執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)
このところの旱魃と野火が大きな問題であることはこれまでも書いてきましたが、今日のLa Nacion紙には一層刺激的な記事が掲載されていますので御紹介します。
Paraguay en llamas: ¿estamos en la era del piroceno o fuego incontrolable?=炎に包まれたパラグアイ:我々は火新世に突入したのか、それとも制御不能な火の時代なのか?
今日の言葉llamaは、炎という意味以外にも沼地とかアンデスの動物リャマという意味もありますし、llamar=呼ぶという動詞の名詞形でもありますが、このタイトルで見慣れないpirocenoという単語も出てきて戸惑います。英語ではpyroceneとされるこの言葉、火新世については以下の説明文をお読みください。
この記事の中で、最近の野火で焼けた面積が紹介されていますが、2020年には350万ヘクタール=3.5万㎢もの面積が燃えたとされています。日本の総面積が38万㎢ですから、3.2万㎢の関東6県や四国4県と同じ広さが燃えたということになります。
https://prezo.jp/column/4152
今年は1月から7月迄に0.9万㎢が焼けたと書いてあり、更に8・9月の数字が未だ把握されていないようですが、この二か月間の感覚としては、2020年と同様かそれ以上の面積で野火が広がっていたように思います。
この干天は、南米水運の大動脈であるパラグアイ川やパラナ川の水位低下も招いており、物流問題だけでなく、アスンシオン市では飲料用や工業用の取水にも支障を来たし始めています。
アジアや北米東海岸では大雨の被害が相次いで報じられていますが、南米ではアマゾン川の水位低下も問題になっており、世界的な降雨のバランスの悪さが際立つ状況であると言えます。
ところで、昨日はパラグアイの通貨グアラニが81周年を迎えたとの記事が掲載されていました。
これまでもグアラニがラテンアメリカで流通している最も古い貨幣であることは御紹介してきましたが、1943年の制定以降しばらくの間は米ドルとの兌換レートを固定していたようで、1980年に変動制を導入して以来も、通貨単位を変更していない稀有な存在感を発揮しています。
https://es.wikipedia.org/wiki/Anexo:Cotizaci%C3%B3n_hist%C3%B3rica_del_guaran%C3%AD
今日から夏時間が始まって日本との時差が12時間に縮まりました。隣国ブラジルではここ暫く夏時間の採用を見送っているので、今日からはブラジル東部と同じ時間帯になって、国境生活が少し便利になります。
パラグアイ最大の農作物は大豆で、直近では年間約1千万トンの生産量となっています。総作付面積は365万ヘクタール、平均すると1ヘクタール当たり2.76トンの収穫量という計算になります。
https://capeco.org.py/area-de-siembra-produccion-y-rendimiento/
ちなみに、日本における大豆の作付面積は15万ヘクタール、収穫量は26万トンで、ヘクタール当りの平均収量は1.73トンですから、パラグアイの大豆栽培の規模が如何に大きいか御理解いただけると思います。
国土面積が約41万㎢のパラグアイにおける大豆の作付面積が365万ヘクタール=3.65万㎢ということは、国土面積の9%で大豆が栽培されている計算です。
この面積は国土の今日のニュースによると、チャコ地方=25万㎢での大豆作付面積が15.4万ヘクタールになったということ。(Zafra de soja 2024 superó las 154 mil hectáreas en el Chaco paraguayo)
パラグアイのチャコ地方というのは、国土全体の6割を占めるエリアで、かつては未開拓の地とされてきましたが、近年は開拓が進み、主に放牧地としての開発が行われていましたが、ここにきて急激に栽培作物の作付けが進んでいます。
前述の大豆の作付面積比について、国土面積の4割=16万㎢のパラグアイ川東側地区に絞ってみると、大豆の作付面積は350万ヘクタールで、総面積における大豆畑の占める割合は22%ということになります。東側エリアの大豆栽培が如何に大規模であるか、改めて解る訳ですが、これまで栽培農業が行われていなかったチャコ地方で、作付けが進むと、パラグアイの穀物生産量は今後も飛躍的に増加することが容易に想像できます。
チャコ地方の開発は着実に進んでおり、これまで何度も御紹介している陸のパナマ運河こと、Ruta Bioceanica=太平洋・大西洋接続道路が完成すると、チャコ地方の重要性は一層増すことになり、南米産の農産物が太平洋=アジア諸国にアクセスし易くなる訳ですから、チャコ地方での栽培作物開発も益々盛んになって行きます。
また、ブラジルとパラグアイとの国境に新しい橋が建設されたことは今まで何度もお伝えしていますが、今週はその橋の通貨に通行料が課されることになるというニュースが伝えられました。
Brasil cobrara peajes en 12 puentes internacionales incluidos dos con Paraguay(ブラジルはパラグアイ国境の二つを含む12の国境橋で通行料を徴収する)
南米の農業発展やインフラ拡充について熟知した地元の人達は、この地域の将来に向けて着実に準備を進めています。
今日のLa Nacion紙の一面に画期的な記事が写真入りで紹介されていました。
歴史的!パラグアイ産トマトがアルゼンチン市場へ!
パラグアイでは1日18万キロ=年間6万4千トンのトマト需要があり、アスンシオンを中心とした比較的小規模な近郊農家がこうした需要に応えるべくトマト生産を行っています。https://www.abc.com.py/economia/2023/11/08/paraguay-tiene-demanda-de-180000-kilos-de-tomate-por-dia-asegura-el-mag/
しかし、永年に亘って、隣国アルゼンチンの大規模農家が生産するトマトが違法にパラグアイに密輸され、中小規模の近郊農家の経営を圧迫する状態が続いていました。こうした密輸の背景には、アルゼンチンの通貨が公式レートと市中並行レートとで大きく乖離していて、外貨収入を得たいアルゼンチンの業者が、パラグアイに密輸製品を持ち込むことで外貨稼ぎを行うという行為があったのですが、昨年末に始まったアルゼンチン・ミレイ大統領の経済改革によって、公式レートと並行レートとの差が縮まり、闇業者のメリットが無くなっていました。
そうした経済格差の是正が進んだ結果、パラグアイ産の製品がアルゼンチンに輸出されることになったという訳です。
ちなみに、年間6万4千トンの消費量ということは、人口一人当たりの年間トマト消費量は約9kgという計算になります。日本の数字は5kgという事ですから、パラグアイ産のトマトを加工して缶詰などの製品にしてアジアに輸出、ということも可能になる筈です。
https://www.yasainavi.com/graph/worlddata/item=tomatoes
7月にご紹介した通り、パラグアイの通貨グアラニは1943年以降81年間ずっと同じ単位が維持されているラ米では稀有な存在であり、その安定性がここに来て改めて南米中の資本家から評価されてきています。トマトのアルゼンチン向け出荷というニュースも、そうしたパラグアイ経済の健全性の賜物であると考えられます。
少し前の記事ですが、パラグアイの生活費は南米で最も安価であるということも報じられていました。https://www.lanacion.com.py/negocios/2024/08/14/por-que-paraguay-es-considerado-el-pais-mas-barato-para-vivir-en-sudamerica/
為替の安定性がこうした評価に繋がると、トマトに続いて色々な製品の外国向け出荷がニュースになると思われます。
今週は久々に日本に戻っていますが、今回の一時帰国でも、より多くの方々にパラグアイでの投資メリットをお伝えしようと考えています。
御興味ある方は御連絡ください。
日本では衆議院議員総選挙の朝を迎えました。
今回の選挙で如何なる審判が国民から下されるのか、非常に興味深いところですが、パラグアイでも2028年に行われる次の大統領選挙に向けた動きが報じられています。
Peña quiere reformar la Constitución(ペニャ大統領は憲法改革を志向)
記事の内容は、現在不動産税の30%を各地方自治体から国庫に納付する義務が課されているものを変更して、100%地方で活用できるように、という憲法改正を大統領が目指しているというものですが、その改革を行うと同時に、現在憲法で禁じられている大統領の再選を可能にするような改変も狙っているという趣旨です。
ペニャ大統領の施策に関しては、個別事案毎に賛否両論あるものの、筆者個人としては押しなべて賛同できるモノが多く、劣化している日本の政治と比較すると大いに期待できると感じています。
ラミレス外務大臣(左)とペニャ大統領 手にしているのはテレレ冷茶の容器
経済ニュースでは、首都アスンシオン近郊のVilleta市で、新たなリサイクル工場が竣工式を迎えたことが報じられています。
1200万ドル(約18億円)を投じた新しい工場では、リサイクル素材での精錬が可能になるとのことで、60人の直接雇用を生み出し、鉱物資源の乏しいパラグアイでの資源再利用に大きな可能性をもたらすとされています。
限りある資源の再利用は今後も重要なテーマですが、電力エネルギーは100%水力由来、熱源の4割が木質燃焼という天然再生可能素材で賄われるグリーンな国パラグアイでの益々の投資活性化に、日本の皆さんもご注目ください。
以 上