西岡昌彦(サントドミンゴ卓球協会、JICA海外協力隊)
コスタリカに来てもう間もなく2年になろうとしています。温暖で過ごしやすく自然豊かな国。日本では動物園でしか見られない動物を何度か直接見ることができたことがとても印象的でした。私が海外で卓球を指導するのはコスタリカが3か国目。今回は自然豊かで好印象なコスタリカの卓球事情をお伝えします。
コスタリカ国立卓球体育館外観
赤いマットが印象的な国立卓球体育館内部
コスタリカの首都サンホセには国立卓球体育館があります。この施設内にコスタリカ卓球連盟の本部があり、ナショナルチームの練習拠点であるとともに年間を通して主に週末に各種大会が開催されています。地方都市にも各種スポーツ兼用の体育館があり、各体育館では15~20台の卓球台を有しています。そのため大会によっては地方を持ち回りで開催されるものもあります。体育館の床は日本のように板張りのものは少なく、コンクリートの床に塗装を施したものが一般的です。その中で国立卓球体育館の床は卓球用のマットが敷かれており国際大会が開催できる基準で大変立派です。
日本から寄贈された卓球台
コスタリカではこれまでに2人の指導者の活動実績があります(私が3人目)。そして2017年3月にはコスタリカ代表の若手選手が日本での強化合宿に招待されました。同年11月には2020年東京オリンピック(開催は2021年)に向けた「Sport for Tomorrow」プログラムにより日本からコスタリカ卓球連盟に16台の公式卓球台が供与されました。さらに2019年12月にはパラ卓球 コパ・コスタリカオープン国際大会が開催され、各部門で日本選手が上位入賞を果たしました。この大会は大規模だったため日本でも卓球専門誌にこの大会記事が掲載されました。そのため当時日本にいた私もこの大会の存在を知っていました。この国際大会開催にあたっては日本から供与された16台の公式卓球台が大いに役立ったことは事実です。
国立卓球体育館にある卓球用品専門店
コスタリカでは何といってもサッカーが一番人気です。しかし卓球も選手数が多いのも事実です。その状況を可能にしているのは首都だけでなく地方にも練習ができる施設が整っていることと、地域やクラブごとに指導者が存在することが挙げられます。そしてトップの選手を目指すには卓球用具、特にラバーを入手することが不可欠です。それがかなり困難な国もありますが、コスタリカには国立卓球体育館内に専門店が2店あります。ここではラバーだけでなくラケットやシューズの他、必要な卓球用品が店頭とインターネットを通じて販売されています。これらの店舗の存在はコスタリカで卓球が普及することとトップ選手を育成する両面で重要な存在になっています。
コスタリカでは若年層の強化育成を重視しています。コスタリカ卓球連盟主催の大会では男女別で各、9歳、11歳、13歳、15歳、19歳以下の5つのカテゴリーに分けられ、ランキング戦が年間5回行われます。選手たちは各ランキング戦で上位入賞して年代別のコスタリカ代表になることを目指して日々練習しています。もちろん一般成人と年代別ベテラン層のランキング戦も行われます。
それ以外にも各地にクラブチームがあり、地方ごとでの大会や交流戦が盛んに行われています。その状況はほぼ日本と同じで、卓球は年代や天候に関係なく親しまれるスポーツであり、愛好者が数多くいることを改めて感じさせられます。
中米5か国(コスタリカ、ニカラグア、エルサルバドル、グアテマラ、ホンジュラス)における2024年11月時点の国別世界ランキングはグアテマラの男子68位、女子50位が最高位でその他の4か国は120位番台から130位番台と均衡しています。日本は男子3位、女子2位なので日本と比較すると技術レベルの差は大きく開いています。世界的に見ても卓球で上位を占める国はアジアやヨーロッパの国が多く、サッカーが盛んな中南米で卓球が世界の上位レベルに追い付くにはまだ時間がかかりそうです。
現在私は首都近郊の人口約5万人の街で最年少6歳から70歳代まで幅広い年代の選手を指導しています。選手のレベルも初心者から上級者までさまざまです。練習は19歳までの若年層のクラスと一般成人のクラスに分かれており私以外の4人のコスタリカ人コーチと協力しながら指導をしています。
コスタリカ人コーチの一人は国際卓球連盟の最上位の指導者資格を持っています。主にそのコーチが練習内容を決定し、私を含めた他のコーチは練習の補助を担当しています。私は必要に応じてメインのコーチに日本の練習の紹介と、練習方法の改善などを提案しながら練習を進めています。
ここでは選手の技術レベルはさまざまですが全体に共通する課題があります。特に若年層の選手は毎回力いっぱい打球することが練習目的と勘違いして返球ミスが目立ちます。練習時に求められるのは、状況に応じて力を加減して練習相手のラケットに正確に返球すること、すなわち「お互いに協力する」ことです。これは全体の技術レベルを早く上達させるために必要な条件なのでこの点も全員のコーチに提案して改善に取り組んでいます。
そしてこの先、上級者にはランキング戦での上位入賞および、さらなる年代別のコスタリカ代表選手の排出を目標として活動しています。
指導で苦労するのは言葉の他に「習慣の違い」が挙げられます。ボール回収の時間短縮のため、練習では複数のボールを使うのが一般的です。日本では「卓球のボールを蹴る」ことはまずありませんがサッカーが盛んなこの国では足元に転がるボールを足で蹴るのは日常的です。そして、それによるボールの破損が目立ちます。これは日本人の私には見たくない光景です。練習用のボールでも1個150円程度と高価ですが、選手たちが「ボールの価値を知らない」ことが物を粗末に扱うことの原因の1つと考え、地元の卓球協会と相談して選手たちにボールの値段を知らせて物を丁寧に扱うよう指導しています。
習慣を変えることは大変難しいとわかっていますが、指導対象者には年代別のコスタリカ代表選手もいるため、技術の向上だけでなく日頃から国際大会に出場しても恥ずかしくないマナーも身に着けて欲しいと願いながら活動に取り組んでいます。
以 上