『わたしは、不法移民 -ヒスパニックのアメリカ』 カーラ・コルネホ・ヴィラヴィセンシオ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『わたしは、不法移民 -ヒスパニックのアメリカ』 カーラ・コルネホ・ヴィラヴィセンシオ


著者はエクアドルに生まれ、4歳で米国に渡って両親とともに不法移民として暮らしながらハーバード大学を卒業しイェール大学で博士号取得に必要な資格を取得、現在は米国市民権を得ている。2016年の大統領選挙でトランプ当選の翌日に本書の執筆を決断したという。
日雇い労働者、掃除婦、建設作業員や犬の散歩係、配達人として働く多数の不法移民にインタビューし、英語を解さず身分証明書類を持たない日雇い労働者が搾取され、ハリケーン被害や9.11同時多発テロの「グランド・ゼロ」の過酷な後片付け作業の実態とその後健康被害に長く苦しんだ不法移民労働者の実態を聞く。医療保険の恩恵に与かれず「代替医療」やブードゥー、サンテリアといった民間宗教に走らざるを得ない移民、ひどい就業状況下にある家政婦の仕事、不法移民労働なしでは公共サービスの低下が顕著になる実情、不法移民家族の強制送還(国外退去)の恐怖、子どもたちのメンタリティの屈折、家族の解体を多くを見聞した。本書は個々の移民の経験に寄り添った、米国でのヒスパニック系不法移民側から描いた克明なルポルタージュである。

 〔桜井 敏浩〕

(池田年穂訳 慶應義塾大学出版会 2023年6月 238頁 2,400円+税 ISBN978-4-7664-2896-4)
 〔『ラテンアメリカ時報』2023/24年冬号(No.1445)より〕