執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)
A.国家予算
10月31日に、パナマ国会が、2025年度の国家予算法案を可決した。チャップマン経済財政大臣は、前政権のPRD党の作成した予算が非現実的であるとして、10月15日に、267億3500万ドル(前年同期比14%減)の法案を提出した。国会の予算委員会では、国家予算法案が地方分権法および教育総合法に反するため、改めて予算を修正する必要があると指摘された。以上をもって、政府が10月25日に306億9000万ドル(前年同期比5億8千万減)の予算を提案した。緊縮財政政策を提案しているチャップマン経済財政大臣は、2025年度の国家予算法案が理想的ではないと述べている。
B. 社会保険庁改正法案
11月6日に、政府が社会保障を管理する社会保険庁改正法案を提出した。今回の法案は、年金制度改正を中心とし、①定年年齢引き上げ、②企業側年金拠出金の3%引き上げ、③混合システムの廃止、一定利益システムの復帰、④年10億ドルの政府支援、⑤月144ドルの基礎年金の導入を提案している。法案では定年年齢が男性62歳から65歳、女性は57歳から60歳に引き上げるとされ、法律は可決時点で55歳以上の男性と50歳以上の女性が対象とされている。
2006年に行われた改正によって、現代の年金制度は二つに分けられた。労働者が最低240ヶ月分の社会保険料を納付し、「最後の10年間の最も高かった月収の平均」を年金算定基準としてその60%を受け取る「一定利益システム」(Sistema de Beneficio Definido)と、個人投資口座に預けられ、口座の運用によって年金算定基準が決まる「混合システム」(Sistema Mixto)がある。法案では、混合システムの廃止とともに、「唯一共同基金」(Fondo Único Solidario)が導入され、混合システムに加入している者は、収入の60%を年金として受け取る制度が設けられている。
近年、年金制度の資金不足問題は悪化している。9月時点では、民間企業が3億1000万ドル、政府が10億ドルを未納している。10月31日に可決した国家予算では、社会保険庁に公立機関の中で最も高い予算(73億ドル)が充当されているにもかかわらず、年金制度の資金不足状況が悪化している。、これを受けて、政府は、年金制度の改正が行われない場合、2025年に年金を15%、2026年に50%引き下げないといけない状況となると発表した。
今後の年金制度資金状況は、次の通り予測されている。
国会の健康委員会は、11月13日と14日、法案に関するパブリックコメント参加申請を行い、200以上の個人および企業が登録した。
C.社会保険庁改正法案への反応
複数の労働者組合は政府の提案している改正に対して国会前で反対デモを行って、混合システムの廃止、一定利益制度の復帰のほか、年金引き上げおよび社会保険庁改正の管理を強化することを求めている。他方、商工農会議所は企業側の拠出金の引き上げが成立すると中小企業および若者労働者への悪影響を避けられないと発表している。また、複数の国会議員がSNSで選挙区の有権者と相談した上、改正を議論することを既に述べている。批判の声に対してムリノ大統領が提出している法案は決定版ではなく、国会での議論過程によって改善の余裕があると述べつつ、社会保険庁改正には定年年齢および企業側年金拠出金の引き上げ、そして政府の支援が不可欠だと強調している。
A.サハラ・アラブ民主共和国との外交関係断絶
11月21日に、西サハラの領有権争いを原因とし、パナマ外務省はサハラ・アラブ民主共和国との外交関係の断絶を公表した。 パナマ政府は、1976年にサハラ・アラブ民主共和国の独立を認め、1979年に国交関係を開始した。サハラ・アラブ民主共和国とモロッコ王国は西サハラの領有権を巡る国際紛争が1970年代から継続している。パナマ政府は、西サハラの争いを平和的に解決すべきという立場を採用しているが、近年、紛争当事国との関係は安定していない。マルティネリ政権(2009-2014)の元ではサハラ・アラブ民主共和国と国交関係を断絶したが、バレーラ政権(2014-2019)では回復した。
以 上