執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)
A. 国家予算の議論
10月7日に、チャップマン経済財政大臣は、国会に2025年の国家予算法案を提出した。しかし、国家予算委員会で財政責任法の定める財政赤字上限(GDP1.5%)、その他の複数の法律、および憲法の規定に反する指摘がされたため、政府が10月10日に法案を取り下げた。総選挙が行われる年、新政府が8月に国家予算法案を提出する義務が規定されているが、チャップマン経済財政大臣は、前政権のPRD党の作成した予算が非現実的であり、作り直す作業ではいくつかのミスがあったと説明し、10月15日に改めて法案を提出した。
近年、新型コロナウイルスパンデミックの影響にも関わらず、国家予算増加傾向があったが、2025年予算はGDPの3%成長を前提として、267億3500万ドル(前年同期比14%減)となっている。国会(前年同期比4800万ドル減)、司法(前年同期比5800万ドル減)、公立大学(前年同期比9300万ドル減)、各自治体、およびその他の独立機関のような様々な公的機関の予算が減少している。以上をもって、10月22日に開かれた国会前で市長100人をはじめとする地方自治体の代表者がデモを行い、同日に開催された国会の予算委員会の議論では、国家予算法案が地方分権法および教育総合法に反するため、改めて予算を修正する必要があると指摘された。
B. 歳入歳出の状態
近年、政府の歳入減少が問題となっている。経済財政省によると2024年1月から9月の歳入は49億1700万ドル(前年同期比4.2%減)、2024年国家予算で予測された額を約12億ドル下回っている。また、コルティソ政権(2019-2024)が新型コロナウイルスパンデミックへの対応に必要な資金を確保するため国債を発行したが、経済的不況中に起きた政府の歳出激増に対する歳入がなかった。しかし、コルティソ政権では実際には出勤しないにもかかわらず給与を受け取る公務員(Botella「瓶」)の任命による政府の人事費用激増、返済義務なしの教育支援のような無駄歳出スキャンダルが多かった。
以上に対して、政府が、緊縮策とともに、収税強化対策も講じている。政府が納税状況を考慮し、積極的な納税を促進するため10月14日、2024年の所得税、固定資産税、法人税、消費税等の滞納について12月31日までの猶予期間を定める法案を提出した。また、政府は財政の管理に柔軟性が必要と主張し、財政責任法の改正によって財政赤字上限を廃止する法案を提出したが、国会での議論において、上限廃止は却下され、上限の引き上げという形がとられている。
歳入不足は2024年予算の執行に悪影響を与えるため、パナマ政府が10月16日に、米国投資銀行のJPモルガンと10億ドルの融資契約を締結した。経済財政省は、近年では消費税の不納によって15億ドルの損失が発生していると発表し、チャップマン経済財政大臣は2025年の国家予算法案では増税は予定されておらず、総税局の強化対策を採用すると述べ、脱税を防ぐため、領収証の発行を請求するよう国民の協力を求めている。
しかし、以上の対策にも関わらず、2025年の国家予算法案での人事費用が70億ドル(前年同期比2億6400万ドル増)となり、国の一般歳出の約44%を占めている。2019年時点、政府の国家公務員、職員、その他のスタッフは23万8248であったが、2024年6月時点では26万2330となった。ムリノ政権に変わり7月に約3,500人が減ったが、8月では約2000人が採用され、現時点では26万830人となっている。
A. ムリノ大統領ヨーロッパ訪問
ムリノ大統領が10月20日から外交関係の強化とブラックリストからの削除要請のため、ヨーロッパ訪問を開始した。今回の訪問はフランスから始め、パナマ大統領によるフランスへの公式な訪問は11年ぶりとなる。10月21日に、ムリノ大統領と同行している大臣や企業の代表者がパナマに興味のあるフランス企業の代表者と会議をした。また、同日に行われたムリノ大統領とマクロン大統領の対話直後、フランス政府がパナマのブラックリストからの削除に協力すると発表し、マクロン大統領が2025年後半にパナマを訪問すると述べた。10月23日には、ムリノ大統領とドイツのショルツ首相の対話が予定されていたが、10月18日に対話が行われないことが発表された。
9月25日に行われた国連総会では、ムリノ大統領は金融ブラックリストへのパナマの記載に賛成する国の企業に対して、パナマでの運河の利用、公共事業への入札参加を制限または禁止することを検討していると発表した。10月8日にEUは、アンティグア・バーブーダを金融ブラックリストから削除することを決定したため、10月11日に、パナマ政府がヨーロッパ諸国を呼び出し、パナマへの差別的な取扱いとして「断固抗議」の批判を伝達した。
EUは、2020年5月にパナマを租税回避地ブラックリストに追加し、当時パナマ政府は、「近年の法律改正や政策を考慮していない上、EUはパナマに対する通知または返答する機会を与えていない」と反論した。租税回避地ブラックリストへの追加前から政府は121か国と税務情報交換協定を結んで、現在でも様々な国と交渉している。また、パナマ政府は、透明性強化のため、ペーパーカンパニーの削除を積極的に行い、既にパナマで登記されている70万以上の会社の半分は登記抹消となった。