『海賊たちは黄金を目指す -日誌から見る海賊たちのリアルな生活、航海、そして戦闘』 キース・トムスン - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『海賊たちは黄金を目指す -日誌から見る海賊たちのリアルな生活、航海、そして戦闘』 キース・トムスン


 本書は1860年前後にカリブ海から中南米にかけてスペインの植民地や中南米産出の金銀や商品を満載する商船を襲ってまわったイングランド、フランス、オランダ出自の海賊たちがどのような戦法で闘い、日常はどう過ごしていたかを、同じ海賊団の7人のバッカニアが書き遺した航海日誌を基に、その生き様を克明に再現したものである。書き手の一人には後年『最新世界周航記』(岩波文庫、2007年)を著わし世界的な博物学者となったウィリアム・ダンピアもいる。
 カリブ海では中南米の金銀等の財宝を本国に運ぶスペイン船を狙った海賊が横行していたが、その一部が南海と呼ぶ太平洋岸のパナマ市等を、ダリエン地峡を陸路で横断して襲うことを思いつき、ジャマイカから1680年3月に先住民と組み徒歩とカヌーでジャングルに踏み入りパナマの周辺の町を襲撃した。しかし南米の金銀積み出し港で商船を奪う方が利益をより得られると考えアリカ(現在のペルー南部)などの町を狙うことにしたが、スペイン側も各港湾の防備を整え海賊討伐の艦隊を差し向けてきたため引き揚げざるを得なかった。その後真冬の南米最南端ドレイク海峡を回り、1682年春にやっと西インド諸島に辿りついた。ここで海賊団は解散、一部はカリブに残りバッカニアを続け他はイングランドに戻ったものの、スペインと対立し陰で私掠船を奨励していた英国政府がスペインと和解策を進め、その要求で海賊を取り締まるようになっていた。
 本書はこの2年にわたるバッカニア集団の冒険と苦難に満ちた旅の顛末を再現するとともに、当時の海賊集団が民主的に投票で船長や襲撃等の行動を決めていたこと、長期の食料や飲料水の不足、壊血病や熱帯病、戦闘等による負傷への対応などの日常生活を描いており、スペインの植民地の防御体制構築や海賊対策などにも言及していて、読んで飽きることのない歴史ドキュメンタリーになっている。

 〔桜井 敏浩〕

 (杉田七重訳 東京創元社 2023年7月 383頁 2,700円+税 ISBN978-4-488-00398-2)
 〔『ラテンアメリカ時報』2023/24年冬号(No.1445)より〕