『食べ物でたどる世界史』
トム・スタンデージ 新井崇嗣訳 楽工社 2024年8月 2,350円+税 ISBN978-4-903063-99-7
全人類の歴史に食べ物が社会変革、社会秩序、地政学的争い、武力抗争、産業発展、経済拡大に果たした役割は実に大きい。全文明の基盤は中近東では大麦・小麦、アジアでは黍と米、南北アメリカではトウモロコシとじゃがいもだった。その後も欧州が帝国構築を競い合い産業化を会した急速な経済発展をもたらしたのは砂糖とじゃがいもだった。
本書は食べ物をめぐり、野生種を改良していったトウモロコシは、インカの王がまず耕し、種を蒔くこと一斉に耕作を開始した。アジアの香辛料はその交易路を求めてポルトガルとスペインが競い、コロンブスによる新大陸到達航路が開かれ、「コロンブスの交換」によってトウモロコシとサトウキビがそれぞれの地に植えられた。後にインカ帝国征服後欧州にもたらされたじゃがいもが欧州の飢餓を救い人口の維持・増大に大きく影響し、欧州の工業化の糧ともなった。海上交易大国として台頭したイングランド王チャールズ二世を虜にしたのはパイナップルだった。
本書では食料等兵站不足でモスクワを制圧しながら敗退したナポレオン軍、近世の強引な農業の集団化・工業化推進により大規模な飢餓と餓死者を出したスターリンならびに毛沢東の失政、世界の食糧生産を変えた化学肥料の発明などを記し、最後に北極圏に設けられた世界種子貯蔵庫に言及し、内容の濃い人類の食べ物史となっている。著者には『歴史と変えた6つの飲み物 -ビール、ワイン、蒸留酒、コーヒー、茶、コーラが語るもう一つの世界史』(訳書-楽工社 2017年)の著書もある
〔桜井 敏浩〕