連載エッセイ361:新井賢一「南米コロンビア・雲と星が近い町 から」その25 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ361:新井賢一「南米コロンビア・雲と星が近い町 から」その25


連載エッセイ361

南米コロンビア・雲と星が近い町から その25
経済低迷真っ只中のコロンビア

執筆者:新井賢一(Andes Tours Colombia代表、ボゴタ在住))

2022年に左派政権が誕生して以来経済状況の飛躍的発展は望めないと当初から予想はしていました。左派系大統領による政治状況については選挙権を持っていない私がこの場でコメントする事は差し控えたいと思います。それとは別に私も実際利害に直接かかわっている経済状況について、2年が経とうとしている現在は予想以上に停滞している事を実感しています。

この2年でコロンビアに長年在住していた知人の日本人の方々が次々とコロンビアを去っています。まずそれが自分にとって直接感じている国内状況の変化です。その方々がこの国を去る事を決めた理由は様々ですが、現在の経済低迷も少なからず影響しているようです。コロンビア国内経済は3月に輸出額が大きく減少・4月の歳入(税収)と国外からの直接投資額の大幅な減少が報じられ、国家財政状況が厳しい状況に陥っている事も明らかになりました。当地に拠点を構える複数の日本企業の方々からお話を伺いました所、現在の政権が任期を終える2年後2026年までコロンビア国内の劇的な経済発展はほぼ見込めないであろうと覚悟されているようです。

昨年来非常に深刻と報じられている一つが自動車新車販売台数・住宅販売件数などです。いずれも景気が良い時には旺盛な買い替え需要などで右肩上がりでしたが現在ではコロナ禍前に比して数十パーセント単位での大幅な落ち込みとなっています。私は経済通ではないので具体的にどのような理由でこれだけ落ち込んでいるのか詳しい事は分かりませんが、例えば自動車については現政権の政策により補助金が廃止されたガソリン価格がコロナ禍前に比して約二倍になっている事やローン金利の上昇により手が出にくくなっている事も要因の一つかもしれません。それは住宅ローンにも言えようかと思います。住宅販売件数の大幅な減少は関係する様々な業界にも暗い影を落としています。例えば新規着工件数の減少・マンション建設に投じられるセメントの供給量の減少・付帯するエレベーターや内装関係などあらゆる方面に影響を及ぼしています。

先日大手EPS会社SuraがEPSシステムからの離脱を発表し衝撃が走っています。EPS(Entidad Promotora de Salud)とは日本でいう所の健康保険組合に似たシステムで国内に数多くある民間会社により運営されています。低所得により生活保護を受けている世帯以外はいずれかのEPS会社への加入義務があり、いわゆる国民皆保険制度に近いような感じです。EPS運営各社に対して政府が一定の介入と補助をしていますが、現政権はこのEPS制度を廃止・日本でいう所の国民健康保険に近い国営化を目指している事からEPS各社と対立が続き、一時政府補助金が滞りEPS各社が破産直前まで追い込まれた中での離脱発表により約500万人とされるEPS Sura社の加入者が動揺しています。

私も当然EPS制度に加入していて歯科治療などで何度か利用していますが、ここ数ヶ月EPS系の診療所は以前よりも大幅に患者数が増えて事前予約制にも関わらず予約時間を大幅に遅延する事が常、ついには一旦受け付けられた予約を3度にわたって一方的にキャンセルされています。EPS制度の質の低下が顕著になっている事をまざまざと感じます。

私はこのEPSとは別にMedicina Prepagadaという割増料金による特別医療システムにも加入していて、こちらのシステムは割増金額を払っているだけあり厚遇を受けられます。しかしながら強制加入のEPSと合わせた月額掛金は日本円で約23,000円、これだけの金額を払わないとまともな医療を受けられません。

各方面によるコロンビア国内の2024年の経済成長率予想は約1%前後、実質ゼロ成長に近いと見込まれています。前述の通り現政権下であと2年は大幅な経済成長が望めない事から直接投資は控えるべきという意見が多いようです。

他方今年のインフレ率は約10%前後と見込まれています。年間インフレ率は翌年始めに家賃・公共料金その他多方面にそのまま反映されます。例えば住んでいる家が賃貸であれば昨年の年間インフレ率が11%だった場合今年一月からの月額家賃が11%アップ、今年12月時点での年間インフレ率が10%だった場合は来年1月からそれにまた10%アップとなります。これが続いた場合10年後にはすごい金額になる訳で、その為か昨今では家賃が高い高級住宅街にあるマンションなどが特に顕著ですが空き家が目立ってきています。

支出に関して昨今では価格が圧倒的に安いディスカウントストアは大幅に売り上げを伸ばしている一方、大型店舗を持つ全国規模の大手スーパーは大苦戦・巨額の赤字を計上しています。人々の財布のひもが非常に固い事は確実で、商品販売額の減少がそのまま税収減=国庫歳入減に直結しています。

先日熊本を本拠とするラーメン店チェーン「味千拉麺」がコロンビアに進出開店、首都ボゴタの店舗は週末ともなると大行列になる人気店になっています。数年前からコロンビア国内ではラーメンブームとなっていますが開店から僅かの日数で大行列ができる程になるとはと驚いています。価格はオーソドックスな味千ラーメンがチップ込みで日本円換算にすると一杯約1,800円、飲物を加えて約2,000円ほどです。日本人の感覚からするとラーメン一杯約2,000円は高いと感じる事でしょう。不況真っ只中のコロンビアでそれでも大行列が出来るのが不思議ですが、他の外食レストランがいずれもここまで活況かと言えばそうではなく、グルメゾーンにある結構な数のレストランは昨今閑散としていて夜10時を過ぎると一帯が閑散とするのが昨今の状況です。

ではなぜ味千拉麺を含むラーメン店が繁盛しているのか、私なりに思うのはラーメンはこれだけを注文すれば全てが揃いお腹を満たす為、イタリアンその他よりも実は割安であるからだろうという分析です。ラーメンのどんぶりの中には「前菜(野菜類)」「たっぷりのスープ」「メイン(チャーシューなどの肉類・パスタなど)」が一つにまとまってる訳で、他のレストランでこれらを別々に注文するよりも確実に割安で量が多い、だからこその人気ではないかと勝手に思っています。

外食産業(レストラン)自体は決して好況とはいえず、原材料費その他の高騰がそのまま価格に反映され上がる一方である事、そしてコロナ禍以降仕事の形態が変わり在宅勤務も可能になった事から仕事を終えて夜に外食する人が減っている事も影響しています。

現左派政権が続くあと2年、コロンビアの経済状況は引き続き厳しいと予想しています。

以   上