『パナマの仕立屋(上・下)』
ジョン・ル・カレ 田口 俊樹訳 早川書房(ハヤカワ文庫NV 1527/1528) 2024年7月 368/400頁 各1,320円+税 ISBN978-4-15-041527-3/978-4-15-041528-0
英国の諜報機関MI5、MI6の諜報員として西ドイツの公館に勤務した経験もある、探偵・スパイ小説の巨匠として数々の著作を残したジョン・ル・カレ(1931~2020年)が珍しくパナマを舞台にした一品。1999年10月に集英社から単行本として刊行されたものの文庫化。
パナマ運河返還前夜に運河を手に入れたい英国政府の意を受けた諜報員オスナードが初の赴任先としてパナマに赴き、政府・軍要人御用達の仕立屋ベンデルを情報屋として抱き込む。仕立屋が採寸しながら大統領や米軍司令官などから聞き出した情報から、政府転覆の企てを知り、仕立屋を通じて活動資金を渡そうとする。諜報員の手口もさることながら運河返還をめぐるパナマ政府や運河委員会、要人や英国大使館などの関係者の動きや相互の関係などがフィクションと判っていても巧みなストーリー展開に魅せられる。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2024年秋号(No.1448)より〕