執筆者:直井健矢(JICA海外協力隊、在コスタリカ)
コスタリカ(正式名:コスタリカ共和国、以下コスタリカ)は、北にニカラグア、南東にパナマと隣接した国で、国土の 4 分の 1 が自然保護区域となっている、エコツーリズムの国として世界に知られている。また、1949 年に常備軍を廃止し、教育分野等への投資を拡大したこの国では、識字率が98%と非常に高く、社会保障制度が充実しており、2009年、2012 年、2016 年には世界幸福度指数で世界一位に選出されている。さらに、コスタリカでは再生可能エネルギーによる国内の電力供給率が98%超である、SDGs先進国でもある。
そんな世界の中でも幸福な国、コスタリカの防災・災害対策事情及び私の現地での活動について紹介したいと思う。
災害概要
頻発する自然災害は季節によって異なる。特に、4 月下旬ごろから 11 月中旬ごろまでの雨季は、熱帯波の影響による大雨により、土砂崩れ、地すべり、建物への浸水及び洪水が多く発生し、2024 年 8 月末時点ですでに 27の熱帯波が国土に上陸または接近し、2024 年 8 月末時点ですでに 27 の熱帯波が国土に上陸または接近し、各地で住民の生活に甚大な被害をもたらしている。 一方で、12 月~4月頃までの乾季には、乾燥と強風による林野火災や倒木が多く発生しており、特に 2024年は、林野火災の件数が過去 10 年間で最も多くなっている。
また、コスタリカは、国土がカリブ・パナマ・ココス・ナスカプレートに囲まれている地震大国である。2022 年 10 月 22 日に離島のココ島でマグニチュード 6,3 を観測した地震が直近の大地震であり、2023 年の一年間では、8,308 件の揺れが観測されている。
コスタリカの災害統計
コスタリカ消防庁によると、コスタリカでは 2014~2023 年の 10 年間で、救助救急、ガス関係、電気関係の順に通報件数が多い。過去 10 年間の通報件数の年平均は62,881件である。また、日々のニュースでは、交通事故や山間部、河川、海での事故で搬送される報道が多い。自然災害ではないものの、麻薬密輸組織間での抗争や、それに巻き込まれる市民も発生している。犯罪件数が増加傾向にあることを考慮すると、救急件数は今後も増加していくことになるだろう。
さらに、ジカ熱やチクングニア熱といった蚊を媒介とした感染症が拡大しており、特にデング熱は 2024 年上半期ですでに 12,328 件の報告があり、2023 年 8 月 26 日に報告された 8,261 件を大幅に上回っている。
コスタリカの火災概要
私のバックグラウンドから、ここではコスタリカの火災発生状況について触れてみたい。コスタリカの 2021 年の総火災件数は 966 件で、2020 年は 918件であった。年々火災件数は増加傾向にあり、日本の建物火災の出火原因がコンロ、たばこ、電子機器であるのに対し、コスタリカの主な出火原因は配線器具、裸火、電子機器である。つまり、出火原因については、コスタリカと日本において、顕著な違いはないように思える。また、先に述べたように、林野火災は過去10 年で最も多く発生しており、山間部に住む住民は、乾季は特に焚火等の火気の取り扱いには注意が必要である。
余談ではあるが、コスタリカは総人口 500 万人に対して消防士は約 2000 人であり、日本は総人口 1 億 2500 万人に対して消防士は約 16 万 6千人である。ただしコスタリカでは救急事案の多くは赤十字が担っており、日本のような消防行政とは異なるため、配置職員数は一概に比べられるものではないかもしれない。
私が活動するサンホセ県サンタアナ市は、人口 6 万人程度が居住する、起伏の多い街である。山の斜面に位置しており、中心地の標高は約 900mで、市の南側が山岳部になっている。また、従来のコスタリカの街並みとは異なり、開発が進んだ地区があり、そのため欧米からの移住者が比較的多く、高級な集合住宅が多い地域でもある。一方で低所得者層が居住するエリアもあり、そういったところは地すべり危険区域であったり、崖の上や河川の近くに家を建てるなど、防災面でかなり危険な状態にある住まいも存在する。
コスタリカでは非常に多くの浸水・洪水が発生することから、側溝が広く、また深く作られており、浸水対策を重視した都市開発を行っている。避難所の整備や備蓄品の管理などを各市の防災緊急対策委員会に付託して維持している。一方で、倒木による電線の切断などへの対策が進んでいない状況もある。また、感染症、衛生対策として噴霧消毒も広く一般的に行われている。保健省を中心とした蚊の発生防止教育では、水たまりを作らない、蓋のできるものには蓋をするなどの呼びかけが行われている。
自身が活動しているサンタアナ市役所は、市内4か所に気象観測モニターを設置し、風速、降雨量等を 24 時間観察している。河川の水量監視モニターは 1 か所設置しており、気象観測モニターと合わせて、河川の増水等を事前に予測できる体制をとっている。市の開発プロジェクトでは、歩道の整備及びガードレールの設置、排水処理の改善等を行い、歩行者の安全確保や洪水対策を行っている。また、河川の状態を定期的に観察し、河川の整備や土砂の除去等の工事を必要に応じて発注し、河川の増水及び崖崩れ対策を行っている。
防災緊急対策委員会
コスタリカでは各市に防災緊急対策委員会を設置しており、市役所、消防、警察、赤十字、保健省のメンバーなどから構成されている。毎月の委員会では、プロジェクトの進捗報告、問題提起、情報交換や各種講習等を行い、市全体での防災対策及び連携強化を図っている。例えば、避難所の管理や備蓄品の担当を各機関で割り振り、災害時に相互に補完することで、避難所の運営がスムーズになり、命令系統もはっきりしているため指揮系統の混乱も最小限に抑えられる。
隊員活動
JICA 海外協力隊としてのコスタリカでの自身の活動は、主に、住民への防災啓発活である。加えて、同僚と地すべり・土砂崩れが発生した現場のモニタリング、住民からの通報・相談などの調査を行っている。
防災啓発活動では、学校を訪問し、児童・生徒及び教員に対して防災教育及び訓練を行い、自助力及び共助力の強化を推進している。その中で、防災だけでなく、日本についても紹介(子供たちから聞かれることも)し、日本への理解促進を促している。また、年に一度のコスタリカ全土で実施される一斉避難訓練や配属先のサンタアナ市主催の防災週間(日本における火災予防運動のようなもの)でのイベントの開催なども実施している。
ところで、コスタリカでは防災頭巾のようなものは普及しておらず、また、地震が起きたらすぐに避難することを優先している。日本では地震が起きたらまず身の安全が教えられているため、防災教育の違いは非常に興味深い。また、公的機関の防災意識は高いが、一般市民は災害対策については他人事のような印象も受ける。もちろん日本でも全家庭が、例えば、非常用持出品を準備しているわけではないが、異国にいることで日本の防災意識の高さを改めて実感している。
どうしても防災教育は後回しになりがちになってしまうため、児童・生徒及び教員に対して、まずは防災について興味を持ってもらい、さらに災害の知識が身につくような講演を今後も行っていきたい。そこでは身近なものを活用した防災訓練を実施し、「防災って簡単だ。誰でもできる」を体験してもらうことで、楽しく防災について学び、さらにその後家族や将来のこどもたちに伝えていってほしいと思いながら活動に励んでいる。災害が起きないことに越したことはないが、有事の際には、自身の身を守り、そして家族や仲間とともに災害を乗り越えられるような力を身に付けてもらえることを願っている。
ここまで、コスタリカで生活する中でみえてきたコスタリカの防災・災害対策事情について、ほんの一部であるが、紹介させていただいた。筆者個人の感覚・感想も多分に含むが、このエッセイがコスタリカについての理解促進に寄与できることを期待する。
参考資料