『辺境からコロンビアを見る ―可視性と周縁性の相克』
幡谷 則子・千代 勇一編著 上智大学出版発行・ぎょうせい発売 2024年8月 270頁 2,500円+税 ISBN978-4-324-11450-6
コロンビアについての図書は少なからずあるが、本書は生物多様性、自然と資源そして文化でも豊かな「辺境」に生きる人びとに焦点を当てて6人の地域研究者が国家行政サービスの提供域外に置かれていた辺境から、コロンビア社会全体に通じるものは何かを論じ、そこから日本や国際社会が抱える社会問題や社会的排除への取り組みに資することを考える一助にしたいと意図した、これまでのコロンビア研究書とはひと味異なる視点からの考察の試みである。
2016年、政府がコロンビア革命軍(FARC)と和平合意を調印した後も、紛争地域であった辺境では暴力、貧困に苛まれる人びとは減っていない。都市部の和平構築は農村部辺境地域が依然抱える社会的排除への取り組みと連携しているとは言えない状況が続いている。本書では辺境からコロンビアの今を見、概観する(幡谷 上智大学教授)ことから始め、違法作物コカ栽培とその対策の展開(千代 帝京大学准教授)、北端のラ・グアヒラ県の先住民族の生業である真珠採取、密輸、製塩、石炭採掘と風力発電の変容(松丸進 上智大学大学院博士課程後期)、北西部チョコ県のアトラト川流域の金採掘等開発、バナナプランテーション労働者の闘争と解放の神学の影響(幡谷)、アフロ系住民も多く椰子の実採取と木材伐採産業の町である太平洋岸南部トゥマコ市でのクライエンテリズム(相互互換関係)と社会運動化にともなう抗争の変容(柴田修子 同志社大学准教授)、同市周辺地域での貝採取女性たちの事例(ブルバーノ・G.ダビッド 教皇立ハベリアナ大学教授)、紛争時・終結後の国内避難民の可視化に因るゲリラシンパとの真偽究明による社会的排除(近藤宏 神奈川大学准教授)、終章で辺境地域やその人びとの生き様の中に、21世紀の開発戦略の影で国家と市場から「統合」されつつも社会的排除を受け続けていること、それが可視化される過程で新しいコンフリクトと抵抗の力を生んでいることを指摘し、「辺境」の特質と辺境アプローチの意義、他地域がそこから学ぶことは何か(幡谷)を述べている。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2024年秋号(No.1448)より〕