連載エッセイ323:硯田一弘「南米現地最新レポート」その55 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ323:硯田一弘「南米現地最新レポート」その55


連載エッセイ323

「南米現地最新レポート」その55

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「2024年2月4日発」

パラグアイでは2月5日から学校の新学年が始まります。で、今週大いに話題になっているのがmerienda escolar=学校給食です。パラグアイに学校給食の制度がもたらされたのは、日本の国際協力機構JICAの指導によるもので、中南米諸国の中でも学校給食制度が行き渡っている国はパラグアイやブラジル等8カ国しかありません。

https://publications.iadb.org/publications/english/viewer/state-of-school-feeding-in-latin-america-and-the-caribbean.pdf

学校給食制度先進国と呼べるパラグアイですが、その運用面においては、多くの問題を抱えており、国が支給する給食予算が末端の生徒達に行き渡っていないのが実情です。

https://www.lanacion.com.py/politica_edicion_impresa/2024/01/30/solo-200-mil-alumnos-reciben-alimentacion/

つまり、予算の中抜きが生じており、十分な内容の給食が提供されていない学校が沢山あるのです。

https://www.abc.com.py/nacionales/2024/01/31/hambre-cero-intendentes-no-estan-de-acuerdo-con-fuente-de-financiacion/

https://www.ultimahora.com/hambre-cero-mec-explica-que-pasara-con-las-investigaciones-y-fondos-para-infraestructura

こうした問題に対処すべく、現政権が打ち出したのがHambre Cero=「空腹をなくそう」という政策で、給食費の管理を徹底しようとするものですが、当然のことながら、既得権益を持つ行政区や団体から懸念の声も上がっており、今週最大の政治テーマとなっていました。

昨年8月のサンティ・ペニャ政権発足以来、これまでパラグアイが抱えていた数々の問題を解決しようという前向きな努力がなされている印象を持ちますが、今まで利権で食べてきた層からは反発が出るのは当然の動きです。

隣国アルゼンチンでも、昨年12月に発足したハビエル・ミレイ大統領の新政権が、数々の施策を打ち出しながら、半世紀以上に亘って国に食べさせてもらったとする層の人達から猛烈な批判を受けています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240125/k10014333961000.html

ベネズエラでは、バラマキを行うことの引き換えに投票を買うチャベス→マドゥロ政権が20年以上に亘って居座りを続け、今年行われる大統領選挙での野党候補の出馬を無効にする措置をとって、更に居座りを正当化しようとしています。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20231026/k10014237811000.html

同じような大衆迎合型の政治は、ブラジルを筆頭に中南米諸国で行われ、多数決で物事が決まる民主主義の弱点を露呈した形になっていますが、にもかかわらず、パラグアイやアルゼンチンで国民の痛みを伴う改革が行われようとしている点は、日本でももっと注目されて良いと思います。

能登半島で被災した皆さんも、寒さや空腹を抱えて震災発生後1カ月以上経過した今も不安な生活を強いられています。その一方で万博の開催というお祭り騒ぎに多くの税金をつぎ込んで一時だけ苦境を忘れさせようとする日本政治の姿は、多くの国民が低賃金やモノ不足に苦しみつつ、少額の年末ボーナス支給で支持を繋ごうとするベネズエラの姿と重なって見えるようにも思えます。

https://www.pauta.cl/dato-en-pauta/2023/12/13/aguinaldo-navideno-en-venezuela-destinados-a-empleados-publicos-y-pensionados.html

因みに今住んでいるHernandarias市は近くの国境橋を渡るだけで隣国ブラジルに行くことが出来るので、頻繁に往来を重ねていますが、この際に目立つのが、ブラジル側で物乞いをする人たちが持つ「FOME(空腹)」というサインボードを持つ人達。

いつの時代も社会にとって最も重要な課題は、如何に空腹を無くすか?であると思います。

「2月11日発」

今週はアルゼンチンの新大統領ハビエル・ミレイ氏の動静に世界が注目した一週間でした。彼はダボス会議に出席後、イスラエルを訪問し、テルアビブからエルサレムにアルゼンチン大使館を移すと言明、ユダヤ教徒として嘆きの壁の前で祈りを捧げました。

https://www.bbc.com/mundo/articles/c3g3p20v9keo

イスラエルのガザ地区攻撃を強く非難する南米各国とは一線を画し、最もイスラエルに近い国家元首となったミレイ氏の言動は、米国大統領選挙にも強い影響を与えると言われています。先にイスラエルへの牛肉輸出の件についてお知らせしましたが、パラグアイもまた、イスラエルとは永年に亘って強い関係を維持しており、前政権時に一時イスラエルとの国交を断ってパレスチナとの外交関係を結んだ時期はあったものの、現政権では親イスラエル寄りの外交方針となっているので、ミレイ氏率いるアルゼンチンとペニャ氏率いるパラグアイとの関係はこうした点をみるだけでも良好なモノになると考えられます。そして週末にイタリアに移動して、日曜日の朝、バリカンでアルゼンチン出身のフランシスコ法王に謁見し、同胞として抱擁を交わしました。

https://www.lanacion.com.ar/el-mundo/javier-milei-saludo-al-papa-francisco-y-participa-de-la-misa-de-canonizacion-de-mama-antula-nid11022024/

ミレイ氏は、昨年の選挙期間中はフランシスコ法王を「社会主義者」と呼んで自信の主義主張とは相容れないとしていましたが、大統領への就任が決まると一転して「歴史上最も偉大なアルゼンチン人」と呼んで、一部の国民の間で生じていた反発を抑える姿勢に修正しました。

https://www.lanacion.com.py/mundo/2024/02/11/el-primer-abrazo-entre-el-papa-francisco-y-javier-milei/

パラグアイ国民の多くはローマカトリック教会の信者であり、ペニャ大統領も昨年11月にバチカンを訪問しています。

同じ宗教観を持つ両国の関係は、これまで以上に強化されると思われます。日本では信教の自由が保障されつつも、行き過ぎた集金行為等から、反社会的な捉えられ方をする宗教も話題になっていますが、色々な人種や宗教を包含しつつ、国家の繁栄を目指すという点で、南米の国々の姿勢を見習うべき部分があるように感じます。

今日の言葉、compatriotaのpatoriotaは「愛国者」と訳されますが、patrioとは祖国や出身地の、という意味の言葉であり、近世の為政者達の都合で引かれた国境という概念を、もっと昔に遡らせれば、人類は皆同胞であり、同胞同志で争うことを止めさせる工夫をすることこそが、政治家に託された重大な使命だろうと思います。

Netflixの最新番組で、1985年の大ヒット音楽”We are the World”が如何にして作られたか?というドキュメンタリーが配信されています。

https://www.netflix.com/tudum/articles/greatest-night-in-pop-release-date-cast-news

この音楽がリリースされた年、若手社員として米国諸州を車でドサ周りする研修を受けていましたが、朝から晩までどのラジオ局でも流されるこの楽曲に、当時辟易としていたのですが、改めてこの番組を観て、世の中を良くするための努力をすることの価値を教えられた気がします。”Japan as #1″だった80年代を御存知の方々だけでなく、若い世代の皆さんにも是非視聴頂きたい作品です。

We are the World=世界は同胞!

「2月18日発」

2月になって快晴の日が続き、草木が黄色く変色しはじめていましたが、今週は待望の雨が降り、それがほぼ一週間続きました。パラグアイの主要作物である大豆の収穫期を迎えて、今住んでいるアルトパラナ県界隈では収穫の終わった畑が殆どですが、他に地域で行われている晩昨の収穫にはプラスの効果をもたらしているようです。

”Lluvias favorecen al campo y reaniman a productores, afirman”(雨は農地を潤し、農民を元気づける)

https://www.lanacion.com.py/negocios/2024/02/17/lluvias-favorecen-al-campo-y-reaniman-a-productores-afirman/ また、この雨の御蔭で猛烈だった暑さも少し緩和されて比較的過ごしやすい週末となりました。

今作の大豆は1030万トンの収穫が予想されており、大豆の販売によるドル収入を現地通貨Guaraniに換金する需要が活発になっているので、パラグアイ通貨が対ドルで強くなっています。   https://www.xe.com/es/currencycharts/?from=USD&to=PYG

今週は金曜日にアスンシオンで所用があってエステ市から340㎞の道のりを走ってきましたが、グアラニ高の影響はガソリン価格にも反映されて昨年と比べると価格が下がってるので、運転手も元気付けられています。

↑ここは20㎞以上にわたって直線が続きます。

↑昨年完成した聖地カアクペの迂回バイパスも景色の良さが自慢です。

燃料の南米各国の価格比較の記事も掲載されましたが、パラグアイは中南米各国の中では比較的自動車燃料価格が安いと指摘されています。

https://www.lanacion.com.py/negocios/2024/02/16/paraguay-se-ubica-entre-los-paises-de-la-region-con-el-combustible-mas-barato/

この地図を見る限り、国策で極端に安い料金で燃料を提供している産油国ベネズエラやエクアドルが安いのは当然ですが、ボリビアの安さはチョッとカラクリがあって、外国人はこの二倍以上のガイジン料金が適用されます。ベネズエラは1ℓ≒5円。以前と比べると随分上がった印象ですが、それでも60ℓタンクの大型車の給油が300円で済むという異常なレベル。

地図には出ていませんが、コスタリカ 1,425 ドル、メキシコ 1,423 ドルということで、ウルグアイ・チリ・ペルーの価格が割高であることが判ります。道路整備の状況も改善されていますし、燃料代も比較的安いので、ドライブを趣味とされる方々も、是非パラグアイに走りに来てください。綺麗な景色を観ながらの運転は元気になりますよ。

「2月25日発」

今週前半はまたペルーを訪問、農産物の大産地に成長したIcaのブドウ園や各種作物の栽培の様子や、リマ近郊の工業地帯を視察してきました。

ペルーの地理的特徴は、乾燥した海岸部=Costa・高い標高の山岳部=Sierra・アマゾンに繋がる密林地域=Selvaという三つのエリアに大別され、それぞれが大いに異なった環境や植生を持つことです。

今回訪問したIcaもかつては乾燥した砂漠地帯でしたが、近年の灌漑技術の発達によって大農産地に成長した訳です。ペルーの農業生産額は2000年の6億ドルから2020年には100億ドルへと急成長を遂げており、その殆どが海岸部の灌漑強化の成果であると言え、アスパラガスやアボカドなど、世界の主要産地に成長した作物も沢山あります。また、今回訪問したブドウ園では800ヘクタールの農園で葡萄の栽培を行っており、醸造酒であるワインや、ピスコという蒸留酒の生産を行っています。

乾燥した気候と昼と夜の温度差の開きが大きいことが、良いブドウをつくる条件とされており、その意味でもIcaは要件を満たした良い産地であることが理解できます。

ここに至る道路の整備が進んだことも農業成長の要因であることは昨年11月にもご紹介しましたが、僅か3ヶ月しかたっていないのに空港の拡張工事もかなり進展している印象を受けました。

今回も訪問できませんでしたが、リマの北約70㎞のところで開発中のChancay港の工事も順調に進んでおり、北部の幹線道路整備も着々と進展していると報じられていました。

https://elcomercio.pe/peru/de-lima-a-la-oroya-en-menos-de-3-horas-al-detalle-asi-sera-la-nueva-carretera-central-noticia/

週の後半はパラグアイに戻り、アスンシオンの港の視察にも出向きましたが、雨が少なくパラグアイ川の水位が低下しているために、普段より川下で行われた輸入新車の荷下ろし作業に立ち会うことが出来、珍しい光景を写真に収めることが出来ました。

45トンの貨物を吊るすことができるクレーンで、クルマを吊るし上げて荷下ろししている風景で、通常はPCC(Pure Car Carrier)船と言われる自動車運搬専用船でドライバーが乗り込んで積み下ろしをする訳ですが、艀で運ぶ河川輸送ではこのような方法がとられています。因みに艀は三層構造で、200台以上のクルマを運ぶことができるそうです。パラグアイの新車登録台数はコロナ以前、年間12万台と言われていましたが、ブラジルやアルゼンチンからの陸送が多くを占めるとは言え、隣国で生産していない車種はこういう方法で持ち込まれていることを知る貴重な経験となりました。

以    上