【季刊誌サンプル】カリコム諸国の動向―優先課題と諸外国との関係を中心に - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

【季刊誌サンプル】カリコム諸国の動向―優先課題と諸外国との関係を中心に


【季刊誌サンプル】カリコム諸国の動向―優先課題と諸外国との関係を中心に

鈴木 美香(福岡大学 講師)

本記事は、『ラテンアメリカ時報』2024年春号(No.1446)に掲載されている、特集記事のサンプルとなります。全容は当協会の会員となって頂くか、ご興味のある季刊誌を別途ご購入(1,250円+送料)頂くことで、ご高覧頂けます。

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カリコム諸国の動向 ―優先課題と諸外国との関係を中心に 鈴木 美香(福岡大学講師)

はじめに

カリブの地域機構カリブ共同体(カリコム)は、世界初の黒人共和国として1804年に独立したハイチを除くと、1960~80年代にかけて独立した比較的若い国々の集まりである。狭小な国土や人口の少なさ、資源の乏しさ、様々な構造的問題(産業の多様化の遅れ、所得格差、高学歴者・専門職の頭脳流出等)等を抱えつつも、それぞれが一つの国家としての道のりを歩んできた。

カリコム諸国は共通または類似の歴史や文化、地理的条件を持つことから経済・外交政策で足並みを揃えることが多く、カリコムだけでなく東カリブ諸国機構(OECS)1やカリブ諸国連合(ACS)2といった地域組織でも協調路線を取っている。ちなみに2023年はカリコムの設立50周年というメモリアル・イヤーであった。

本稿では2024年現在カリコム諸国の間で優先となっている課題、カリコム諸国と諸外国との関係を概観する。

カリコム諸国の優先課題

(1)気候変動への適応・気候資金の確保
小島嶼国・低海抜国が集うカリブ地域は世界的にも気候変動やハリケーンをはじめとする自然災害への脆弱性が高い地域である。海面水位上昇に伴う高潮・洪水被害や陸地の減少の驚異が差し迫っているとともに、度重なる勢力の強いハリケーンの襲来によりGDPの何倍もの被害に直面する国が少なくない。加えて近年は海洋温暖化の影響でサルガッサムと呼ばれる海藻の大量来遊により海岸地帯の景観が悪化し悪臭も発生しているため、地元の観光業や水産業に打撃となっている。海中の酸素濃度減少に伴う海洋生態系への影響も問題視されている。

カリコムはこれまでも小島嶼国連合(AOSIS)3の加盟国とともに気候変動による影響の深刻さや気候変動対策の加速化を国際社会に訴えかけてきた。2021年10月の国連気候変動枠組条約(UNFCCC)の第26回締約国会議(COP26)会期中には、アンティグア・バーブーダと太平洋にあるツバルが国際機関「気候変動と国際法に関する小島嶼国委員会(COSIS)」を立ち上げた。

COSISは2022年12月に国際海洋法裁判所(ITLOS)に対し、海洋法に関する国連条約(海洋法条約)の締約国は気候変動に関してどのような義務を負うのか勧告的意見を要請した。ITLOSの勧告的意見自体には法的拘束力はないものの、気候変動問題に関して国際裁判所に勧告的意見を求める動きはこれが最初であったという。2023年4月には国連がAOSISの働きかけを受けて同種の勧告的意見を国際司法裁判所(ICJ)に求めた。

2022年9月には、バルバドスのモトリー首相により、気候変動や自然災害に脆弱な国々を支援するために、国際開発金融機関(MDBs)改革の一環として、国際通貨基金(IMF)の特別引出権を活用した新たな資金メカニズムの構築および中所得国を含めた脆弱国の支援を行うことを盛り込んだ「ブリッジタウン・イニシアティブ」が提唱された。
以上から、近年カリコムが気候変動問題で発言力を強めていることが分かる。

(2)食料安全保障
カリコム諸国は物資の多くを域外国からの輸入に頼っているが食料も例外ではない。カリコムの人々が消費する食料の80%が輸入によるもので、その額は40億米ドル以上に達するという。現地の食料価格は欧米先進国や日本の倍近くとなることも多い。新型コロナウイルス感染症やロシアのウクライナへの軍事侵攻に端を発する物流の停滞や食料価格の上昇が市民生活を直撃したことを受け、カリコムでも食料安全保障の重要性が再認識されている。

カリコムは2025年までに食料輸入価格の25%削減を目標とする「2025年までに25% 食料・栄養安全保障イニシアティブ」の下、域内貿易における非関税障壁の更なる撤廃や農業への投資拡大等を目標に掲げている。また、共同体農業政策(CAP)を策定し、イ