『ホセ・グァダルーペ・ポサダの時代 -十九世紀メキシコ大衆印刷物と版元バネガス=アロヨ工房』 長谷川 ニナ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ホセ・グァダルーペ・ポサダの時代 -十九世紀メキシコ大衆印刷物と版元バネガス=アロヨ工房』 長谷川 ニナ


メキシコの版画師で政治風刺画を得意とし、生涯3万点もの作品を残したホセ・グァダルーペ・ポサダ(1852~1913年)は、後に壁画運動をリードしたリベラやオロスコにも大きな影響を与えた近代メキシコ絵画の祖といわれるが、生前に芸術家として評価されることはなく、貧困のうちに没した。彼の代表的な作品は死者の日のイメージとして知られる華やかに着飾った髑髏の貴婦人像であるが、卑猥、低俗に流されることはなく、庶民の生活、風俗を描き哀感を描いたものだった。その絵の大半は庶民向けの安価なhojaと呼ばれる1枚紙の印刷物で出版され、その版元はアントニオ・バネガス=アロヨだった。
本書はポサダの作品、バネガス=アロヨ工房から出版された多くの図版に、それらの時代背景、風刺の意味、大衆文化資料としての意義、さらにポサダと工房の関係などを分析し、当時のメキシコの庶民文化や哀感を読み解こうとした労作。著者はメキシコ市出身、1978年に来日し、現在、上智大学外国語学部教授。 

 〔桜井 敏浩〕

(八木啓代編訳 上智大学出版発行・ぎょうせい発売 2023年9月 317頁 2,000円+税 ISBN978-4-324-11329-5)
〔『ラテンアメリカ時報』2023/24年冬号(No.1445)より〕