連載エッセイ406:服部正「コスタリカの体操事情」 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ406:服部正「コスタリカの体操事情」


連載エッセイ406

コスタリカの体操事情

執筆者:服部 正(コスタリカ体操連盟、JICA海外協力隊員)

 コスタリカは日本の九州と四国をあわせたぐらいの国で、そこに約500万人が暮らしています。気候は亜熱帯で6月から11月は雨期、12月から5月までは乾季、最高気温は1年を通じて25度から30度で過ごし易い国です。人々はとても陽気で他人には優しく、困っている人を助け合う国民性です。コスタリカは2009年から2016年まで世界幸福度ランキングで3回連続1位を獲得した国としても有名です。軍隊を持たず、その資金を教育と医療に向け、公立学校は小学校から大学まですべて無料で、公立病院もすべて無料で受診することができます。また、自然環境や動植物の保護活動に力を入れ、地球上の全動植物の5%が生息するといわれている環境を守り、エコツーリズムの先進国としても君臨しています。そんな国コスタリカの首都サンホセで、現在JICA海外協力隊の一員として、子供達に体操を教えています。今回はコスタリカの体操事情や体操の歴史、コスタリカの魅力などを紹介したいと思います。

1.コスタリカの体操事情

 コスタリカには日本の部活動にあたる活動はなく、子供達が運動するには、社会体育に頼ることになります。学校教育の中にも体育は存在しますが、小さなグランドとわずかな器具しかないので、授業はサッカーで遊ぶだけになってしまうことも多いようです。コスタリカの体操競技人口は体操競技、新体操を含めて約5000人で、500万人の人口から考えると、全人口の0.1%に相当することになり、人気競技の一つといえるかもしれません。しかしそのほとんどは女子選手です。昨年10月にあったコスタリカ体操競技選手権大会では、全国の19のクラブから総勢475名の参加者があり、およそ1週間をかけ競技しました。コスタリカ選手権はUSAG(米国体操連盟)というアメリカが体操普及用に開発したルールに基づいて行われ、オリンピックで採用されているFIGルールとは異なります。レベル1~10に分かれていて、レベルごとに競い合います。また、初心者向けに行っている「エスコラール」というカテゴリーも存在し、それにも約400名が参加し、大きな盛り上がりを見せました。エスコラールは簡単な床運動の規定演技だけを行う競技で、コスタリカ国内ルールに基づき競技されます。練習環境が整わない施設や、練習日が限られてしまう選手も参加できるように配慮されたものです。表彰も日本とは大きく異なります。日本は6位までが入賞で、3位までがメダル受賞者になり、その他大勢は参加者ですが、コスタリカでは10人以内の小グループをたくさん作り、その中での競争にしているので、全員にメダルが渡ります。子供達の意欲を高めるという意味では良い方法です。そのような中、2021年の東京オリンピックに、コスタリカからルシアナ・アルバラドという選手が初めて出場を果たしました。厳しいラテンアメリカ予選を勝ち抜き、参加を果たした彼女に対し、国民は最大限の賛辞を送りました。中米6カ国の中では、コスタリカの競技レベルは高く、優勝することも多くありますが、ブラジルやアルゼンチンなど南米の国々を加えるとそのレベルは相当開きがあり、そこを勝ち上がっていくのは並大抵のことではありません。それだけに、ルシアナ選手の初めてのオリンピック出場に国民は大きな拍手を送りました。


コスタリカ選手権会場にて

2.コスタリカの体操の歴史

 コスタリカにJICAボランティアの派遣開始から、今年がちょうど50年になります。8月30日に50周年を祝う催しが、関係するたくさんのコスタリカ人を招待して行われました。その催しの中で、一人のコメンテーターとして、私の同僚でもあり、コスタリカ体操界に長い間関わり続けているコーチが、コスタリカの体操の歴史と日本人コーチとの関係を話してくれました。彼は10歳の時に体操を始めましたが、その最初のコーチが、JICA海外協力隊派遣初年度の1974年コスタリカへ派遣された体操コーチだったのです。最初の頃は体育館に器具がなく、あったのは手作りの平行棒やわずかなマットだけだったようです。練習も屋外の草むらで行うこともあったようです。そのような中、コスタリカ日本大使館より体操器具一式が援助され、それがコスタリカ大学体育館に設置されました。練習拠点も大学に移り、ようやく本格的な練習が始まったそうです。しばらくして、練習してきた演技を試すため、パナマで開かれた中米大会に参加しました。その時選ばれた選手4人のうちの一人に、私の同僚は選ばれ、初の国際大会を経験しました。そのときの選手4人はその後も長く競技を続け、また、引退後は指導者として活躍しています。私の同僚は25歳まで競技を続け、現在エンジニアとして仕事をする傍ら、たくさんの子供達に体操を教えています。代表の二人目の選手は、同じように長く競技を続け、引退後の現在は2つのクラブのコーチを掛け持ちしていて、指導者として長く体操界に関わり続けています。3人目の選手は現役引退後、アメリカに渡り、そこでアメリカの子供達に体操を教えています。最後の4人目の選手は、引退後他の職業に就きましたが、その後も体操関係者として連絡を取り合い、場合によっては手伝いをしています。現在のコスタリカには、20以上の大きな体操クラブが存在し、小規模なものも含めると多くの練習場があります。日本の国体にあたる大会とコスタリカ選手権大会が大きな大会ですが、あとはクラブ主催の競技会もたくさん開催されています。最初に派遣された隊員が体操の種をまき、たくさんの優秀な選手やコーチが生まれ、そして孫にあたる選手やひ孫にあたる選手など続々と育っていったことを考えると、私たちの地味な活動も何らかの役に立っているのを感じ、うれしくなります。


初代隊員と選手達の今現在

3.コスタリカの魅力

 コスタリカは、国土全体の25%を国立公園や自然保護区に指定し、自然環境の保全や動植物の保護育成に努めています。それを、そのままの形で海外の旅行者に提供しようという試みが、エコツーリズムであり、コスタリカはこの分野での先進国になっています。現在アメリカ合衆国やヨーロッパの国々からたくさんの旅行者が訪れ、そのままの自然を堪能しています。協力隊の活動の傍ら、自分自身で見て回ったいくつかの国立公園を紹介します。

① モンテベルデ自然保護区

海外からの旅行者に人気のスポットで、ここの魅力はなんといっても幻の鳥「ケツァール」が見られることです。手塚治虫の「火の鳥」の元となったといわれているこの鳥の美しさは他に比べようがありません。赤、緑、黄色、紫など何色もある羽を持ち、その美しさは日本の十二単すらイメージさせます。また、飼育されている「はち鳥」も間近でたくさん見ることができます。モンテベルデ近郊には大きな自然施設もあり、吊り橋散策やジップラインなどのアドベンチャーも楽しむことができます。

② アレナル火山国立公園

アレナル火山は富士山に似た円錐形の形をした美しい山です。その山の裾野に広がる国立公園でトレッキングや乗馬体験、ジップラインなど色々な体験ができる施設が整っています。特に、ここにはいくつかの温泉施設があり入浴することができます。タバコンリゾートと呼ばれる温泉が一番大きく有名です。日本のような温泉ではなく、川の上流から大量の温水が流れてきて、水着を着て温水浴を楽しみます。

③ トルトゥゲーロ国立公園

カリブ海に面した海岸沿いにあって、自然動物をたくさん観察することができる公園です。この公園までの陸路はなく、途中から船に乗り換えて目的地に行きます。イグアナ、猿、ナマケモノ、ワニなどたくさんの動物たちが生息していて、自然のままの動物たちを見ることができます。また、ウミガメの産卵地でもあり、時期が合えば神聖なウミガメの産卵に立ち会うことができます。

④ チリポ国立公園

チリポ山は富士山より高い標高3820mあり、中米の中で最も高い山です。登山基地のサンヘラルドの標高は約1500mなので、2300mも登ることになります、天気のいい日ならば、頂上からカリブ海と太平洋が同時に見ることができます。頂上近くにある山小屋付近は見晴らしも良く、すばらしい景観が広がっています。登山道はきれいに整備されており、山小屋も大きくとても立派です。


山頂近くの山小屋付近にて

以   上