【季刊誌サンプル】メキシコにおける移民問題の新局面 高橋 百合子(早稲田大学 准教授) - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

【季刊誌サンプル】メキシコにおける移民問題の新局面 高橋 百合子(早稲田大学 准教授)


【季刊誌サンプル】メキシコにおける移民問題の新局面

高橋 百合子(早稲田大学 准教授)

本記事は、『ラテンアメリカ時報』2024年夏号(No.1447)に掲載されている、特集記事のサンプルとなります。全容は当協会の会員となって頂くか、ご興味のある季刊誌を別途ご購入(1,250円+送料)頂くことで、ご高覧頂けます。

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メキシコにおける移民問題の新局面 高橋 百合子(早稲田大学 准教授)

はじめに
これまでメキシコは、米国へ多くの移民を送り出す国として知られてきた。しかし、近年、メキシコの移民を取り巻く環境は大きく変わった。とりわけ、2017年に米国で移民に敵対的なトランプ政権が発足し、メキシコでは2018年に国家再生運動(MORENA)のロペス・オブラドール(以下、AMLO)大統領率いる政権が発足して以降、中南米からメキシコを経由して米国へ向かう人の流れが加速した。これを背景として、AMLO 政権下では新たな移民政策が打ち出された。しかし、対外的には米国の移民政策に追随し、対内的には移民政策の軍事化(militalización)への懸念が高まっている。本稿では、AMLO 政権下における移民の新たな傾向を概観し、対外的・対内的にどのような移民政策が行われてきたのか、その現状評価を試みる。なお、本稿では、移民(migrants)、難民(refugees)、亡命希望者(asylumseekers)を区別せず、移民と総称して議論を進める。

移民送出国から移民送出・受入・通過国へ
メキシコを取り巻く移民状況の変化の特徴として、メキシコから米国への非正規越境者の減少、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルといった「北の三角地帯」からの移民の増加、未成年者と家族での移住の増加、移民理由の多様化、メキシコへの移住者増加などが挙げられる(Guillén López 2024)。
図1 は、米国税関国境警備局(CBP)が集計した、米国南部国境で「遭遇(encounter)」された越境者の数の推移を、メキシコ国籍保有者、すべての外国籍保有者について表している。なお、「遭遇」とは、新型コロナウイルス感染拡大抑止のために移民を制限する目的で2020 年3月に発動された「タイトル42」、もしくは通常の入国審査に適用される移民規制の法的枠組みである「タイトル8」により、入国が許可されなかった越境を指す。新型コロナウイルス感染が拡大し、米国とメキシコの陸路国境は2020 年3月21日に閉鎖されると、いずれの越境者も大きく減少した。しかし、2021年11月8日に国境が開かれると、メキシコ国籍保有者はピーク時の2022 年2月よりは減ったものの、一定水準にとどまっている。他方、中米・ベネズエラからの越境者は約27 万人へと激増し、国境閉鎖前の5 倍を上回る記録的な水準に達している。
国家移民機関(Instituto Nacional de Migración)の元所長で、著名な移民研究者であるGuillén López(2024)は、単独で移住する成人男性が依然として多いが、同伴者のいない未成年者や一家での移住が増えていることを指摘する。これは、より良い雇用機会を求める従来の移民から、政治暴力や自然災害等、多様な理由による移住の増加を示唆する。他方、中米からの移民流入は、「移民キャラバン」として注目を集めた。非正規での移民には、コヨーテと呼ばれる密航仲介人に金銭を支払ったり、組織犯罪に巻き込まれたりと、危険が伴う。2018年から2019年にかけて、危険を避けて身の安全を守るため、「キャラバン」を結成して集団で移住する動きが起こった。
中米移民キャラバンの最終目的地は米国であるが、当初は通過点であったメキシコに移住する人が増えた。図2は、2012年1月から2024年6月までの期間に、メキシコ国内に非正規移民として滞在した移民者の推移を示