『さらばボゴタ』 シモーヌ&アンドレ・シュヴァルツ - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『さらばボゴタ』 シモーヌ&アンドレ・シュヴァルツ


カリブ海のフランス領グアドループが出自のシモーヌとその夫のユダヤ系フランス人アンドレ夫妻による、アフリカからカリブ海アンティル諸島に奴隷として移送され売られた黒人たちとその子孫たちの境遇を描いた連作の一作。マルテニックで1885年生まれ1953年にパリの高齢者施設で唯一の黒人として孤独に暮らしているマリオットが親交を結んだジャンヌの死の場面で生前の聞いていたその生涯と、マリオット自身の過去を語る二部構成になっている。

フランス領マルティニークで1902年に発生したプレ火山噴火で故郷の町が壊滅し、故郷も家族も失った彼女は、南米仏領ギアナに渡り、自分を奴隷として競売にかけ、元流刑囚で金脈を掘り当て財をなしたフランス人とニューヨークを経てコロンビアのボゴタに行く。そこで男と別れ商店を営むが貧民と労働者のデモに巻き込まれことを機に身を持ち崩した。ギアナの徒刑囚のように自由を奪われた白人、パリの白人女性がそれほど幸福でないことを知るが、自分が黒人であることを意識しすぎ幸福を逃した悔恨を抱きつつ、パリの施設で孤独にさいなまされる晩年を回顧する。

カリブ海の知識人から黒人の、奴隷制への抵抗の物語を、それもクレオール語でなく植民地主義者のフランス語で適切に語ることは出来ないと裁判沙汰にまでなかったが、その後歴史の闇から救いだした功績を認められた。

〔桜井 敏浩〕

(中里まき子訳 水声社 2023年11月 243頁 2,700円+税 ISBN978-4-8010-0786-4)