『ブラジル日系人の日本社会への貢献』 梅田 邦夫 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ブラジル日系人の日本社会への貢献』  梅田 邦夫


 本書は「日系人」のことをもっと知り大切にしなくてはならない、日本社会の様々な分野で貢献しているブラジル日系人が多く居ることを知って欲しいという動機から、元駐ブラジル大使、現(公財)海外日系人協会理事の著者が熱い思いで綴った解説書。
第一章「日本で活躍するブラジル日系人」では、サッカー評論家セルジオ越後、真宗大谷派の大谷暢裕門首と大谷裕新門(次期門首)、ベレン総領事にまでなった外交官関口ひとみ、出稼ぎで来日し起業し葱王と呼ばれる深谷の農業経営者であり在日ブラジル人子弟のための学校を運営する斎藤俊男各氏など10人を紹介し、第二章「在日日系人三十年の歴史から学ぶべき教訓」では、アンジェロ・イシ武蔵大学教授はデカセギが定住・永住化し、今は日本社会の一員としての意識が薄れたということではないが世界におけるブラジル系ディアスポラの一員にと変容してきた歴史を述べ、国・地方自治体が行うようになってきた多文化共生政策の一方で取られた2008年のリーマンショック後の「帰国支援事業」や日系人・永住者の空港での指紋採取や新型コロナウイルス感染症禍の中での外国人扱いによる再入国禁止という差別、2018年の新たな長期滞在制度での日系四世ビザのあまりに厳しい条件付けなど非友好的な施策があったことを挙げ、二重国籍・条件付き生地主義の採用を提言、都合のよい安い労働力呼び込みではなく在日ブラジル人を人材の宝庫と捉えるべきと主張、第三章「海外移住の時代からデカセギの時代に」では、日本人の海外移住と日本への逆流を19世紀末から現在までの変化の節目を見て、今後の外国籍定住者の高齢化、子女の日本語等の教育、そして日系四世の在留資格制度条件の緩和、外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策の実施など、今日の課題を指摘している。                       

 〔桜井 敏浩〕

(東京図書出版発行・リフレ出版発売 2023年10月 183頁 1,200円+税 ISBN978-4-86641-693-9)
〔『ラテンアメリカ時報』2023/24年冬号(No.1445)より〕