連載エッセイ415:硯田一弘「南米現地最新レポート」その63 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ415:硯田一弘「南米現地最新レポート」その63


連載エッセイ415

「南米現地最新レポート」その63

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役)

「2024年11月3日発」

メキシコの言葉 muerto(ムエルト)=死者 英:dead 葡:morto

この木曜日10月31日はハロウィンでした。日本のテレビでも渋谷や新宿の繁華街に繰り出す仮装した若者たちの様子が映されていましたが、いつの間にか日本でもクリスマス同様に商業的祝祭としてこの行事が定着してきたようです。

一方、昨日土曜日はメキシコでは死者の日、2015年封切りの映画「007スペクター」をキッカケに首都メキシコシティで大規模なパレードが行われるようになったとのことですが、本来は日本のお盆と同様、亡くなった人たちを思い出して供養する神聖な祝日です。

https://www.fuze.dj/2016/11/007-spectre-day-of-the-dead.html

https://pasela.mexicokanko.co.jp/features/979/#:~:text=%E6%99%82%E6%9C%9F%E3%81%AF%E6%AF%8E%E5%B9%B411%E6%9C%88,%E6%97%A5%E3%81%A8%E3%81%95%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82

007映画というメディアによって新たな伝統が作り出されるというのは如何にも現代的ですが、メキシコの死者の日は、米国のハロウィンよりも宗教的意義を感じさせるので好感を持てます。

2017年のディズニー映画「Coco(邦題リメンバーミー)」では、主人公の少年のひいおばあちゃんが亡くなった父親のことを思い出すという内容で、非常に感動的な作品でした。本来の死者の日の意義は、この映画で発揮されているように思いますので、未見の方は是非ご鑑賞ください。

昨日はパラグアイでもメキシコ大使館主催による死者の日の祝祭行事が日本文化会館(Centro Para­guayo Japonés)で開催されたようです。

https://www.lanacion.com.py/la-nacion-del-finde/2024/11/02/conmemoran-el-dia-de-muertos-hoy-en-el-cpj/

今週火曜日はいよいよ米国の大統領選の投票日となります。どちらが勝者になったとしても、潔く結果を認めて新しい時代を切り拓いて行く決意を固めて欲しいと思います。

「2024年11月10日発」

南米の言葉 amnistía(アムネスティア)=恩赦  英:amnesty 葡:anistia

米国の選挙結果が判明、有罪判決を受けていたトランプ氏が選出されたことは、南米各国でも大きく取り上げられています。

パラグアイの経済紙5 diasには、Partidarios de Bolsonaro están presionando para conseguir su amnistía después de que un tribunal electoral lo declaró inelegible.と、トランプ氏同様に選挙結果を覆そうと騒乱を主導して有罪となったブラジルのボルソナロ前大統領が恩赦獲得に向けて勢い付いていると報じられています。これは5 dias紙だけでなく、南米各国の多くの新聞が同様の記事を掲載しているので、この動きが注視されていることが判ります。

https://www1.folha.uol.com.br/internacional/es/brasil/2024/11/para-bolsonaro-la-victoria-de-trump-es-un-paso-importantisimo-para-su-regreso.shtml

https://ansabrasil.com.br/americalatina/noticia/latinoamerica/2024/11/07/bolsonaro-quiere-ir-a-la-asuncion-de-trump_b32a9dbf-03a1-46a1-ae4f-a0403b7f5db5.html

https://www.lapoliticaonline.com/internacionales/bolsonaro-apuesta-a-la-presion-de-trump-para-ser-candidato-en-2026/

日本では、個人崇拝とも見えるトランプ氏の再選を否定的に捉える報道が多いように思われます。この点については南米でも同じなのですが、少々味方が異なるのは、やや左寄りの民主党政権の優柔不断な南米政策に変化がもたらされるという期待感が感じられるのも事実。

特に7月28日のインチキ選挙後も偽大統領マドゥロが居座りを続けるベネズエラでは、現在に至るまで一貫して野党指導者であるマリア・コリナ・マチャド党首をX(旧Twitter)で支援し続けるイーロン・マスク氏が、共和党新政権の中核に配されることで、大きな変化がもたらされるという期待が持たれています。

一方、偽政権はこうした懸念を払拭するために、ロシアとの関係を強化するという布石を打って、プーチンに近いトランプ氏の動きを牽制しています。

https://www.eluniversal.com/politica/194688/presidente-maduro-lidero-firma-de-acuerdos-con-rusia-consolidamos-el-camino-de-union-y-cooperacion

個人崇拝という点では、トランプ政権は故チャベス氏の手法とも似た部分が多くあることから、これまでは米国を目指す難民の動きばかりが取り上げられてきた反動で、トランプ氏を嫌う米国人が国外への逃避を図る行動も出てくると考えられます。

ベネズエラが混乱している背景には、優秀な人材が率先して国外に逃避した結果、働かない人達が残って国内の労働の質を低下させたという事情がありますが、同じような動きがみられることになると、南米はそうした人材の受け皿となって労働力の質を改善する好機となるとも考えられます。

今月はペルーでAPEC首脳会議、その後にブラジルでG20首脳会議と重要な国際会議が続けて開催されます。ペルーでは、このチャンスを捉えてリマ北部で中国が建設していたチャンカイ港の開港式典が予定されています。ブラジルでは、フォードが撤退した後に最新鋭の生産設備を備えた中国BYDの自動車工場が披露されます。いわば一帯一路の南米版のお披露目が大々的に用意されている訳で、こうした流れを看過してきた米民主党政権に代わって、次期共和党政権がどのような対抗策を講じるのか、興味深いところです。

今日の言葉amnestiaは、国際人権団体の名前で有名な単語ですが、もともとは政治犯の恩赦を要求していたことで、主流・反主流の闘争の結果できた団体の名前になっています。願わくば争いが生じない世の中になって欲しいものの、派閥や徒党を組むのも人間の本性だとすれば、そうした流れの中を上手く泳ぐ手法を身につけることも重要と言えるのかもしれません。

「2024年11月17日発」

ペルーの言葉 la cumbre(ラ クンブレ)=頂上・サミット 英:the summit 葡:a cúpula

ペルーのリマでのAPEC(アジア太平洋経済協力, Asia Pacific Economic Cooperation)首脳会議が本日閉会を迎えます。

現時点では共同宣言は発表されていませんが、ペルーの主要経済紙El Comercioでは、Lo que nos deja el APEC(サミットが遺したもの)というタイトルで、今回会議の総括を掲載しています。

https://elcomercio.pe/opinion/editorial/dina-boluarte-apec-joe-biden-china-estados-unidos-puerto-de-chancay-ia-la-cumbre-ofrecio-varias-reflexiones-sobre-la-ruta-que-deberia-seguir-el-peru-en-los-proximos-anos-noticia/

今や優秀なAI技術の御蔭で、こうした記事も瞬時に日本語に翻訳できますので、お試し頂きたいと思いますが、ポイントは

①目玉行事は中国企業CoscoによるChancaiコンテナターミナル港の開港であったこと
②中国の台頭を阻止するべき米国が政権移行のプロセスの中にあること
③AI技術の発達によって技術革新のレベル格差が生じるリスクをペルーが如何に克服するか

という三点に集約されています。

APEC首脳会議への参加国は、日本、ペルー(2024年APEC議長)、豪州、ブルネイ、カナダ、チリ、中国、香港、インドネシア、韓国、マレーシア、メキシコ、ニュージーランド、パプアニューギニア、フィリピン、ロシア、シンガポール、台湾、タイ、米国、ベトナムという21の国と地域ですが、明日から会場をブラジル・リオデジャネイロに移して開催されるG20には、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、ドイツ、インド、インドネシア、イタリア、日本、メキシコ、韓国、南アフリカ共和国、ロシア、サウジアラビア、トルコ、英国、米国、欧州連合(EU)の各国首脳が参加します。  https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN142D40U4A111C2000000/

https://www.youtube.com/watch?v=d9hyOzHLW3g

アジア太平洋だけでなく、世界で存在感を増す中国は、G20の場でも、過去15年間ブラジルとの最大の貿易相手国である点を強調し、現在中国が進めている投資が如何に大きなメリットを地域にもたらすか、という点をアピールする狙いがあるものと思われます。

https://japanese.cri.cn/2024/11/17/ARTImwCR9RGBy6ukpJhQbbcm241117.shtml

これまでもお伝えして来たとおり、ブラジル北部のバイア州では中国自動車大手のBYD車が巨大な製造工場を建設しており、これが雇用の増加と技術革新をブラジルにもたらしていることなどが強調されるものと思われます。

https://mobilityportal.lat/modelos-byd-brasil/

これまで世界経済の中心に居たG7各国(フランス・米国・英国・ドイツ・日本・イタリア・カナダ)は、新興勢力の台頭によって経済界の頂上から転げ落ちようとしていますが、政治経済の両面で今後も指導力を維持するためにも、リーダーとしての明確なメッセージを発することが期待されます。

ところで、日本への一時帰国から戻ってきたのですが、自宅では水道のポンプが破損し、インターネット接続のためのルーターが故障。ポンプは大家さんに新品に交換してもらってシャワーも浴びられるようになったものの、ルーターの交換は電話会社Tigoが来ると言った時間に来ないで、自宅でネットに繋がらない不自由な週末を過ごしています。こうした不便に直面すると、如何にインフラの維持が重要か、を身に染みて感じさせてくれます。世界が不便や不自由から救われる様な真剣で前向きな議論をお願いしたいです。

「2024年11月24日発」

ブラジルの言葉 declaração(デクララソン)=宣言 英:declaration 西:declaración

厳戒な警備体制が敷かれたブラジル・リオデジャネイロでのG20首脳会議も無事に閉幕しました。

リマのAPECでの集合写真に石破首相が入ってないことが話題になりましたが、リオでの50人近い集合写真でバイデン大統領は除け者にされたようです。

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-11-19/SN670CT0G1KW00

https://www.theguardian.com/world/2024/nov/18/joe-biden-g20-photo

個別のツーショットにはシッカリ収まってます。ちなみにルラ大統領と一緒に写ってるのが誰か?全部わかる人は相当の国際政治通。

https://en.wikipedia.org/wiki/2024_G20_Rio_de_Janeiro_summit

また、飢餓と貧困を撲滅するための世界協力という会合のタイトルを皮肉った風刺絵も早速搭乗しています。家族写真というタイトルで描かれているのは、G20の集合写真の貼ってあるゴミ車を押す貧困家族。崇高な理念も、イベントが終わればタダのゴミ、ということでしょうか。

また、この会議に初めて招待参加したパラグアイのペニャ大統領が体調を崩して病院に搬送されたことが国内では話題になりました。

https://www.infobae.com/america/america-latina/2024/11/19/el-presidente-de-paraguay-santiago-pena-fue-hospitalizado-en-brasil/

昨日土曜日は、ブラジル国境のパラグアイ・エステ市で在パラグアイ米国商工会議所主催の会合が開催されました。

https://www.instagram.com/amchampy/p/DCuSxM8ReQL/?img_index=1

2022年からパラグアイに駐在するMarc Ostfield大使も参加されてのイベントで、大使に新政権の対南米・パラグアイの方向性の見通しをお訊ねしようと思ったのですが、パラグアイ経済の状況に関するセミナー部門が長すぎて、大使は途中退席してしまい、代わりにPeter Hansen米国商工会議所会頭と話をしました。

米国はパラグアイの元大統領で、現政権の最大派閥を束ねるHoracio Cartes氏を汚職に関わったとして糾弾し、Cartes氏の米国での動きを大きく制限するなどの制裁措置を発動して、結果的にこれが中国政府のつけ入る隙を与えている印象があり、こうした状況を改善するためには、次の政権が関係修復に努めるべき、と考えていると水を向けると、「汚職問題はCartes氏個人の問題であって、米パ関係は極めて良好で、今後もその方向に変わりはないと思う。」との当り障りのない回答。

では7月のベネズエラでの選挙結果を無視したことで、ラ米各国に米国の頼りなさを印象付けている点はどうか?と尋ねると、「その点は次の政権でキューバ移民を父に持つルビオ氏が次期国務長官に指名されているので、良い意味での大きな変化が期待できる筈。」という返答でした。

元々世銀の銀行マンであるHansen会頭、現時点では何とも言えないものの、パラグアイ含め中南米各国での存在感が薄れている米国の威信回復に期待している、との印象を感じさせるお話でした。

https://jp.wsj.com/articles/how-china-capitalized-on-u-s-indifference-in-latin-america-762f667c?mod=djem_Japandaily_t

以  上