メキシコで現代の最も重要な新進作家にひとりと評されているメルチョール(1982年ベラクルス生まれ)が2017年に発表した長編小説。ベラクルスの都会から離れた、精糖工場の他は道路沿いの飲食店や売春宿しかない架空の村で、鉄格子のある家に籠もり外界と隔絶した生活を送っていた魔女は、困窮女性の悩みを聞き、薬草を与え、堕胎の手助けをして、莫大な遺産を抱え込んでいたという噂もあるのだが、暴力が横行するメキシコのこの村の誰かに惨殺された。誰が魔女を殺したのか、どのような背景があったかを、著者独自の語り口で明らかにしていく。
メキシコで横行する貧困、暴力、マチスモ、性暴力、虐待、肌の色による差別など、この村の実態、過酷な現実を浮かび上がらせている。
〔桜井 敏浩〕
(宇野和美訳 早川書房 2023年12月 253頁 3,100円+税 ISBN978-4-15-210290-4 )