『ブキの物語/クレオール民話』 シュザンヌ・コメール=シルヴァン、マダム・ショント - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『ブキの物語/クレオール民話』  シュザンヌ・コメール=シルヴァン、マダム・ショント


 「ブキの物語」の著者コメール=シルヴァンはハイチのエリート階級に1898年に生まれた女性人類学者で、文学者であった父の影響を受け、クレオール語の口承民話を収集しフラン語に訳して発表した。「クレオール民話」を編集したマダム・ショントことマリアンヌ・キフェールはフランスのロレーヌ地方で1895年に生まれ、夫のカリブ海の仏領グアドループ公教育局長赴任に同行してフランス語教師として首都ポアンタピトルで教鞭を執り、現地クレオール語に関心をもち民話の収集に努めた。
 「ブキの物語」は50話のうち半数が西アフリカないしバントゥー族由来の民話でペアであり、アフリカにいてカリブにいないブキ(ハイエナ)と野ウサギによって、力はなくても知恵のある者と力はあっても愚かな者、騙す者と騙される者を対称的かつ不可分の関係として取り上げている。「クレオール民話」はジャン坊やの物語群、ウサギなど動物群とグアドループ民話から構成されていて異なるが、うちウサギをテーマにした共通する類話が収録されている。
 ハイチとグアドループで採集された民話全72話は、強欲で残酷な物語、しかし巧みに悪知恵を使って狡猾に生き延びる小さき者と力は強いが間抜けで騙されてばかりいる者を描いた前者、時に宗主国から持ち込まれたキリスト教的な規範がみられる後者の違いはあるが、訳者による植民地時代からの歴史や文化、物語の成り立ちについての詳細な後書きによって深くカリブ海の島国の民情理解を助ける。

〔桜井 敏浩〕

 (松井裕史訳 作品社 2023年8月 301頁 2,700円+税 ISBN978-4-86182-986-4 )
〔『ラテンアメリカ時報』2024年春号(No.1446)より〕