連載レポート131:桜井悌司「人間開発指数2022にみるラテンアメリカ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート131:桜井悌司「人間開発指数2022にみるラテンアメリカ」


連載レポート131

人間開発指数2022にみるラテンアメリカ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

2024年3月13日、国際連合の一組織である国連開発計画(UNDP)が恒例の人間開発報告書(Human Development Report 2023/24)を発表した。UNDPが1990年に開始したもので、今回の調査の対象国は世界の193ヶ国で2022年を基準としている。

報告書の元となる人間開発指数(HDI)は、世界各国の人間開発の程度を測るための物差しとして発表された。具体的には、各国の人間開発の達成度を ①長寿で健康的な生活、②知識、③人間らしい生活 という3点から測ったものである。それぞれの項目で、出生時平均寿命、平均的な寿命指数、成人識字率、就学率、教育指数、1人当たりのGDP、GDP指数が使われる。数値は、0と1の間で表示され、1に近づくほど個人の選択肢が広い、すなわち、人間開発が進んでいるということになる。HDIは、4つのグループにランクされ、0.8~1.0は、Very high human development、0.7~0.79は、high human development,0.55~0.69は、medium human development,0.55以下は、low human developmentとしている。

「人間開発報告書(Human Development Report 2023/24)」の概要
今回の調査では、下記レポートの表紙にあるように「行き詰まりの打開〜二極化する世界における協調とは〜」との副題がつけられている。UNDPの日本語ニュースでも「豊かな国では人間開発が記録的水準に達する一方、 最貧国の半数の状況は後退」とアピールしている。パンデミックの影響で、過去2カ年、人間開発指標(HDI)が2年連続で後退したが、今回、HDIは大幅に改善した。しかし、世界的に大きな格差が生じており、富裕国でかつてないほどHDIが改善された一方で、世界の貧困国の半数ほどではCOVID危機以前の開発水準に留まった。

人間開発調査の結果は、表1の通りであるが、ベスト20をみると欧州諸国が13ヶ国、アジア・中東4ヶ国・地域、北米2ヶ国、オセアニア2ヶ国、となっている。日本は,2021年の22位から24位にランクを落とした。右欄は、ラテンアメリカ・カリブ諸国のランキングである。

表1 世界とラテンアメリカの人間開発指数2022

順位 国名 得点 LAC順位 国名 得点
1位 スイス 0.967 1(44) チリ 0.860
2位 ノルウエー 0.966 2(48) アルゼンチン 0.849
3位 アイスランド 0.959 3(52) ウルグアイ 0.830
4位 香港等 0.956 4(54) アンテイグアB 0.826
5位 デンマーク 0.952 5(57) バハマ 0.820
5位 スウエーデン 0.952 5(57) パナマ 0.820
7位 ドイツ 0.950 7(60) トリニダードT 0.814
7位 アイルランド 0.950 8(62) バルバドス 0.809
9位 シンガポール 0.949 9(64) コスタリカ 0.806
10位 オーストラリア 0.946 10(73) グレナダ 0.793
10位 オランダ 0.946 11(77) メキシコ 0.781
12位 ベルギー 0.942 12(81) セントヴィンセントG 0.772
12位 フィンランド 0.942 13(82) ドミニカ共和国 0.766
12位 リヒテンシュタイン 0.942 14(83) エクアドル 0.765
15位 英国 0.940 15(85) キューバ 0.764
16位 ニュージーランド 0.939 16(87) ペルー 0.762
17位 UAE 0.937 17(89) ブラジル 0.760
18位 カナダ 0.935 18(91) コロンビア 0.758
19位 韓国 0.929 19(95) ガイアナ 0.742
20位 ルクセンブルグ 0.927 20(97) ドミニカ国 0.740
20位 米国 0.927 21(102) パラグアイ 0.731
22位 オーストリア 0.926 22(108) セント・ルシア 0.725
22位 スロベニア 0.926 23(115) ジャマイカ 0.706
24位 日本 0.920 24(118) ベリーズ 0.700
25位 イスラエル 0.915 25(119) ベネズエラ 0.699
25位 マルタ 0.915 26(120) ボリビア 0.698
27位 スペイン 0.911 27(124) スリナム 0.690
28位 フランス 0.910 28(127) エルサルバドル 0.674
30位 イタリア 0.906 29(130) ニカラグア 0.669
42位 ポルトガル 0.874 30(136) グアテマラ 0.629
75位 中国 0.788 31(138) ホンジュラス 0.624
      32(158) ハイチ 0.552

注: LAC順位の左はLAC諸国内のランキング、( )内は世界の順位である。

「最新調査に見るラテンアメリカ・カリブ諸国の概要」

表1の右側は、ラテンアメリカ・カリブ諸国のランキングと得点を表している。これによると、ベスト10は、チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、アンテイグアB、バハマ、パナマ、トリニダードT、バルバドス、コスタリカ、グレナダとなっており、ラテンアメリカ諸国が5カ国、カリブ海諸国が5ヶ国となっている。

表2は、グループ別の分類を表す。これによると、0.8ポイント以上のVery high human developmentにランクされる国は、チリからコスタリカまでの9か国、次に0.70から0.79のポイントのHigh human developmentには、グレナダからベリーズまでの15ヶ国、Medium human developmentには7ヶ国、Low human developmentにはハイチ1ヵ国となっている。

表3は、ラテンアメリカ・カリブ諸国の人間開発指数の推移で、2010年、2016年、2019年~2022年のランキングの推移を表している。

表4は、2021年と比較し、2022年には、どの国がランクを上昇させたか、下落させたかを示している。表5は、コロナ前の2019年と2022年を比較したものである。ランク上昇国とランク下落国が一目瞭然に理解できる。過去1年の比較では、ランク上昇国数は、15ヶ国、 ランク下落国数は、18ヶ国である。8ランク以上上昇している国が、7ヶ国もあり、その内5ヶ国がカリブ海諸国である。反対に下落国は、スリナムを例外として比較的緩やかなランク下落である。

表5でコロナ前の2019年と比較したものを見ると、ランク上昇国数は、14ヶ国、ランク下落国数は、18ヶ国、アルゼンチンは変化なしである。ランクが10以上上昇した国は、6ヶ国に及びほとんどがカリブ海諸国である。一方、10ランク以上の下落国は、8ヶ国にもおよびコロンビアやブラジルも含まれている。

表2 2022年人間開発調査に見るラテンアメリカ諸国のグループ別分類

分類 得点 国名
Very high human development 0.8 チリ、アルゼンチン、ウルグアイ、アンテイグアB、バハマ、パナマ、トリニダードT、バルバドス、コスタリカ以上9ヶ国
High human development 0.70~0.79 グレナダ、メキシコ、セント・ヴィンセントG、ドミニカ共和国、エクアドル、キューバ、ペルー、ブラジル、コロンビア、ガイアナ、ドミニカ国、パラグアイ。セント・ルシア、ジャマイカ、ベリーズ以上15ヶ国
Medium human development 0.55~0.69 ベネズエラ、ボリビア、スリナム、エルサルバドル、ニカラグア、グアテマラ、ホンジュラス以上7ヶ国
Low human development 0.55以下 ハイチ

 

表3 ラテンアメリカ・カリブ諸国の人間開発指数の推移

国名 2022 2021 2020 2019 2016 2010
チリ 44 42 39 42 42 45
アルゼンチン 48 47 42 48 45 46
Sキッツ& N 51 75 67 73 74
ウルグアイ 52 58 50 57 54 52
アンテイグアB 54 71 65 74 62
バハマス 57 55 49 60 58 43
パナマ 57 61 61 67 60 54
トリニダードT 60 57 64 63 65 59
バルバドス 62 70 53 56 54 42
コスタリカ 64 58 58 68 66 62
グレナダ 73 68 70 78 79
メキシコ 77 86 69 76 77 56
セイント・ヴィンセントG 81 89 93 94 99
ドミニカ共和国 82 80 88 89 99 88
エクアドル 83 95 80 85 89 77
キューバ 85 83 68 72 68
ペルー 87 84 83 82 87 63
ブラジル 89 87 74 79 79 73
コロンビア 91 89 85 79 95 79
ガイアナ 95 108 119 123 127 104
ドミニカ国 97 102 97 99 96
パラグアイ 102 105 104 98 110 96
セント・ルシア 108 106 84 89 92
ジャマイカ 115 110 91 96 94 80
ベリーズ 118 123 100 103 103 75
ベネズエラ 119 120 73 96 71 75
ボリビア 120 118 112 114 118 96
スリナム 124 99 94 98 97 94
エルサルバドル 127 125 115 124 117 90
ニカラグア 130 126 118 126 124 115
グアテマラ 136 135 122 127 125 126
ホンジュラス 138 137 126 132 130 106
ハイチ 158 163 160 169 163 145
世界の調査対象国数 193 191 189 189    

 

表4 過去1年間(2022~2023)でランクの上昇した国、下落した国

ランクが上昇した国  15ヶ国 ランクが下落した国 18ヶ国
Sキッツ& N(+24)、アンテイグアB(+17)、ガイアナ(+13)、エクアドル(+12)、メキシコ(+9)、バルバドス(+8)、セイント・ヴィンセントG(+8)、ウルグアイ(+6)、ドミニカ国(+5)、ハイチ(+5)、ベリーズ(+5)、パナマ(+4)、パラグアイ(+3)、アルゼンチン(+1)、ベネズエラ(+1) スリナム(-25)、コスタリカ(-6)、グレナダ(-5)、ジャマイカ(-5)、ニカラグア(-4)、トリニダードT(-3)、ペルー(-2)、チリ(-2)、バハマ(-2)、ドミニカ共和国(-2)、キューバ(-2)、ブラジル(-2)、コロンビア(-2)、セントルシア(-2)、ボリビア(-2)、エルサルバドル(-2)、グアテマラ(-1)、ホンジュラス(-1)

 

表5 コロナ以前との比較(2019年と2022年の比較)

ランクが上昇した国 14ヶ国 ランクが下落した国 18ヶ国
ガイアナ(+28)、Sキッツ& N(+22)、アンテイグアB(+20)、セイント・ヴィンセントG(+13)、ハイチ(+11)、パナマ(+10)、ドミニカ共和国(+7)、ウルグアイ(+5)、グレナダ(+5)、コスタリカ(+4)、バハマ(+3)、トリニダードT(+3)、エクアドル(+2)、ドミニカ国(+2) スリナム(-26)、ベネズエラ(-23)、セント・ルシア(-19)、ジャマイカ(-19)、ベリーズ(-15)、キューバ(-13)、コロンビア(-12)、ブラジル(-10)、グアテマラ(-9)、バルバドス(-6)、ボリビア(-6)、ホンジュラス(-6)、ペルー(-5)、パラグアイ(-4)、ニカラグア(-4)、エルサルバドル(-3)、チリ(-2)、メキシコ(-1)

注:アルゼンチンは変わらず