峰尾 洋一(丸紅経済研究所 研究主幹)
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慢性化する非正規移民問題と処方箋の書けないアメリカ政府 峰尾 洋一(丸紅経済研究所 研究主幹)
アメリカにとっての非正規移民問題
2024年大統領・議会選挙を控えての世論調査で、景気と並んで国民の関心が高い政治課題は非正規移民である。長大な国境を擁する先進国アメリカにとって、これは避けて通れない問題だ。筆者がワシントンに勤務した2017年から2023年の間、政権は代わったものの、非正規移民の問題は連綿とハイライトされていた。アメリカは東西を大洋に守られ、南北の二か国との関係において安全保障上の大きな懸念はなく、両国との経済的な結びつきも強い。2001年の同時多発テロや第二次世界大戦中の日本軍風船爆弾などの限られた例はあるが、本土が攻撃された経験も少ない。そんな外部攻撃への免疫が弱い中で、決して攻撃を目的とするものではないが、国境を乗り越えて外国人が入り込んでくる。それに関連付けられた人身売買や薬物の問題が指摘される。トランプ政権時、民間の民兵組織の一部が自主的に国境警備に向かうという事件が起きた。もちろんこれは一部の極端な例ではあるが、程度の差はあれ、自分の土地に大量の外国人が流入してくることに対する一般的な感情は、過小評価されるべきではないだろう。近年、本来その範疇には含まれない非正規移民問題を外交に含める論評が散見される。だが、他の外交問題と非正規移民問題の大きな違いは、この国民への身近さであり、その影響を国民が肌で感じる点と言ってよい。従い、この問題は時の政治に深く関わり、選挙で大きく取り上げられることになる。
バイデン政権の豹変
2020 年の選挙期間中、バイデン陣営はトランプ政権の移民政策(国境の壁建設、難民申請者の国外待機、家族分離、長期間の留置など)を厳しく批判した。そしてバイデン大統領は就任初日からそのキャンペーン公約に忠実に動く。
2021年1月の就任初日に発表された政権の優先課題の中に、コロナ対策や経済、ヘルスケアなどと並んで移民対策が含まれた。そこには、アメリカが「公平で秩序だった移民システムを維持し、そのシステム下では移民を歓迎し・家族分離を許さず・既に居住する者も新たにアメリカを目指して来る者も等し