執筆者:佐合桃果(コスタリカ野球連盟、青年海外協力隊員)
中央アメリカ南部に位置するコスタリカは、北にニカラグア、南東にパナマと面しており国土は九州と四国を合わせたくらいの小さな国です。その約4分の1の国土が国立公園や自然保護地区に指定され、国を挙げてエコツーリズムの推進に力を入れています。
そんなこの国の国技は、サッカーです。国民のサッカー愛は想像をはるかに超えてきます。私服にサッカーのユニホーム、試合がある日はクラクションを鳴らしながら車を運転する人々、学校の休み時間はみんなでサッカー、スポーツニュースも9割がサッカーです。サッカーに染まったこの国でも、野球を愛する国民やコスタリカの野球をけん引する熱い人々はたくさん存在します。今回は、そんなコスタリカの野球について現地から紹介していきます。
コスタリカで野球が広がり始めたのは、遡ること約120年。コスタリカの特産物でもあるバナナを利用した多国籍企業の影響からです。多くの外国人労働者が野球道具を国内へ持ち込み野球を始め、1897年にはカリブ海沿岸のリモンにて初めての試合が開催されたと伝えられています。それと同時にバナナを運ぶためによく使用されることとなった鉄道建設も国内に野球が広がっていく大きな要因ともなりました。
その後、1944年には首都サンホセの南部に野球場が建設され、当時のスポーツ局長にちなんでEstadio de Béisbol Antonio Escarré(アントニオ・エスカレ野球場)と名付けられました。野球場は1955年に改装・増築され、今日も野球大会や草野球などで使用されています。
(写真1:アントニオ・エスカレ野球場)
今現在、国内12か所に野球協会及びアカデミーが存在し、これらの組織は幼児から野球を始めることのできる環境になっています。その内訳は、首都近郊に4チーム、国内北側のニカラグア国境あたりに4チーム、太平洋沿岸に2チーム、カリブ海側に2チームとなっており、国内南側の地域では野球が盛んに行われていません。いくつかの野球協会では社会人野球リーグも存在し、平日夜や週末には多くの大人たちがプレーをしています。
昨年2023年には、大手ゲーム会社KONAMIの「パワフルプロ野球」と世界野球ソフトボール連盟がコラボイベントを発表し、コスタリカ野球連盟100周年を記念したイベントもゲーム上で行われました。
コスタリカで野球をする選手は、コスタリカ人だけではありません。ニカラグアやベネズエラ、キューバ、コロンビアなどからコスタリカに移り住んでいる方も多くいます。コスタリカよりも野球が盛んな国から来ている方々がこの国の野球をけん引していると言っても過言ではありません。彼らの存在はコスタリカの野球技術向上や普及に欠かせない存在であり、また彼ら達にとっても母国の国民的スポーツをすることがコミュニティのひとつにもなっています。しかし、コスタリカ国内ではすべてのスポーツにおいてコスタリカ人のための大会が存在します。多国籍の選手がいるチームでは大会に出場するために合併チームで挑むというところも少なくはありません。またそのような選手は200㎞以上離れた地域に住んでいる事もあるため、事前の合同練習という期間は一切ありません。このように、チームによって所属する人数や年代、国籍が異なるのもコスタリカ野球の特徴です。
地方野球チームのグランドに行くと野球場ではなく電灯のない芝生のサッカーグランドをベース周辺だけ草を刈り野球グランドとして使っているチームもあります。試合中に野良犬が外野後方を軽快に走り去り、まるでドックランのような光景も見受けられ、首都中心部と地方の野球環境の差はかなり大きいのが現実です。
コスタリカの人々が野球道具を購入するパターンは、大きく分けて2つです。1つは、移動販売の人がグランドで道具を並べて売る方法。それと並行にFacebookのマーケットスペースでも販売しています。もう一つは、野球道具をアメリカやニカラグアに行く人にお願いし買ってきてもらう方法です。コスタリカは物価が高く野球道具も首都の限られた場所でしか売っていないため、急ぎで必要がない場合は時間がかかってでも安く同じ品質の物を手に入れるためです。そして、ミズノやSSKなどのグローブを目にすることはありますが、中古で購入したというパターンがとても多いです。グローブを磨くという習慣は一切なく、グラブオイルや修理用の変え紐も売っていません。そのため、紐が切れどうしようもなくなった際には、靴紐で代用しているそんな選手もいたりします。
こちらでは、それぞれのカテゴリーで多くの国際大会が行われています。小学生から高校生までを対象とした大会では、世界約80か国以上が加盟しているリトルリーグやアメリカ発祥のポニーリーグの国際大会があります。カテゴリーによって出場国は異なるもののメキシコ、グアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、パナマ、コロンビア、エクアドル、ベネズエラ、ブラジル、チリをはじめカリブ海からは、ドミニカ共和国、プエルトリコ、キュラソー、アルバ、バハマ、ボネールといった多くの国が大会に出場しています。WBC(ワールドベースボールクラシック)に出場するような国の代表は、体格やスピード、パワー、技術などすべてにおいて上回っており、コールドゲームになるのが当たり前になっています。例えるなら、中学3年生対小学6年生が試合をするようなイメージです。また、他国の野球マイナー国(※ここではサッカーが国技となる国と定義する)との試合の結果も直近10年間でなかなか勝利を挙げられていないのが現実です。5回戦って1回勝てたら良いくらいのレベルでしょう。
一方で、世界野球ソフトボール連盟が運営している世界野球ランキングでは、2021年8月時点の74位を2023年12月には54位まで急上昇させる成績を残しています。このランキングに大きな影響を与えたのが、2023年2月に行われた中米・カリブ海競技大会の予選大会だと言われています。この中米・カリブ海競技大会は、地域別オリンピックともいわれる大きな大会です。ちなみに、2026年にはアジア競技大会が愛知県名古屋市で開催される予定になっています。4年に1度行われる大きな大会の出場枠を賭けた予選はニカラグアの首都マナグアで行われ、コスタリカはエルサルバドル、グアテマラに勝利したもののニカラグア、ホンジュラスに敗れる結果となりました。しかし、3位決定戦で再びグアテマラに勝利し、中米5か国で3位という好成績を残しました。
(写真2:3位決定戦終了後の様子)
この大舞台で活躍した多くの選手が今日、コスタリカの少年少女に野球を教える指導者としても活躍しています。今後のコスタリカ野球の発展から目が離せません。
そんな私は現在、コスタリカ野球連盟に所属し、野球の普及と発展のためにコスタリカの地で汗を流し奮闘しています。
平日は、地域の小学校で野球教室を開催したり、ゴムボールひとつでベースボール型競技を楽しむことのできる新スポーツのベースボール5を普及するなどしながら、少しでも多くの子ども達が野球に触れたり興味を持つきっかけをつくっています。
また、地域の野球チームのコーチとして子ども達に野球を教えています。指導者が指示を出したらそれに従う、もはや従わなくてはならないという日本に対して、コスタリカの子ども達は「こうしたらどう?」と意見や案を提示してきます。楽をしたいという気持ちが裏目に出ている事も多々ありますが、自分の意見を指導者に伝えてくれる子ども達は生意気ながらもとても可愛らしく思います。
そして、野球をしているのは男の子だけではありません。国内至る所で女子選手を見受けられます。私は、偶然にも日本で生まれ育ち高校以降は女子硬式野球部にてプレーをすることができました。しかし、この国で女子野球という分野はまだ存在しません。それでも野球がしたい、続けたいというコスタリカの女の子たちのために女子野球の機会を設け少しずつ活動しています。生まれた環境や国の違いで好きな事、やってみたかったことに挑戦できないという世界を無くしたい。そんなことを思いながら今日この地で活動しています。
野球がマイナーなコスタリカでも国籍や性別、世代を超えて同じ野球を愛する人々と共に笑い合いながら野球ができるのを噛みしめ、私色の協力隊活動をしていきます。
(写真3:野球指導をしている私)