連載レポート132:桜井悌司「世界幸福度調査2024に見るラテンアメリカ」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載レポート132:桜井悌司「世界幸福度調査2024に見るラテンアメリカ」


連載レポート132

世界幸福度調査2024に見るラテンアメリカ

執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会常務理事)

1.はじめに

2024年3月20日、恒例の世界幸福度調査報告2024年版(World Happiness Report 2024)が発表された。毎年「国際幸福デー」(3月20日)に合わせて公表される。国連の支援を受けて、「持続可能な開発ソリューションネットワーク」(Sustainable Development Solution Network)によるものである。このレポートは、2012年に開始され、今年は13回目を迎えるが、世界の143ヶ国をカバーしている。

レポートは、154ページにおよび、開発論で世界的に有名なJeffrey Sachs, John F.Helliwell, Richard Layard, John-Emmanuel de Neve等7名の錚々たるメンバーの協力の下で、「持続可能な開発ソリューションネットワーク」が作成したもので、世論調査で有名な「Gallup World Poll data」も関与している。

各国の国民に「どれくらい幸せと感じているか」を評価してもらった調査に加えて、1人当たりのGDP(GDP per capita) 社会的支援(Social Support)、健康寿命(Health Life Expectancy)、人生の選択の自由度(Freedom to make Life Choices)、寛容性の度合Generocity)、腐敗の認識(Perception of Corruption)といった要素をもとに幸福度を計るものとなっている。幸福度を最低のゼロから最高の10までの数字で表す。米ギャラップ社がまとめる調査データを、今回は英オックスフォード大学率いる国際チームが分析し、過去3年の平均から順位を算定した。

表1は、左側に今回の幸福度調査のベスト15の国のリストと得点、その他日本、スペイン、アジアの諸国の順位と得点、右側には、ラテンアメリカ諸国19カ国の順位と得点である。

上位に位置する国は、北欧諸国、欧州諸国がほとんどで、ベスト15に入っているその他の国は、イスラエル、オーストラリア、ニュージーランド、コスタリカ、クウエート、カナダの6ヶ国のみである。これらの順位は、毎回それほどの変化はない。

ちなみに、日本は、6.060で51位であった。23年の47位から4ポイント下落したことになる。今年の調査から世代別の得点、順位を紹介しているが、それによると、60歳以上のに日本人は、得点が6.146で36位、30歳以下の若者は、6.232で73位となっており、日本の課題は,若者にいかに幸福感を与えられるようにするかにあることが理解できる。

表1 2024年版世界幸福度調査報告書にみる世界ランキングと得点

世界順位 国名 得点 順位

LAC

国名 得点
1位 フィンランド 7,741 ①  12位 コスタリカ 6.955
2位 デンマーク 7.583 ② 25位 メキシコ 6.678
3位 アイスランド 7.525 ③ 26位 ウルグアイ 6.611
4位 スウエーデン 7.344 ④ 33位 エルサルバドル 6.469
5位 イスラエル 7.341 ⑤ 38位 チリ 6.360
6位 オランダ 7.319 ⑥ 39位 パナマ 6.358
7位 ノルウエー 7.302 ⑦ 42位 グアテマラ 6.287
8位 ルクセンブルグ 7.122 ⑧ 43位 ニカラグア 6.284
9位 スイス 7.060 ⑨ 44位 ブラジル 6.272
10位 オーストラリア 7.057 ⑩ 48位 アルゼンチン 6.188
11位 ニュージーランド 7.029 ⑪ 57位 パラグアイ 5.977
12位 コスタリカ 6.955 ⑿ 61位 ホンジュラス 5.969
13位 クウエート 6.951 ⑬ 67位 ジャマイカ 5.842
14位 オーストリア 6.905 ⑭ 68位 ペルー 5.841
15位 カナダ 6.900 ⑮ 69位 ドミニカ共 5.823
36位 スペイン 6.421 ⑯ 73位 ボリビア 5.784
31位 台湾 6.503 ⑰ 74位 エクアドル 5.725
51位 日本 6.060 ⑱ 78位 コロンビア 5.695
52位 韓国 6.058 ⑲ 79位 ベネズエラ 5.607
60位 中国 5.973      
  調査対象国 143     LAC調査対象国 19  

 

2)ラテンアメリカ諸国の幸福度は?

ラテンアメリカ諸国の中でベスト30位内に入っている国は、コスタリカ、メキシコ、ウルグアイの3ヶ国である。さらに50位内には、エルサルバドル、チリ、パナマ、グアテマラ、ニカラグア、ブラジル、アルゼンチンの7ヶ国、その他の9ヶ国は、54位から79位に入っている。

今回の調査から年代別の世界ランクが発表されている。表2によると、全年齢の順位と若者(30歳以下)の順位と比較すると、興味のあることが判明する。若者の幸福度が全年齢のそれを上回っている国は、パラグアイ(+20ポイント)、エルサルバドル(+16)、ニカラグア、エクアドル(+15)、アルゼンチン(+14)、パナマ(+13)、ドミニカ共和国(+8)、ホンジュラス、ペルー(+5)、メキシコ、ジャマイカ(+3)、コロンビア(+2)、コスタリカ+1)の13ヶ国に及ぶ。反対に、下回っている国は、ブラジル(-15)を筆頭に、グアテマラ(-7)、ウルグアイ、ベネズエラ(-4)等6ヶ国である。ラテンアメリカ諸国の若者は総じて幸福感を感じていることがわかる。

全年齢と60歳以上の高年齢者の満足度を比較すると、反対の結果が出てくる。高年齢者のランクが全年齢に比してランクが下がる国は、パラグアイ(-26)、エルサルバドル(–19)、パナマ(-17)、エクアドル(-10)、メキシコ、チリ(-8)、グアテマラ(-7)、ドミニカ共和国(-6)。コスタリカ、ペルー(-5)、ニカラグア(-4)、ジャマイカ(-1)の12ヶ国である。反対にランクが上がる国は、ベネズエラ(+15)、ボリビア(+8)、ブラジル(+7)等7ヶ国である。例えば、ブラジルは、高齢者の幸福感は高いが、若者のそれは低いことが理解できる。

表3は、2018年から2024年の7年間の順位の推移を表している。

表4は、上位30位・上位50内に入っているラテンアメリカ諸国名の推移(2018年~2024年)を示す。これを見ると、2018年には、上位30ヶ国には7ヶ国、50位以内には、13ヶ国がランクインしていたが、2024年には、それぞれ3ヶ国、10ヶ国になっている。ここ数年改善を見ているが、今後の推移を見守りたい。

表5は、過去1年(2023年~2024年)のランキングの変化を示している。ランクが上昇した国は12ヶ国、下落した国は6ヶ国、変化のないのは1ヶ国であった。

表6は、過去7年(2018年~2024年)のランキングの変化を表しているが、これによるとランクを下げている国は12ヶ国で大幅に下がった国が多い。ランクを上昇させた国は7ヶ国である。

最後に、世界ランキング12位のコスタリカを取り上げてみよう。コスタリカは昨年の23位から一気に12位に上昇した。軍隊を持たず、環境を重視する国で、森林に恵まれ、自然の美しい国である。3月25日付けのオッペンハイマーレポートによると、「幸福度の高い国の多くに共通しているのは、地域社会との豊かな絆、目的意識、アウトドアライフへの関心、仕事によるストレスの少なさ、仲間への信頼、民主主義、そして基本的なニーズを満たすのに十分な個人所得の高さだ。」、さらに「コスタリカの人々は、のんびりとしたライフスタイルを大切にしていることでも知られている。コスタリカ人はしばしば互いに “pura vida” と挨拶し合うが、これは文字通り “純粋な生活 “を意味するが、”take it easy “と訳すのが正しい。」と言っている。近年麻薬がらみの暴力事件が起こっているが今後の動向を注目したい。

表2 ラテンアメリカ諸国の年代別幸福度ランキング

国名 All Ages The young Lower middle Upper middle The old
コスタリカ 12 11 15 23 17
メキシコ 25 22 19 32 33
ウルグアイ 26 30 22 34 24
エルサルバドル 33 17 38 45 52
チリ 38 39 32 42 46
パナマ 39 26 43 41 56
グアテマラ 42 49 46 54 49
ニカラグア 43 28 53 61 47
ブラジル 44 60 44 40 37
アルゼンチン 48 34 52 64 45
パラグアイ 57 37 59 75 83
ホンジュラス 61 56 72 73 58
ジャマイカ 67 64 61 47 68
ペルー 68 63 64 80 73
ドミニカ共和国 69 61 70 79 75
ボリビア 73 74 75 77 65
エクアドル 74 59 79 89 84
コロンビア 78 76 78 71 72
ベネズエラ 79 83 80 83 64
LAC調査対象国数19          
スペイン 36 55 40 29 29
日本 51 73 63 52 36

注:The young 30歳以下 Lower middle 30歳~44歳 Upper middle 45歳~59歳 The old 60歳以上

表3ラテンアメリカ諸国の過去7年の順位の推移〈2018年~2024年〉

  2024 2023 2022 2021 2020 2019 2018
コスタリカ 12 23 23 16 15 12 13
メキシコ 25 36 46 36 24 23 24
ウルグアイ 26 28 30 31 26 33 31
エルサルバドル 33 50 49 49 34 35 40
チリ 38 35 44 43 39 26 25
パナマ 39 38 37 41 36 31 27
グアテマラ 42 43 39 30 29 27 30
ニカラグア 43 45 55 46 45 41
ブラジル 44 49 38 35 32 32 28
アルゼンチン 48 52 57 57 55 47 29
パラグアイ 57 66 73 71 67 63 64
ホンジュラス 61 53 55 53 56 59 72
ジャマイカ 67 68 63 37 60 56 56
ペルー 68 75 74 63 63 65 65
ドミニカ共和国 69 73 69 73 68 77 83
ボリビア 73 67 71 69 65 61 62
エクアドル 74 74 76 66 58 50 48
コロンビア 78 72 56 52 44 43 37
ベネズエラ 79 88 108 107 99 108 102
               
日本 51 47 54 56 62 58 54

表4 上位30位・上位50内に入っているラテンアメリカ諸国名(2018年~2024年)

調査発表年 上位30国 上位

50国

国   名
2018年

調査

7 13 コスタリカメキシコチリパナマブラジルアルゼンチングアテマラ、ウルグアイ、コロンビア、トリニダードT、エルサルバドル、ニカラグア、エクアドル
2019年

調査

4 13 コスタリカメキシコ、チリ、グアテマラ、パナマ、ブラジル、ウルグアイ、エルサルバドル、トリニダードT、コロンビア、ニカラグア、アルゼンチン、エクアドル
2020年

調査

4 11 コスタリカメキシコウルグアイグアテマラ、ブラジル、エルサルバドル、パナマ、チリ、トリニダードT、コロンビア、ニカラグア、
2021年

調査

2 9 コスタリカグアテマラ、ウルグアイ、ブラジル、メキシコ、ジャマイカ、パナマ、チリ、エルサルバドル
2022年

調査

2 9 コスタリカウルグアイ、パナマ、ブラジル、グアテマラ、チリ、ニカラグア、メキシコ、エルサルバドル
2023年

調査

2 8 コスタリカウルグアイ、チリ、メキシコ、パナマ、グアテマラ、ブラジル、エルサルバドル
2024年

調査

3 10 コスタリカメキシコウルグアイ、エルサルバドル、チリ、パナマ、グアテマラ、ニカラグア、ブラジル、アルゼンチン

(注)下線のある国は30位以内、下線のない国は50位以内

表5 過去1年(2023年~2024年)のランキングの変化

上昇した国  12ヶ国 下落した国  6ヶ国
エルサルバドル(+17)、コスタリカ(+11)、メキシコ(+11)、パラグアイ(+9)、ベネズエラ(+9)、ペルー(+7)、ブラジル(+5)、アルゼンチン(+4)、ドミニカ共和国(+4)、ウルグアイ(+2)、ニカラグア(+2)、ジャマイカ(+1) ホンジュラス(-8)、ボリビア(-6)、コロンビア(-6)、チリ(-3)、パナマ(-1)、グアテマラ(-1)

注:エクアドルは変わらず。ニカラグアは2022年比。

表6 過去7年(2018年~2024年)のランキングの変化

上昇した国 7ヶ国 下落した国  12ヶ国
ベネズエラ(+23)、ドミニカ共和国(+14)、ホンジュラス(+11)、エルサルバドル(+7)、パラグアイ(+7)、ウルグアイ(+5)、コスタリカ(+1) コロンビア(-41)、エクアドル(-26)、アルゼンチン(-19)、ブラジル(-16)、チリ(-13)、パナマ(-12)、グアテマラ(-12)、ジャマイカ(-11)、ボリビア(-11)、ペルー(-3)、ニカラグア(-2)、メキシコ(-1)

以   上