連載エッセイ313:硯田一弘「南米現地最新レポート」その54 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ313:硯田一弘「南米現地最新レポート」その54


連載エッセイ313

「南米現地最新レポート」その54

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「12月31日発」

いよいよ2023年も大晦日を迎えました。

日本でも年末になると一年を振り返る特集が新聞でもテレビでも取り上げられますが、米国のスペイン語情報誌であるEspacio de Prensaに2023年のラテンアメリカを総括する記事が掲載されたのでご紹介します。

https://www.espaciodeprensa.com/2023/12/21/retrospectiva-america-latina-los-hechos-que-marcaron-el-2023/

先ず、1月1日にブラジルで第二期ルーラ政権が発足しました。第一期のルーラ政権は2003年の1月1日~2010年12月31日。その後2018年4月から2019年11月まではマネーロンダリングと汚職の罪で拘禁されたものの、12年ぶりの政権復帰となりました。一方で、前政権を率いたボルソナロ氏は、騒乱罪で公職から追放されるという、ブラジル政治の怖さを具現化するような状況となっています。

そして4月の選挙でパラグアイの政権交代も実現しました。8月に就任したサンティアゴ・ペニャ新大統領は44歳。この記事では、パラグアイの政権がほぼ70年間にわたって継続性を維持していると特記しています。

グアテマラでは8月20日の決選投票で中道左派の社会学者ベルナルド・アレバロ氏が新年1月14日から新政権を率いることになっています。

エクアドルでは10月15日の決選投票で、史上最年少35歳のダニエル・ノボア氏が選出されました。

そしてアルゼンチンで11月にハビエル・ミレイ氏が当選、12月10日に就任したことは日本でも大きく報じられました。ミレイ氏は中銀廃止・通貨のドル化や補助金の撤廃などの大幅な制度変更を公約として当選、政権発足から三週間が経過しました。通貨アルゼンチンペソは、現在公定レートが11月のレートの半分以下のA$847/US$に下落していますが、市中で交換される並行レートはA$1025/US$と、以前公定レートの半分以下の水準だったことに比べると、二つのレートがかなり接近して、安定化に向かっていると感じられます。  https://www.lanacion.com.ar/

また治安の悪い各国の状況に触れた記述もありますが、情けないことにニコラス・マドゥロが居座るベネズエラについても、野党候補のマリア・コリナ・マチャド女史の妨害を図っていることが記載されています。

またチリの新憲法制定についての動きについても書かれていますが、これが国民投票で否決されたことについては、まだ書かれていません。

https://www.youtube.com/watch?v=Q_rF1KNcUhY

個人的には今年は新工場の立ち上げのお手伝いをはじめ、大きな仕事が増えて来て、今まで以上に大勢の皆さんのお世話になりました。来年も日本と南米の関係をより強化できるよう、頑張りますので、引き続き宜しくお願いします。では皆様、良いお年をお迎えください。

「1月6日発」

新年早々元旦に北陸での大地震、二日に羽田空港での飛行機事故と、お正月気分も吹っ飛ぶニュースが立て続けに入って、驚きとお悔やみの気持ちが続くうちにあっという間に三が日も終わり、松も取れようとしています。

一方、カトリックの世界では、12月25日のクリスマス=降誕祭の次に来る行事が、1月6日の「東方の三賢人が残した贈り物を分け合う日」です。

https://www.lanacion.com.py/pais/2024/01/05/juguetes-colman-las-calles-a-la-espera-de-los-reyes-magos/

東方の三賢人(Los Reyes Magos)は、キリストの降誕を祝うために黄金・乳香・没薬を贈り物として持ってきたとされていますが、それらの贈り物を大衆に分け与えられたのが1月6日ということで、パラグアイだけでなく、カトリックを信仰するスペインやイベロアメリカ各国で、子供達が新年に玩具や御菓子を貰える日となっています。

https://elpais.com/videos/2024-01-05/video-los-reyes-magos-reparten-ilusion-en-las-cabalgatas-por-toda-espana.html

パラグアイでも街中で玩具を売る屋台が軒を連ねて、子供達を喜ばせています。

今年の玩具の特徴は、昨年大人の間でも大ヒットした映画の影響で、バービー関連の商品が圧倒的に多い様で、道路はピンク色に染まっている印象を受ける様です。

日本では7日までが松の内ということで、七草粥を食す習慣がありますが、いずこでも年末年始の休暇モードは終わり、新たな年の活動を開始する節目となっていますね。

多難なニュースで始まった新年ですが、被災した地域の一日も早い復旧・復興を、また世界から紛争が無くなるトシとなることを祈念して、新年の活動を開始したいと思います。

本年も宜しくお願いします。

「1月13日発」

2018年に前職を退職し、19年に自分の会社=極零細総合商社を立ち上げた時に作った名刺の裏に、パラグアイの位置づけを紹介する表を印刷しました。当時は電力の輸出量は世界一で、しかも全発電量が再生可能エネルギー源である水力由来ということを力説しました。

今週は、このパラグアイの電力に関する複数のニュースが新聞紙面を賑わせましたので、ご紹介します。先ずは電力供給公社ANDEが未回収の電力代金、総額2億ドル(約290億円)相当を徴収するというニュース。

https://www.lanacion.com.py/negocios_edicion_impresa/2024/01/12/la-ande-aguarda-cobrar-mas-de-usd-200-millones-de-morosos/

これによると、約15億ドルの予算規模を持つパラグアイ最大の公社であるANDEが抱える未収債権は対象者50万人以上、総額2億ドル以上、平均4千ドルとなるもので、この回収に向けて全力を投じるとしています。パンデミックの影響もあって、個人だけでなく法人も含む50万もの不履行者の中で滞納分4000ドルを支払う能力がある滞納者がどれだけいて、その会社や個人からどうやって回収するのか、気になります。公共料金のもう一つの代表格、水道を管理するESSAPも同様に滞納問題に対処する方針を表明しています。

https://www.lanacion.com.py/pais_edicion_impresa/2024/01/12/instan-a-morosos-a-ponerse-al-dia/

別の記事では、世界最大の水力発電実績を持つブラジルとパラグアイの二国間公社であるイタイプ公団での余剰電力の値決めに関する二国間での悶着の話題を取り上げています。昨年永年に亘る延払いプロジェクト代金の完済にこぎつけたパラグアイ政府は、ブラジル側に余剰電力代金の値上げを要求していますが、これが解決しないためにブラジル側で運営費がショートして支払い不履行が発生しているというニュースです。

https://www.lanacion.com.py/politica_edicion_impresa/2024/01/11/paraguay-ejerce-una-historica-presion-en-itaipu-por-mejor-tarifa/

これに関連して調べてみると、冒頭で述べた「世界一の売電量を誇るパラグアイ」は、現在では世界7位にまでランクを落としていることが判りました。

パラグアイ国内の電力需要が大幅に伸びて、輸出量が減っていることや、輸出用の電力代金が不当に低く抑えられていることなどが背景にあるようです。それから、水力発電ダムの設備能力ランキングでは、中国の三峡ダムに続いて、昨年同じ中国で白鶴灘水力発電所という新しいダムが完成して、設備能力ではイタイプを抜いて世界第二位になったそうです。 https://toyokeizai.net/articles/-/439840

とはいっても、こちらも実際に設備能力通りの発電量に達するには時間がかかりそうですので、発電実績での世界一の座は今年も引き続きパラグアイのイタイプダムということになると思われます。

地震発生から二週間経過しても、まだまだ被害の全容が判明しない能登半島の様子からも、安定した電力や水道の供給は、もっとも重要な社会インフラであり、これを維持することの大変さを教えられる今週のパラグアイ報道でした。

「1月20日発」

ガザ地区への攻撃が止まないイスラエルに対する国際的な非難の声が止まらない昨今ですが、パラグアイにとってイスラエルは重要な貿易相手国の一つです。

以下の表は2022年におけるパラグアイの輸出総額108億ドル(約1.6兆円)の仕向先別の大きさを示すもので、イスラエルは9位、金額にして1.6億ドル(235億円)を買ってくれる大切なお客様ということが判ります。

日本のパラグアイへの貢献度は23位約69億円と、非常に小さいものです。

そのイスラエル向け輸出額235億円の6割を占めるのが牛肉です。今週はイスラエルがパラグアイからの牛肉の買い付けを、これまでの精肉から、骨付き肉に拡大してくれた!というのが大きなニュースになりました。

牛肉はパラグアイにとって大豆・電力に次ぐ3番目の輸出額を稼ぐ重要アイテムであり、牛肉を生産する畜産業界は政府への強い発言力で知られる圧力団体です。

従って、牛肉を買ってくれる国はパラグアイにとっては重要なお客様で、イスラエルは買付の枠を増やすことで、脆弱な自国の食糧確保に努めている実態が浮かび上がってきます。

以下は世界の食糧自給率を色分けした地図ですが、ご覧の通り日本はアフリカ並みに低い自給率になっています。

こうしたことからも、食糧の確保は非常に重要なテーマであり、特に災害によって生産や流通が滞ることも想定すると、濃い紫色の国々とのアライアンスを真剣に検討するというのが日本政府に求められるアクションではないか、と考えます。

「1月27日発」

今週はジブチ共和国に駐在された方のお話を伺う機会を得ました。

ジブチは人口100万人弱、面積は四国の1.2倍強の小さな国ですが、紅海の出口に位置する交通の要所にあり、パラグアイもジブチも、日本にとっては馴染みが薄いという点で似通っていますが、実はどちらも世界的には非常に重要な地位を占めているということで話は盛り上がりました。https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%96%E3%83%81

ジブチは1977年にフランス領ソマリランドから独立したばかりの若い国で、国名もRepublic of Djiboutiというフランス語表記の国名になっていますが、スペイン語では下の地図で示すようにYibutiと表記されます。ブラジル=ポルトガル語ではフランス語と同じDjiboutiです。

Wikipedia日本語版によると、国名の由来は「ダウ船は着いたのか」という意味と書かれていますが、より詳細な英語版では地形を示す「皿」「台地」等の意味であるとされていて、更に詳しいスペイン語版では国名の語源に関するコメントはありません。

https://es.wikipedia.org/wiki/Yibuti

いずれにしても、Wikipediaでは日本語の説明が無いものや、あっても説明が怪しいものが目につきますので、文献を調べる際には注意が必要です。ジブチの経済に関しても、一人当たりGDPの金額が日本語では少なめに書かれていて、日本の相対的地位を高めたい意向が働いているように感じます。

ダウ船という船に関する言葉が国名になった説を信じることにして、ではダウ船とは何か?というところで真面目に世界史の勉強をした人にしか判らないであろう、この船をご紹介します。

要するに、帆掛け船ですが、この帆の材料はヤシの繊維を織ったものであったようですが、世界的には帆布の原料は麻だけでなく綿も多く使われていた様です。

そこで今日の言葉として綿=algodonをご紹介します。というのも、La Nacion紙の日曜版Focoに、チャコ地方の綿に関する記事が掲載されていたからです。

https://foco.lanacion.com.py/impreso/2024/01/08/algodon-en-el-chaco-enero-2024/?_gl=1*15s41qx*_ga*MTgzNzE3OTMwLjE2NjI4ODk4Mjg.*_ga_Q77GPGY3HP*MTcwNjMwMjIzOC40MjUuMS4xNzA2MzAyNjE0LjU5LjAuMA

かつては日本でも岡山県など多くの地域で綿の生産が盛んにおこなわれていましたが、大規模栽培での安価な原料に圧されて国内生産量は激減し、現在では年間約10万トンの需要の100%がオーストラリア・米国・ブラジル等の国々からの輸入品で賄われているのが実情となっていhttps://www.naro.affrc.go.jp/archive/nias/gmogmo/information/general/cotton_2014.pdf

衣食足りて礼節を知る、と言いますが、衣料の重要な地位を占める綿は完全に輸入に頼っている訳です。では、主要な生産国はどこか?というと、世界の総生産量約2500万トンの7割以上がインド・中国・米国・ブラジルのトップ4カ国によって占められています。https://ja.atlasbig.com/mian-hua-sheng-chan-guo

そうした寡占状態が見られるものの、衣服や寝具の重要な原料となる綿は世界各国で生産されており、パラグアイでも綿の生産面積は拡大しています。綿の品質は、繊維の長さと丈夫さで決まると言われ、南米ではペルーのピマ綿は有名ですが、実はパラグアイ産の綿も品質の良さが評価されています。食糧だけでなく、衣料をも支えるパラグアイ農業について、アフリカの角ジブチの重要さと共にお伝えします。

以    上