ウルベ・ボスマ 吉嶺英美訳 河出書房新社 2024年9月 517頁 3,900円+税 ISBN978-4-309-22931-7
2000年に及ぶ砂糖は、天然の物資を創意工夫で甘さ、使い易さを増し大量生産化されるようになったが、その生産過程で奴隷労働、搾取、人種差別、肥満、環境破壊といった負の側面もある。本書は砂糖の歴史、製造技術の発達だけでなくプランテーション化から砂糖ブルジョワジー、特に蒸気機関の導入による製糖業者の強力な砂糖資本主義支配を生じた。これまでの砂糖史がカリブ海、ブラジル等南米や米国南部といった大西洋地域を中心に書かれてきたが、インドの農民による製糖やオランダ領ジャワでの強制栽培や日本統治下の台湾での製糖業の発達などアジアの砂糖生産ともバランスをとった砂糖の世界史になっている。
もとより随所にバルバドス等カリブ海地域、サン=ドマング(ハイチ)、ギアナやブラジルなどにも言及されており、生産、植民地間競争、奴隷貿易とその廃止後から現代における環境破壊、肥満等による人工甘味料の弊害に至るまで、砂糖に関わる総合的な解説書である。著者はオランダの労働と商品生産の歴史、とりわけ砂糖と国際労働力移動を専門とする大学教授。
〔桜井 敏浩〕