連載パナマ・レポート52:ルベン・ロドリゲス 2024年8月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート52:ルベン・ロドリゲス 2024年8月分


連載パナマ・レポート 52: ルベン・ロドリゲス 2024年8月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)

I. オリンピックの唯一のメダル

パリオリンピックでは、アテイナ・バイロン選手は、女子ミドル級ボクシングで銀メダルを獲得し、初めての女性メダリストとなった。バイロン選手は、19歳からボクシングを始め、2016年以降オリンピックに出馬し、東京オリンピックの準々決勝で、金メダリストとなったローレン・プライスに敗れた。バイロン選手は帰国後、ムリノ大統領から文化・スポーツ功績賞を授けられ、パナマ市の議事会からも市の鍵(功績をあげた人物などに贈られる名誉の賞)や奉仕活動賞を贈られた。また、銀メダリストとして政府からバイロン選手は5万ドル(約740万円)、他の選手は1万ドル(約150万円)をもらうこととなった。さらに、政府は、現在建設中の体育館はアテイナ・バイロン・ハイパフォーマンス・スポーツセンターと名付けられると発表した。

バイロン選手の銀メダルは、パナマ選手が獲得した四つ目のメダルとなった。初めてのメダルは、1948年ロンドンオリンピック陸上男子100mおよび200mでロイド・ラビーチ選手が獲得した銅メダルである。その後、2008年北京オリンピック陸上競技走幅跳で、イルビング・サラディノ選手が金メダルを獲得した。

II. 政治

A. 教育支援の受給者リスト発表

ムリノ大統領の指示によって、8月9日に、教育支援担当局のIFARHU(El Instituto para laFormaciony Apromechamiento de Recursos Humanos)が2019年以降の受給者を検索できるサイトを公開した。教育支援は、奨学金と異なり、返済義務も成績維持義務もなく、政治的なコネクションによって給付されることがかねてから問題となっている。コルティソ政権(2019年―2024年)では状況が悪化し、コルティソ前大統領に任命され、PRD(民主革命党)に承認されたIFARHUのメネセス前局長は、受給者の個人情報に該当するとして、透明性および情報へのアクセス局の指示を無視して受給者リストの公開を拒否した。以上をもって、ムリノ大統領が支援の給付停止を命令し、検察庁に刑事責任についての調査を求めた。また、IFARHUのディアズ局長が、2004年以降の受給者も発表するための必要なデータを集めていると説明した。パナマ法では、政府の透明性強化手段として、公務員の収入、政府の歳入等のような公益とかかわる情報は公開される義務があると規定されている。

今回、教育支援が認定を受けていない大学、海外での語学コースに利用されていたと明らかとなった。公開された受給者リストから、コルティソ前大統領の親戚、国会議員や元国会議員の子供や親戚、テレビアナウンサーの子供や親戚等は数万ドルの給付を受けていることが明らかとなった。さらに、IFARHUのスタッフの4人の内1人は支援を受けており、複数回の支援を受けた者もいるとわかった。受給者の親戚がいる政治家、民間企業の代表、芸能人、テレビアナウンサー等の中には、自主的に返済した者が相次いで現れている。その内、業績によって給付された奨学金だと勘違いしたと説明する者もいる。

B. パナマ首都圏都市交通第3号線のトンネル

8月2日に、パナマ会計検査院は、パナマ県と西パナマ県を繋げる首都圏都市交通第3号線の契約改正を承認した。改正前の契約では、第3号線運行のため、パナマ運河を渡る新たな橋の建設が予定されていたが、改正によって、海底下約65 mの地中に全長約4.5kmの海底トンネルを設けることとなった。トンネルの工事は、9月に開始、その完成は2026年に予定され、計画変更によって二駅のオープンは延期された。パナマ政府と日本政府は、第3号線の延長にローンとして920億円(6億2500万ドル)の投資協定を結んでいるが、トンネルの建設は協定に含まれていないため、新たな資金源を見つけなければならない。ローン期間は、2029年から2043年までとされている。第3号線は26.7km、モノレール方式で、パナマ県と西パナマ県を繋げる予定、モノレール車両や様々なシステムには、日立製作所と三菱商事の技術が利用される。

III. 経済

A. パナマ運河の通航制限解除

パナマ運河のバスケス局長は、9月1日から干ばつのため設けられていた一日当たりの通航36隻という制限を解除すると発表した。2023年から今年にかけて、記録的な干ばつの影響によって運河の通航は一時的に制限されたが、4月から始まる雨季と共に通航制限の解除が徐々に行われた。

また、最高裁判所の7月3日の判決によって、パナマ運河局が裁量に基づき利用できる地域を制限した2006年の法律第20号は違憲だと判断されたため、運河局は貯水池の建設に必要な準備を行っている。

IV. 外交

A. 移民の強制送還開始

8月20日に、パナマ政府が、ダリエン県から入国する移民の強制送還を開始した。初めての便で送還された29人の移民は、パナマでの在留に必要な経済的余裕がない者と、指名手配されている者とされ、全員がコロンビア人であった。出入国管理局のモヒカ局長は、他の国籍の移民について、各国と交渉していると述べたが、ベネズエラ人の場合、外交状況によって現時点ではできることが限られていると説明した。

近年、アメリカを目指して、ダリエン県から違法に入国する移民の問題が悪化している。パナマの出入国管理局は、移民によるダリエン県からの違法な入国が2023年は一年間で52万人だったのに対して、2024年は6月中旬時点で、約19万5千人を超えていると発表している。パナマ政府は、コロナ禍においても移民の医療等の負担を背負い、国際社会に支援を求めたが、最終的に得られなかった。

ムリノ大統領が、選挙活動中、違法な移民への厳しい対応を約束し、就任式前に米国のバイデン大統領に対して、コロンビアと隣接するダリエン県の国境閉鎖を提案し、コロンビアのペトロ大統領が強く反対した。アメリカ政府とパナマ政府が7月1日に署名した基本合意書によって、返還に必要な設備、交通機関、その他の支援はアメリカ政府が負担することとなっている。

以   上