執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)
I.総選挙
5月5日に行われた総選挙では、ラウル・ムリノは大統領選挙で当選した。ムリノは、有罪判決を受けて候補者資格したマルティネリ元大統領の後継者として出馬し、執筆の時点では、ムリノは34%の投票率で当選した。これに対して、与党PRDの候補社である現副大統領のカリゾは6%投票率で出馬8人のうち6位となっている。ムリノは、マルティネリ元大統領が創設したRMの党内選挙を通さず、マルティネリに指名された副大統領として選挙に出る予定であったが、有罪判決の確定によって、選挙裁判所に候補者として認められた。しかし、パナマ選挙法では、一定以上の政党の候補者は、党内選挙で決定すると定められているため、違憲訴訟が提起された。パナマ最高裁判所は、5月3日の夜、選挙裁判所がムリノの候補を拒否すべきであったと指摘しつつ、選挙への信頼や保全を確保するため、ムリノの出馬を認めた。ムリノが当選する場合、マルティネリを救済すると発言し、恩赦を署名すると思われている。
II.政治
A.パナマ首都圏都市交通第1号線の延長
4月26日に、コルティソ大統領がパナマ首都圏都市交通第1号線の新たな駅の開通式を行い、同日16時半から運営が開始した。第1号線の延長は、パナマ県とコロン県の間にある、約30万人が住んでいる地域と繋がる。現在、パナマ首都圏都市交通は総計約42キロ、65駅に構成され、第1号線は2014年、第2号線は2019年に運営を開始した。また、2023年3月中旬に、第2号線のトクメン国際空港駅のサービス開始によって、パナマは中米において初めて都心と国際空港が列車で繋がる国となった。さらに、同月に、パナマ政府と日本政府は、第3号線の延長にローンとして920億円(6億2500万ドル)の投資協定を結んだ。ローン期間は、2029年から2043年までとされている。第3号線は26.7キロ、モノレール方式で、パナマ県と西パナマ県を繋げる予定、モノレール車両や様々なシステムには、日立製作所と三菱商事の技術が利用される。
III.経済
A.パナマ運河の仲裁
格付け機関であるフィッチ・レーティングスが、Minera Panamaの契約無効、国債の急増、および国際基金への依存を理由として、パナマの信用格付をBB-にした。新たな格付けと伴って、パナマの国債は信用力が高いことを示す投資適格債が取り消され、債務不履行のリスクがあるとされている。但し、以上の事情は中期的成長への悪影響は予測されておらず、5月上旬の総選挙によって選ばれる新たな政権が対応できると期待されている。
新型コロナウイルスパンデミック以降、パナマのGDPの成長は年10%を上回っていたが、2024年に経済減速は予測されている。世界銀行および企業経営や投資判断機関のムーディーズ・アナリティックスは、2024年のパナマ経済的な成長は2.5%を予想して、エルサルバドルと共に中米では成長の最も少ない国とされている。
B.パナマ運河通航制限
パナマ運河庁は、5月7日から15日にかけてガトゥン湖での工事を行うため、一日あたりの通航は17隻に制限され、5月16日以降、31隻に上げることが発表した。記録的な干ばつの影響によって普段の通航は一時的に日35-38隻から24隻に制限されたが、4月から始まる雨季と共に通航制限の解除は徐々に行われ、2025年に通常状態となると予測されている。さらに、運河庁は報道されている渋滞について、現在の通航枠に想定内と判断され、現在順番待ち隻の内、7割以上予約制度を利用し、早めに着いた隻であり、予約日にスムースに通航できると説明している。
IV.外交
A.EUの租税回避地ブラックリストから削除拒否
4月23日に、欧州議会は、3月中旬に欧州委員会が決定した租税回避地ブラックリストからパナマを削除を拒否したことが分かった。欧州議会がパナマがロシアに対する経済的制裁を設けず、EUの制裁を回避できるような国として利用さている証拠があることを拒否利用とし、欧州委員会に以上の指摘を考慮する新たな決定を求めている。取消の拒否は制裁に該当しないが、EU内の金融機関に租税回避地ブラックリストの記載されているパナマと取引を行う場合、更に注意義務が付けられている。
パナマのブラックリスト追加は2022年5月に決定し、同年10月から以降、パナマ政府が、削除に必要な法律改正を行い、定期的にヨーロッパ連合諸国の大使との会談を行っていた。また、1月中旬に、欧州議会が中米・カリブ海との関係を許可するため、パナマに事務所を置くことを発表している。