ブラジルにおいても、今回の選挙により2016年以来の左派勢力が政権を担うことになった。
対立候補者であったボルソナーロ氏は敗北宣言を行わなかったほかに、2023年1月1日の就任式にも出席しなかった。そして、2023年1月8日にはブラジリアでボルソナーロ支持者が大統領府・連邦最高裁判所・国会議事堂を襲撃(三権広場襲撃事件)するというブラジル国内の分断を象徴する事件が生じた。この事件の背景について、2023年6月5日のBBC News Brasilによる報道では、ジェトゥリオ・ヴァルガス財団のオリベール・ストゥエンケル准教授が指摘するブラジルにおける極右を中心とした急進的な運動や、政治学者であるグラウコ・ペレス氏が論じる左派政党に対する忌避感を背景とする反労働者党主義(Antipetismo)の存在等を紹介している。