これまで人間中心で見てきた社会・文化人類学と考古学から、環境という人間の活動資源以上に、人間が環境を知覚し働きかける行為、生の営みにおいて切り離すことができないのが「景観」であるという視点から、人類学者と考古学者が一緒になって広く比較を可能とする枠組みを模索した初の試み。
本書は、景観の概念を使う意義はどこにあるか、景観の概念を使うことによってどのような知見がもたらせうるかをアンデス、エルサルバドルの遺跡のみならずオセアニアのクック諸島の祭祀建造物やラオスの水辺集落、日本の神戸での事例を交え、12名の人類学・考古学研究者がそれぞれの地域の遺跡や文化遺産の公共性に鑑み考察した論集。
南米アンデスではBC4000年前後に継続的に行われたマウンド(土盛り基壇)ビルディング(庄司 一歩 山形大学講師)、神殿の出現と変容(松本 国立民族学博物館准教授)、神殿の繰り返しの利用(山本 山形大学准教授)、エルサルバドルの火山灰に埋もれた遺跡の建築工程(市川 彰 金沢大学准教授)、ペルー北部住民の山の形状をめぐる一定のイマジネーションの形成(古川勇気 新潟県立大学講師)の事例研究が取り上げられている。
〔桜井 敏浩〕
(臨川書店 2023年12月 277頁 4,000円+税 ISBN978-4-653-04633-2)
〔『ラテンアメリカ時報』2023/24年冬号(No.1445)より〕