ボリビアへの日本人移民は戦前のペルーから転出した日本人移住の歴史から始まり、戦後ボリビア東部サンタクルス市の近郊に沖縄等から日本人が入植しコロニア・オキナワとサンファンが建設されたことから本格化した。著者は国際協力機構(JICA)の前身の一つ海外移住事業団職員として1969年から1974年の間ボリビアのサンタクルス支部、1977年までJICAに勤務後、紫檀家具を加工する日本ボリビア合弁会社の社長として1978年にサンタクルスに再赴任、1983年までその経営に携わった経験をもつ。本書はその後の2018年の沖縄県民ボリビア移住110年周年記念式典に至るまでの著者とボリビアとの関わりの記録である。移住事業団支部在勤時に創設に関わった「コロニアオキナワ農牧総合協同組合(CAICO)」の初期の歴史を書き残そうと考えて纏めた日本語版を読めない世代の日系人に残すためにスペイン語版も出版した。
コロニアオキナワの開拓は苦難続きで、何度も水害と干ばつに苦しめられ、離脱者が相次ぐほど貧困から抜け出せないでいた。その起死回生策として綿花事業に乗り出したが、間もなく天候異変とオイルショック後の価格暴落によって膨大な借金を残すに至った。著者は移住事業団職員でありながら経営顧問という肩書きでCAICOの運営の中枢にいたことから、移住地に多額の借金を負わせた張本人と糾弾されたが、その後コロニアで適作農産物が高収益をもたらし、綿花栽培で導入した機械化大規模農産体制によりいち早く対応できたことからあの時の苦難あってこそ今のコロニアがあったと再評価され、これまで創設期の歴史の中で皆が沈黙を守っていた部分を後世に伝えるべく本書を執筆したという。ボリビアでの日本人移住地開拓の苦労、綿花栽培事業の失敗、機械化大規模農業の開花など、ボリビア開拓の実情を知る上での貴重な、しかも二か国語による記録である。
〔桜井 敏浩〕
(日本語原版:琉球新報社 2022年5月 287頁 1,900円+税 ISBN978-4-86764-003-6)
(スペイン語版:明石書店 2023年10月 210頁 2,500円+税 ISBN978-4-7503-5669-3 )
〔『ラテンアメリカ時報』2023/24年冬号(No.1445)より〕