連載エッセイ387:ピーター藤尾「チリの風」その29 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ387:ピーター藤尾「チリの風」その29


連載エッセイ387

「チリの風」その29

執筆者:ピーター藤尾(在チリ、サンティアゴ)

「2024年7月29日ー8月4日」
「政治」
1)ボリッチ動向

アラブ首長国連邦で首脳と会談したボリッチはチリにとって素晴らしいニュースが出たことをお知らせしますとコメント。彼らは銅やリチウムなどのチリの鉱山に投資をするのでしょう。今週、ブラジルの大統領がチリを訪問してボリッチと面談する由。それからアルゼンチンの大統領はチリに来るけど、ボリッチとの面談はしないとコメントしています。???

2)ベネスエラ問題

マドゥロの考えは、「自分はベネスエラが必要としている大統領だ。この国を運営できるのは私しかいない。従って選挙の不正など言わずに自分の指示を聞け」でしょうね。しかし多くの国がその選挙の正当性を疑惑視しています。チリはその国の一つです。ボリッチの批判にチリ共産党は正規の選挙で選ばれた大統領を認めないのは何事かとクレームしていますが、ボリッチはチリの外交の最終結論は大統領が出すとします。与党側の中で共産党の考え方を批判する動きが目立っています。共産党も意地を張れば、年末の地方選挙で得票数が減ることを気にしないのでしょうか?

マドゥロは正面からチリを批判し、チリの大使を追放しました。チリ大使はこの土曜日に帰国してモネダ宮殿を訪問しボリッチと面談しました。しかし他の多くの国がマドゥロと勝負したゴンサレスを新大統領と認めていますが、ボリッチはその動きをしません。つまり、マドゥロ批判が中途半端なわけです。チリで500名のベネスエラ人デモ隊がゴンサレス新大統領を認めよとボリッチに要求しました。

チリのベネスエラ大使館は機能していないので、ベネスエラ人で帰国するのに必要な書類の更新などが出来ず大使館の前で困っている人がいるとか。チリ政府は正常な書類が無くても出国を認めるとしています。現在チリ政府が心配しているのはベネスエラ人の不法入国です。ペルーやボリビアとの国境から正規の手続きをしないで不法に入ってくる移民が、この先急増すると言われます。同国から既に約700万人が脱出していますが、その内チリに53万人が来ています。チリでピノチェットが強権主義の政治を続けましたが、1988年に軍事政権継続可否の投票がありました。普通、投票が終わってから2時間もすると開票率10%の段階での結果は…と発表がありますが、その日は全く何も知らされませんでした。私は否定の方が多いので政府はそれをどう拒否するか考えているのではと思いました。例えば、「xx地区で投票の不正が見つかったので投票をもう一度やりなおす」とか。しかしピノチェットはそういう不正をせず敗北を認めたわけです。マドゥロはそれが出来なかったのでしょう。マドゥロはアジェンデを崇拝しているとか。

3)選挙

2年後の大統領選挙に関連し市民の共感のある候補者は右がマテイ、左がバチェレットとか。右翼側はマテイ対カストの争いは2年後だから、それを置いて今年の地方選挙に共同候補者を出そうとしています。左翼側は全党派対共産党と言う感じです。

「経済」
1)銅価格と為替

5月に5ドルだったのに今は4ドルに急降下。今週は4.07ドルで閉めました。中国や世界の景気が悪いからと言われますが、3か月前とそれほど大きな変化は無いと思いますが、どうでしょう。為替は1ドル939ペソとそこそこです。

2)財務省の予想

今年のGDPは2.7%から2.6%に下方修正。ほとんど同じとも言えますが。銅価格は4.3ドルと推定、為替は1ドル920ペソとか。しかし6月のチリのGDP指数は予想を大きく下回る0.1%の上昇で、これから年末に向けて財務省の予想はドンドン下がっていくのでしょうか?

「一般」
1)警官殺人事件

カニェテで少し前に3名の警官が殺されましたが、その犯人が3名逮捕されました。容疑者の一人はまだ逃げています。しかし彼らは裁判でビクビクせず、悠々としています?いつでも君たちを殺すよと考えているのでしょうか?

2)暴風雨被害

チリの南部、中央部の各地で被害が出ました。サンティアゴでは55ミリの雨に時速125キロ(秒速34メートル)の風が吹き1800本以上の木が倒木しました。その倒木が車にぶつかり4名の死者が出ています。停電は120万軒に起きたらしい。私の所は金曜日の1日だけでしたが、それが継続しているところがまだ27万軒もあるとか。なんでも2010年の大地震時以来の大きな被害が出たらしい。その問題の一つは停電のため信号が多くの区で機能せず交通事故が急増しました。先週に続いて今週もその前線の第2回目がチリを襲うと言う予想が出ています???                    以   上

「8月5日ー8月11日」

「政治」
1)ボリッチ動向

今週の話題は停電とベネスエラ問題です。その前に、訪チしてきたブラジルのルラ大統領と月曜日に面談し、両国の政治経済文化の交流を一層進めるとしました。もっとも会談の中心はベネスエラ問題だったでしょうね。火曜日に焼肉アサードをしてルラと歓談しましたが、バチェレットをそこに招待しました。その他に各国の新大使と面談しました。オーストラリアやインドなど7か国の大使です。

それから停電の件ですが、ボリッチは「問題は深刻で、それを電力会社が解決しない(出来ない)のは容認できない。すべての被害者に被害を救済することを要求する。もし解決が遅れ、救済もない事態が起きれば電力会社との契約を見直し、他社に変更することもありうる」としています。首都圏のエネル社はイタリア資本の会社でイタリア政府が問題軽減に関与するようです。エネル社は強風による被害を想定できなかった、被害が出た時それを短期で解消する力がなかったわけです。エネルギー省の大臣は私営の電力会社の使用ではなく国営の組織にすべきか考えたいとコメントしました。

ベネスエラ問題も同じような状況が継続です。多くの国が今回の選挙で勝ったマドゥロ政権を否認しています。ボリッチは当初から選挙による当選はなかったとしています。

マドゥロはそれに対しチリはいまだにピノチェット軍事政権が継続していると嫌味のコメント。専門家のコメントですが、「事前の調査や投票を済ませた人の調査で野党側が大きな差をつけて勝っているとされたのに全く逆にマドゥロが勝利したのは不可解。それを全く説明しないで野党側を押さえつけようとしている」とありました。そんな状況でこれから数年、彼がベネスエラを上手く運営できますか?異常な彼を支援するチリ共産党ですが、社会党幹部がそれを厳しく批判しています。同じ中道左派のグループPPD党党首はこの問題で共産党が考え方を変えなければ与党グループとして一緒にやっていくのは無理だとしました。バチェレットがもう一度大統領になれば彼女の政権に共産党は入れないと言われています。

上記とは関係ありませんが、アルゼンチンの大統領ミレイがチリを訪問し、数時間滞在して戻って行きました。

ボリッチの責任として年金改革があります。かなり前から議論されていますが結論が出ません。現在のシステムにどういう問題があるのか、それを解決するもしくは軽減するには何が必要なのか、それらを明確にして国民にとって必要な改善をするわけですね。与野党の争いではないと思いますが、進展がありません。ボリッチの指導力が足りないのでしょう。

最後ですが、オリンピックで二人がメダルを勝ち取りました。ボリッチはその二人を明日の月曜日にモネダ宮殿に招待し、お祝いしたいとしています。

2)選挙

10月の地方選挙で野党側の中道右派グループと最右翼の共和党が対立するのか同意するのか決まりません。つまり州知事候補に一人を出すのか二人にするのかはっきりしません。ビオビオ州のUDI党候補者が共和党が候補者を出すのか統一候補にするのかはっきりさせてほしいとコメントしています。同じ問題が各地で起きています。与党の側は共産党対その他という雰囲気です。

「経済」
1)銅価格と為替

1ポンド3.99ドルと4ドルを割ってしまいました。この動きはチリの今年後半に大きな影響を与えますね。為替は1ドル937ペソでした。

7月の消費者物価指数IPCは0.7%と予想よりかなり上でした。その理由は電気代の上昇が主な原因とか。今年全体の予想は5%とされています。

2)株式市場IPSA

月曜日の市場は世界各地で大地震になりましたね。そのトップが日本でしたが、チリのテレビニュースでも大きく取り上げられました。そしてアメリカ市場の動きにつられ、チリの市場IPSA3.4%ダウンし6099ポイントでした。2021年以降で最大の下落数字でした。その後、少しづつ戻って6321ポイントです。

3)南米各国の最低賃金

トップの3か国ですが、ウルグアイが556ドル、チリが532ドルそしてコロンビアが323ドルでした。それを見ると南米でそこそこ給料を払っているのはそのトップ2か国だけと言えそうですね。

4)新車の販売

7月は対前年8.8%アップでした。少しは景気が良くなっているのでしょうか。

5)製鉄工場ワチパト閉鎖

以前にも似たようなことが起きていますが、CAP製鉄会社のワチパト工場が閉鎖されることになり2か月以内に工員が解雇されるとか。もちろんモネダ宮殿でどういう対応をするか検討中です。中国から安い鉄鋼品が入ればチリ産は対抗できないと言うわけです。

「一般」
1)停電

金曜日は10万家族でしたが、土曜日は縮小してまだ停電している家庭は全国で47000軒でした。最大時120万家族でしたから縮小しているのは事実です。私は運があって停電は1日だけでしたが、それが何日も続けば個人・家族の生活に大きな影響を与えるのは明白です。学校・仕事に専念できません。テレビのニュースで毎日、各地で鍋たたき運動(停電している人が道路に出て鍋をたたいて抗議する)が出ました。陸軍が出て倒木の整理をしました。区役所のお手伝いですね。

2)航空機事故

南のアイセン州で小型機が墜落しました。墜落した現場には道路がないので、そこに行くにはかなり困難だとか。                       以  上

「8月12日ー8月18日」
「政治」

1)ボリッチ動向

「犯罪のない街頭」を推進するため、首都圏にその計画に909名の警官を追加しました。ボリッチはその計画の開始の式に参加し、夜にその行動開始にも参加しました。さぁ少しは犯罪が減少するかな?月曜日にオリンピックでメダルを取った二人の選手をモネダ宮殿に呼びました。二人は宮殿の二階の窓から外で歓迎のために集まった観衆に手を振りました。

2)選挙

先ずは10月の地方選挙ですが、2年後の大統領選挙の話も盛り上がっています。与党側は中道左翼は元大統領のバチェレットを推薦です。内務大臣のトアも人気があります。新左翼や共産党は第3候補を出すようです。野党側は中道右翼のマテイと共和党のカストです。もちろんその前に地方選挙の統一候補を選べるかどうかで大騒ぎになるでしょう。

3)ベネスエラ問題

南米のすべての国でこの問題が大きく取り上げられています。世界の21か国と欧州連合がマドゥロの勝利は認めないと言う結論を発表しましたが、チリもその中に入っています。ブラジルが問題解決に手を差し出していますが、その先どうするのか、(ゴンサレスの勝利を認めるのか・再選挙を勧めるのか)に関してはあまりはっきりしません。チリは与党内で全グループ対共産党が争っているのは惨めですね。
4)厚生年金

政府・国会ともに改革案の制定・実施に関しすっきりしません。チリの定年は女性は1952年から60歳、男性は1924年から65歳になっていますが人生100歳までと言われる現在にその数字が正しいのか、変更すべきなのか検討してほしいと新聞の投書にありました。

「経済」
1)銅価格と為替

銅価格はパッとしません。1ポンド4.05ドルとほんのわずか4ドルを超えました。為替は1ドル931ペソでした。コデルコ公社は上半期の生産は前年対比8%のマイナスと厳しい状況です。世界最大の銅鉱山エスコンディーダの労組がストに入りました。今週末で解決しましたが、銅価格に影響するかもと言われます。労組員に多額の一時金が支払われました。毎回同じですが、システムが上手く運用されていないのではないでしょうか。

CAP鉄鋼会社は上半期は赤字とかで、そのワチパト製鉄工場の封鎖が問題になっています。中国からの安い製品がチリ市場を席巻しているからですがしかし中国の製鉄企業は倒産しそうなほどの赤字とか。

2)公定歩合

9月から公定歩合が少し下がり5.5%になります。しかし家屋の購入をするため銀行に借り入れを頼むと、以前は購入価格の100%が貸し出されましたが、それが、10%、20%と下がっています。つまりかなりの資本を持たないと借入金を頼めないわけです。落ち込んでいる家屋の販売が少しでも動いて上昇してほしいですね。

3)物価上昇率IPC

7月は0.7%が記録され、厳しい状況が続いています。さて消費者の将来の展望ランキングが発表されました。世界の30か国で調べられました。質問は3年後の消費は現在と比べて良くなるか悪くなるかです。・トップはインドで79%が良くなると回答。チリは12位で52%が良くなると見ています。下位はフランス・ドイツ・イタリアですが、最下位は日本で良くなるとみるのはわずか14%でした。

「一般」
1)犯罪

毎日、夜のニュースはほとんどの局で犯罪関係の事から始まります。確かにもう飽きたと言う気もしますが、政府の対策が実態とあっていないのでしょう。この週末、首都圏で6件の殺人事件がありました。今週の事件の中ではブリンクスという現金・貴重品の輸送を扱う会社のランカグア支店が襲われ、多額の紙幣が奪われました。詳しい額は発表されていません。10数名が逮捕されましたが、その中で支店の社員と警備会社の社員がいました。つまりいつ多額の紙幣がその支店に届くか調べ、どこから入れば警備の目が届きにくいか犯罪グループに知らせたのでしょうね。

2)停電

かなり良くなりましたが、まだ停電しているところがあります。月曜日は全国で18000軒(首都圏で8000軒)火曜日はそれが14000軒(1万軒)になりました。毎日少しづつ数字は減少していますが、2週間も停電が続けば私なら気が狂いますね。政府はその電力会社に被害者への損害賠償をさせるようですが、それの他に電力会社の契約をどう継続するか検討中とか。民営企業から国営に変えるのは良いアイデアか時代遅れか分かりませんが。

以 上
「8月19日ー8月25日」

「政治」
1)ボリッチ動向

アラウカニア州を3日間も長期訪問し、各地で病院の開院式や子供のスポーツ支援などの行事に参加しました。

2)犯罪抑制

先週に続いて今週も首都圏で多くの殺人事件が続き、野党はボリッチの対策は間違っていると厳しい批判をしています。政府内にこの問題に対応するため「安全省」を作り大臣を置くかもしれないと言う考えが出ています。建設大臣は刑務所の建設が早急に望まれるとコメントしています。犯罪抑制が出来なければ、刑務所の建設が増加するわけですね。自分たちが馬鹿だと言っているみたい。

3)ベネスエラ

ボリッチはマドゥロは不正選挙で選ばれた独裁政権だと厳しく批判しています。野党はボリッチを支援しつつ、今回の選挙の野党候補のゴンサレスを新大統領として認定するよう要請しています。しかしこの問題はベネスエラ 政府との対立だけではなく、ボリッチにとってチリ共産党との分裂が問題になっています。共産党は臨時総会を開き、この問題を党としてどう取り扱うか決定する由。ボリッチ政権の大臣をしている共産党員は反ボリッチの姿勢は見せていませんが・・・。チリ社会党はマドゥロに追放されたチリ大使を招待し面談しました。これも与党内分裂の一つの動きですね。与党から共産党を追放すると言う動きが出始めれば、ボリッチ政権の最大危機になりそうです。

それから国際犯罪組織を抑えると言う点でボリッチはエクアドルと合意に達し、近い将来に条約を提携するとか。

4)ルイス・エルモシージャ事件

弁護士の彼は政財界の幹部と多くの知り合いを持っています。裁判官などから抜いた情報を使って55億ペソとされる多額の金を抜き取っていたのがばれ、彼の仲間と共に裁判になっています。ピニェラ政権の内務大臣だったチャドウィックと幼少のころから親交があったらしい。ピニェラとも知り合いだったわけですね。元中銀総裁のシーチェルは自分は何の不正もしていないと彼との関連を否定しています。 情報を与えた方にも処罰を加えれば、この種の犯罪は無くなるでしょうね。

5)選挙

10月の地方選挙の候補者選考について与野党ともに合意がされません。分裂したまま選挙に入るのは相手側に大きなメリットになるのは当然なのに意地を張り続けています。

2年後の大統領選挙ですが、与党側の候補者バチェレットは自分は立候補しないとコメントしました。野党側はどうせ2,3ヵ月もすれば意見を変えるだろうと馬鹿にしています。

「経済」
1)銅価格と為替

銅価格は1ポンド4.11ドルと最近ではよい数字です。このため為替は1ドル919ペソとペソ高になっています。

2)公定歩合

中銀は投資が減少しているので景気回復を考慮しながらも公定歩合の変更(低下)は実施しないようです。専門家は景気回復には下げた方が良いとコメントしていますが。4-6月の投資額は前年対比4.1%のマイナスでした。この期間のGDPは1.6%のアップで年間では2.1%が予想されています。
3)労働者の平均賃金

2023年の平均賃金は82.6万ペソでした。ただそれにはいろんな種類の労働者が入っているので、通常労働時間の場合は約100万ペソまで上がるとか。ただ鉱山の場合はその2倍になるらしい。

「一般」
1)電気問題

今年2回目の電気代値上げが10月にありますが、市民の生活に影響を与えます。政府は一部の層に援助を与えると発表しましたが、どの地区でいつからどれくらいという具体的なアイデアはでていません。その前に、今回の停電問題の賠償金(慰謝料かな)を電気会社に払わせるべきでしょうね。

2)犯罪

先週起きた現金輸送会社ブリンクス支店襲撃事件で、今週更に二人が逮捕されました。しかし盗まれた120億ペソの巨額の金はまだ見つかっていません。警官の私宅に泥棒が入り発砲しました。それで重傷を負った警官を警察軍長官が見舞い励ましました。犯罪ニュースは毎日テレビのニュースにあふれています。今週は首都圏で22件の殺人事件がありました。                            
以   上