執筆者:新井賢一(Andes Tours Colombia代表)
日程上の偶然ですが先日当地コロンビアにおいて「野球U-15」「サッカーU-20」のワールドカップが開催されました。それぞれ日本代表が活躍され、コロンビア在留邦人の一人としてとても誇らしい結果となりました。
まずは8月に開催された野球のU-15ワールドカップです。コロンビアと言えばサッカーを思い浮かべる方が大半かと思いますが実は野球も盛んで、コロンビア出身の大リーガーもいる程です。コロンビア国内において野球はカリブ海沿岸地域で人気があり、プレーヤーのほぼ全員が海岸地方出身者です。国内プロ野球リーグもあり、チームも全て海岸地方の町を拠点としています。今回のU-15ワールドカップは大都市バランキージャ市とカルタヘナ市の二ヵ所のスタジアムで開催されました。
このうちバランキージャ市のスタジアムはかつて大リーグ、サンフランシスコ・ジャイアンツに所属し2010年のワールドシリーズで決勝打を放ち優勝に貢献したこの地出身の英雄Edgar
Renteriaの名を冠しています。スタジアムはとてもよく整備されていてアメリカ・マイナーリーグも開催出来る基準を満たしています。
ここでは2018年にもU-23ワールドカップが開催され、東京オリンピックで金メダルを獲得した稲葉監督率いる侍ジャパンも出場・準優勝となりました。この時活躍されたのが現在福岡ソフトバンクホークスの主軸、東京オリンピック・そして昨年アメリカで開催されたWBCワールドベースボールクラシックでも活躍された快足・周東佑京選手です。この時私は侍ジャパンのバランキージャ到着から決勝戦・帰国までずっと帯同させて頂きました。
それから6年となった今年はU-15ワールドカップが開催され、日本から井端代表監督率いる侍ジャパンが出場・見事世界一の座につきました。大会開催前には井端監督・吉見コーチが首都ボゴタに立ち寄られコロンビア駐箚・高杉特命全権大使にご挨拶され、大使より激励のお言葉を頂きました。その甲斐もあっての優勝かと思います。
井端監督曰く、15歳までの選手は大リーグアカデミー入りする16歳前という年齢から特にカリブ海地域の国々の選手に逸材が多く、初戦となったドミニカ共和国戦が重要なカギを握りますと大会前に話されていました。その言葉通り大会初戦のドミニカ共和国戦では乱打戦となりましたがこれを制し幸先いいスタートを切り勢いに乗り、その後も勝ち続けついに世界一の座につきました。私としては6年前に決勝で敗れたその雪辱を果たしてくれた・その思いです。
コロンビア人・特に地元バランキージャの方々の大半は日本が野球の強豪国(現在世界ランキング1位)である事を殆ど知らなかったようで、現地バランキージャ市には国際協力機構(JICA)から青年海外協力隊が野球指導の為に派遣されているのですが、なぜ日本からわざわざ派遣されているのか今回の侍ジャパン世界一でその存在意義が改めて分かった事と思います。
今回私は選手達に帯同しませんでしたがボゴタにおいて再び井端監督・吉見コーチ他前回もご一緒した侍ジャパンスタッフの方々を出迎え、出国を見送りました。この大会で世界一になった事もあり高杉特命全権大使が急遽空港まで駆け付けられ、お祝いのお言葉をかけられました。井端監督・吉見コーチには次回の日本一時帰国の際にお目にかかれれば幸運です。改めて優勝おめでとうございました。
そして9月に開催されたのがサッカーU-20女子ワールドカップでした。こちらも日本からなでしこジャパンが出場、決勝戦で北朝鮮に敗れ準優勝となったものの素晴らしい結果となりました。
標高2,600mの高地である首都ボゴタでフル代表による国際大会が行われる事はまず有り得ない事で、出場選手がU-20と若い事が理由なのか今回はFIFAが例外的に認めた国際大会でした。酸素濃度が平地の約70-80%未満という過酷な条件下で90分を戦い抜いた選手達の体力には驚愕しました。
決勝戦は日本対北朝鮮というアジア勢同士の戦いとなりましたが、首都ボゴタのEl Campinスタジアムはほぼ満員となりました。前述の通りフル代表がここボゴタで国際試合を行う事は通常なく、男子ワールドカップ南米予選は野球と同じバランキージャ市にあるメトロポリタン・サッカースタジアムで常に行われます。ボゴタ市民にとってはU-20ではあるもののFIFA主催の国際大会が開催される事はもう二度とないと分かっていた事もあって大勢の方々が詰めかけたのかもしれません。私自身も日本代表がここボゴタで国際大会に出場する事はもうないだろうと思い記念に撮ってみました。
決勝戦の試合の方はなでしこジャパンが0-1で敗れ世界一の座には就けませんでした。試合を間近で見ていましたが開始数分で北朝鮮の方がプレーの技術力・体力面共に全てなでしこを圧倒的に上回っている事がはっきりと分かり厳しい試合になると感じたその通りの結果となりました。特に体力面では例えば北朝鮮がコーナー付近まで伸びる長いスルーパスを出すと懸命に走った北朝鮮選手はぎりぎり追い付き、なでしこの選手は北朝鮮選手に追いつけず取り残される場面がかなりあり、前述の通り高地で酸素濃度が薄いこの地において圧倒的な走力を誇った北朝鮮の選手達に驚愕しました。なでしこの失点は一瞬のスキを突かれてロングシュートを決められたものです。
とはいえなでしこの皆さんの健闘も大いに称えたいと思います。この試合をテレビで観戦した私の周囲のコロンビア人達の、決勝戦翌日の私に対する態度が明らかに変わった事を感じました。すなわち「日本がこんなに強いとは思わなかった」そういう事でしょう。
サッカーに関して申し上げると、コロンビアはクラブチームレベルではかつてクラブチーム世界一決定戦に南米代表として出場したチームもあり強豪です。しかし代表チームの場合は男女共に今まで世界レベルの大会で優勝・準優勝をした事がありません。意外とも言えます。その点で日本は特に「なでしこ」に関してはフル代表がかつて世界一の座につき、今回のU-20も三大会連続で準優勝という素晴らしい実力を誇っています。
今回の大会・決勝戦でボゴタのスタジアム内になでしこジャパンを応援する「ハポン(Japon)!!!」の大歓声が響き渡りました。数万人のボゴタ市民・コロンビア国民が日本を連呼する場面はもう二度とない事だろうと思います。とても貴重な一時を体験しました。なでしこジャパンの皆様、準優勝おめでとうございました。