『現代ペルーの政治危機 -揺れる民主主義と構造問題』 村上 勇介編 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

『現代ペルーの政治危機 -揺れる民主主義と構造問題』  村上 勇介編


『現代ペルーの政治危機 -揺れる民主主義と構造問題』  村上 勇介編
国際書院 2024年2月 232頁 3,500円+税 ISBN978-4-87791-326-7

1990年から続いてきた新自由主義経済政策に因る貧富の格差に対する不満票を集めて、2021年の大統領選挙では首都圏で最多の票を獲得したケイコ・フジモリを破って当選した教員組合のリーダーであったペドロ・カスティージョだが、少数与党で政策アイディアは通らず1年余で80名の閣僚が交代させられる混乱の末、2022年12月に国会は大統領罷免を可決した。その後ボルアルテ副大統領が昇格(ペルー史上初めての女性大統領)、2026年の任期一杯保つのか確言できない政治の不安定状況が続いている。本書は混迷を深める現代ペルーの政治構造を、ラテンアメリカの他の国や他地域の開発途上国の政治との比較も念頭に置いて、「現代ペルー政治の今日的位相」「現代ペルーの政治社会構造-変化と不変」、「21世紀のペルー政治-脆弱な政党、小党分裂化、アウトサイダーの再登場と混迷」(いずれも村上京都大学教授)、「新自由主義レジームと地方分権化の中での社会紛争の政治」(岡田勇名古屋大学教授)、「中途半端な地方分権化」(磯田沙織神田外国語大学専任講師)、「『地方の叛乱』の余波-1930年代初頭における制度改革を通じた中央・地方関係再編の試みとその限界」(中沢知史立命館大学嘱託講師)、「2022年末以降の政治危機の中で顕在化した構造的問題」(岡田勇)を論じている。
21世紀ぺルー政治を、その根幹である国家―社会関係、地方分権化に焦点を当てて、4人の研究者が分析し今後の行方を展望する内容の濃い研究書。編者はペルー等ラテンアメリカ地域研究・政治学専攻者で『「ポピュリズム」の政治学-深まる政治社会の亀裂と権威主義化』(国際書院、2018年3月。本誌2018年夏号で紹介)他の著作・共著がある。

〔桜井 敏浩〕

〔『ラテンアメリカ時報』2024年夏号(No.1447)より〕