『褐色の世界史 -第三世界とはなにか【増補新版】』 ヴイジャイ・プラシャド - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『褐色の世界史 -第三世界とはなにか【増補新版】』 ヴイジャイ・プラシャド 


欧米の植民地から独立し、冷戦期米国とソヴィエト連邦の二大勢力の間に挟まれた褐色の人々は第三世界として結集した。それぞれで新たなリーダーが現れ、国連を利用して自分たちの要求を推し進めようとしたが、西側諸国のほとんどは共産主義の脅威と見做し、新生諸国の政治勢力間の確執を利用して対抗勢力を支援し打倒を図った。褐色の人々は希望と躍進の夢は政治の挫折と裏切りに阻まれ「家畜のように引きずり回され、「第三世界は抹殺された」と著者はいう。
第三世界は、現在開発途上国、経済的後進国と同義で言われることが多いが、旧植民地が独立して先進国と並ぶようになることを目指しただけではなく、西洋先進国文明の限界を乗り越えるという理念をもっていた。本書は理念が誕生したパリ、第三世界の形成の場として1927年に反帝国主義連盟の第一回会議が開催されたブリュッセル、1955年にアジア・アフリカ会議が開催されたバンドンをはじめ18都市を舞台として取り上げ、この理念がいかにして出現し消えていったかを、第三世界の視点から激動の20世紀の歴史、運動、そしてそれらを経た現在の挫折した姿を概観したものである。
ラテンアメリカからは、一次産品の交易不利から脱却するために輸入代替化を説いた開発経済学者プレビッシュが出たブエノスアイレス、1966年に三大陸から第三世界のリーダー達が結集し人民連帯会議が開催されたハバナ、米国政府が陰で支援し軍事クーデターを起こさせ、主要産業の国有化や土地改革を阻止する事例の先駆となったボリビアのラパス、セブンシスターズ(7大エネルギー多国籍企業)による「悪魔の排泄物」石油支配によりロイヤリティの交渉や国有化をめぐる駆け引きがあり後にOPECを誕生させたベネズエラのカラカス、IMF主導の厳しい融資条件で資本主義システムへ組み込まれグローバリゼーションの舞台となったジャマイカのキングストンが取り上げられている。
本書は2013年に刊行されたものの増補新版。どの章も第三世界に関する基礎的な史実、世界の政治・経済の近代史の要所を解説した内容の濃い読み物となっている。著者はインド出身の歴史学者で米トリニティ・カレッジ教授。

 〔桜井 敏浩〕

(粟飯原 文子訳 水声社 2023年8月 463頁 4,000円+税 ISBN978-4-8010-0748-2)
〔『ラテンアメリカ時報』2023/24年冬号(No.1445)より〕