執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)
A.総選挙後の政界
5月5日に行われた総選挙のほぼすべての結果が確定している。有罪判決によって候補失格を失ったマルティネリ元大統領を引継いだホセ・ラウル・モリノの予想外の勝利によってパナマの政界が乱れている。選挙当時、与党PRDには約72万5千党員が登録していたにも関わらず、PRD大統領候補者のカリゾ約133,000票(得票率は約6%)を獲得した。国会議員選挙においては、PRD議員は35名から12名に、CD党は18名から8名に、モリレナ党は5名から1名に減少し、Panameñista党は変化なし8議員、無所属議員は5名から20名、新たな政党の21議員は当選した。
パナマ選挙法の改正によって2014年に無所属候補者の参加は認められた以降、歴代の政党に対する批判が増えている。パナマ市、パナマ県の特別区であるSan Miguelito、西パナマ県、コロン県、ダビッド県においても、PRDの市長候補者は落選し、いくつなの市では無所属候補者が当選した。
以上の結果によって、完敗したPRDおよびCD党内は混乱の状態に陥って、党首およびその幹部の辞任が求められている。
B.パナマ国会の構成
パナマ国会が71名に構成され、法案の議論等には、最低18人、法案等の可決には最低37人が出席しなければならない。7月1日に開始する国会の構成からすると、いずれの政党が、議論に必要な議員数を確保せず、無所属議員が多大な影響をもたらすと考えられる。こうした状況では、同盟の重要性が増加し、CD党内ではムリノのRMとの協力可能性は検討されている。これに対して、20名の無所属議員は既に会派を構成し新党MOCAと既に同盟についての対談が行っている。各同盟は確定すればRM・CD党は22議員、無所属・MOCA同盟は23議員となるため、いずれも法案可決に必要な人数が足りない。 Panameñista党、モリレナ党、Alianza Panama党、Partido Popular党はまだ方針を公表していない。また、選挙結果からするとPRDは国民に批判されているといえるため、自ら同盟を求めがたい状況であるが、他の同盟の結果によって個人議員の投票が重要となる場合もある。
このような状況下では、RM党ルイス・カマチョは国会長の席を目指している。カマチョがマルティネリ元大統領の右手であり、無所属の会派を批判しつつ、国会議長の席を目指しているが、現時点では必要な支援を確保していない。しかし、いくつかの県では、議員選挙の結果取消訴訟が提起され、結果次第、無所属は5名、PRDは4名、RM党は3名、MOCA党2名の議員は席を失う可能性がある。また、7月1日に、国会議長の決定には、MOCAと無所属議員の席が確定しなければ、カマチョ氏は議長として任命される可能性が上がるため、これらの訴訟は対無所属会派の手段として利用されている疑いがある。議長は、議論の主導、国会の委員会構成等を決定するため、今後の政策に大きな影響を与える。
C.ムリノの内閣や政策
大統領選挙に当選したムリノは内閣の構成を徐々に公表している。多くの大臣は民間部門から移転する者であり、その内、経済財政省大臣として選ばれたフェリペ・チャップマンは、国内外から高く評価されている。チャップマンは、近年激増しているパナマ国債の返済および、年金制度の資金、公共支出の管理を目標としている。防衛大臣として任命された元国境防長のフランク・アブレゴは、マルティネリ政権(2009-2014)中、政府大臣であったのムリノと協力経験があり、移民危機対策として、ダリエン県の国境閉鎖を検討している。
D.他国の反応
5月6日に、アメリカ政府が、ブリンケン国務長官を通して当選確定したムリノにお祝いのメッセージを発表し、両国の絆や有益な関係の継続を強調した。5月11日に、中国大使館のSNSでは、習近平国家出席から両国の絆に着目する祝いメッセージを公表した。
5月17日に開催された記者会見では在パナマ中国大使が、バレーラ政権(2014-2019)に中国政府がパナマ県―ダビッド県列車建設実行可能性調査を作成していることを指摘し、自由貿易協定交渉の再開を求めていると述べた。選挙活動中にムリノは、パナマ県とダビッド県をつなげる列車の重要性を主張し、外務大臣として選ばれたハビエル・マルティネス・アチャが他国の企業も列車計画に興味を指名していると説明した。
コロンビア政府が、ダリエン県の国境閉鎖に対して国境の閉鎖に反対し、人道的な政策についての対談を求めている。