執筆者:新井賢一(Andes Tours Colombia代表、ボゴタ在住))
2014年7月28日、安倍晋三氏が日本の首相として史上初めてコロンビア公式訪問の為首都ボゴタに降り立ってから10年が経ちました。安倍首相の3日間のコロンビア公式訪問は私にとり生涯忘れる事はない出来事です。
この時私は安倍首相に随行した経団連会長の他企業使節団一行の受け入れ手配を一手に引き受けました。日本の政府専用機がコロンビアに降り立つ事自体が史上初めてであり当然前例というものがない中での受け入れ手配は相当のプレッシャーを感じ、失敗・失態は絶対許されないものでした。10年経った今でもよくあれだけの膨大な手配をこなしたものだと思っています。同じ事を次に出来るかと聞かれたら精神的・体力的にもう不可能だと思います。それほどまでに過酷を極めたものでした。
安倍首相が日本の首相として史上初めてコロンビアを公式訪問された詳しい経緯は存じ上げません。ただその数ヶ月前に中国国家主席が中南米各国・主に当時台頭を始めていた左派政権の国々を歴訪された事もあり、当時から親日国・中道政治を維持していたコロンビアを訪問する事の重要性を感じられていたのかもしれません。
安倍首相のコロンビア公式訪問は大手新聞紙の一面を飾りました。当時親米国でもあったコロンビアにおいてアメリカ大統領の公式訪問以外で国の政治的トップの訪問が大手紙一面で取り上げられたのは異例であり、日本への関心の高さを感じました。また当時の安倍首相は既に世界のリーダーの一員としてコロンビアでも日本の首相と言えば「ABE」という名が知られていた事もあるでしょう。
公式訪問2日目には日本・コロンビア首脳会談が開催され、両国間の友好・経済協力関係、特にEPA(経済連携協定)の早期締結を促す確認がされました。また分刻みのスケジュールの中で日本・コロンビア経済合同委員会も開催され、安倍首相コロンビア到着前から当地入りした相当数の日本企業各社のトップや幹部なども含め相当な数の方々が首都ボゴタに集まられました。現時点では後にも先にもこれだけの日本企業関係者の方々がコロンビアに集結された事はこの時の安倍首相公式訪問時以外なく、安倍氏の影響力の高さを改めて感じました。
あれから10年。現在の日本とコロンビアの関係は可もなく不可もなくと言った所でしょうか。現在のコロンビアは独立以来初のかなり極端な左派政権であり、ペトロ大統領は国家の経済的発展にはあまり関心がないように思われます。日本との関係も前政権以前の親密さは感じられないように思います。それはペトロ大統領就任から2年が経過した現在も日本へ大使を派遣していない事に表れており、現在は臨時代理大使がその任を2年続けられています。誤解のないよう申し上げますと私はその事について良い・悪いと評価するつもりは全くなく客観的事実のみ申し上げます。
また、安倍首相があの時早期締結を促したEPAについてその後交渉は途中で止まっていると認識しています。無関係の私はこの件について全く事情を把握していませんので、交渉はいずれ再開するのではと楽観的に思っています。
日本・そして世界のリーダーとして日本の国益を真に考えられていた安倍首相のコロンビア公式訪問。3日間という期間でしたが前述の通り企業使節団の皆様の受け入れ手配に関して失敗・失態は絶対許されない極度のプレッシャーで精神的に潰れそうになりましたが何とか大任を務める事が出来ました。
こちらは27年のコロンビア生活の中で自分の行いが褒められた唯一の結果が当時の駐日コロンビア大使から頂いた感謝のレターです。あとどれだけこの国にいるか、そんなに長くはないと思いますが頂いたこのレターを見るたびに不眠不休で臨んだあの3日間を思い出します。間近で見た安倍首相の御姿、そして史上初めてコロンビアに飛来しコックピット上に日本・コロンビア両国旗を掲げた2機の政府専用機の姿は生涯決して忘れる事はありません。
以 上