執筆者:桜井悌司(ラテンアメリカ協会顧問)
スイスに本拠を置く語学学校運営企業であるEFエデュケーション・ファースト社は2024年11月13日に「英語能力指数ランキング2024」(EF English Proficiency Index)を発表した。この調査は、英語を母国語としない国・地域116ヶ国・地域(昨年は113)を対象とする調査で、世界中の210万人が参加した。2011年以降毎年公表しており、EF社のオンラインで無料公開している英語力測定テストEF SET)の前年受験データをもとに非英語圏の国・地域の英語能力を追跡調査したものである。この種の調査は、PISA(OECD主催の学習到達度調査)と同様、どの都市のどのグループを調査対象にしたかという点が問題視されるがおおむね参考になる。
対象国の英語能力を「非常に高い」(Very High Proficiency、800点満点中600点以上)、「高い」(High Proficiency、550点~599点)、「標準的」(Moderate Proficiency、500点~549点)、「低い」(Low Proficiency、450点~499点)、「非常に低い」(Very Low Proficiency、450点以下)という5段階に分けてランク付けをしている。
表1は、2024年の調査の結果である。「非常に高い」国・地域にランクされているのは、オランダ、ノルウエー、シンガポール、スウエーデン等9ヶ国・地域(昨年12、以下同じ)、「高い」国は22ヶ国・地域(18)、「標準的」な国は、30ヶ国・地域(33)、「低い」国は、31ヶ国・地域(28)、「非常に低い」国は、24ヶ国・地域(22)となっている。
日本経済新聞の11月19日付けの記事の見出しによると、「日本の英語力92位に転落、過去最低低下止まらず」と報じている。日本は2011年の発表開始以来、順位の下落が続いており、23年は87位、22年は80位であった。日本は残念ながら、「低い」国にランクされている。
表1を見ると、大まかな傾向が判明する。
*格付けに若干の変動が見られる。
*欧州諸国は総じてランクが高い。
*アジアは、シンガポールやマレーシアを除き、「標準的」か「低い国」に多くの国が入っている
*ラテンアメリカは、スリナムとアルゼンチンが「高い国」に入っている。「標準的」格付けの国は13ヶ国、か「低い」格付けの国は、5ヶ国、「非常に低い国」にランクされているのは1ヶ国である。
*国連の公用語であるフランス語、アラビア語、ロシア語を話す国のランクは総じて低い。世界で使用されている有力言語の国々は、強い言語ゆえに英語に頼らなくてもよいということからきているものと考えられる。
表1 調査対象国116ヶ国の格付け
格付け | 国 名 | 国数 |
非常に高い
Very High Proficiency |
オランダ(636/647)、ノルウエー(610/614)、シンガポール(609/631)、スウェーデン(608/609)、クロアチア(607/603)、ポルトガル(605/607)、デンマーク(603/615)、ギリシャ(602/602)、オーストリア(600/616) | 9(12) |
高い
High Proficiency |
ドイツ(598/604)、南ア(594/605)、ルーマニア(593/596)、ベルギー(592/608)、フィンランド(590/597)、ポーランド(588/598)、ブルガリア(589)、ハンガリー(585/588)、スロバキア(584/587)、ケニア(581/584)、エストニア(578/570)、ルクセンブルグ(576/575)、フィリピン(570/578)、リトアニア(569/576)、セルビア(568/569)、チェコ(567/565)、マレーシア(566/568)、スリナム(563/na)、アルゼンチン(562/560)、キプロス(568/na)、ナイジェリア(557/562)、スイス(550/553) | 22(18) |
標準的
Moderate Proficiency |
香港(549/558)、ホンジュラス(545544)、ジョージア(543/541)、ベラルーシ(539/539)、スペイン(538/535)、ウルグアイ(538/533)、アルメニア(537/528)、モルドバ(536/535)、ウクライナ(535/530)、コスタリカ(534/534)、ガーナ(534/537)、アルバニア(533/533)、ロシア(533/532)、パラグアイ(531/530)、イタリア(523/535)、ボリビア(525/532)、チリ(525/518)、フランス(524/531)、韓国(523/525)、イスラエル(522/514)、キューバ(520/531)、ペルー(519/521)ウガンダ(518/529)、エルサルバドル(513/524)、ネパール(512/507)、ベネズエラ(510/508)、グアテマラ(507/515)、ニカラグア(505/503)、ドミニカ共和国(503/512)、バングラデシュ(500/504)、 | 30(33) |
低い
Low Proficiency |
イラン(499/505)、エチオピア(498/490)、ベトナム(498/505)、トルコ(497/493)、チュニジア(496/502)、パキスタン(493/497)、レバノン(492/496)、インド(490/504)、アラブ首長国連邦(489/486)、パナマ(485/486)、タンザニア(487/491)、スリランカ(486/491)、コロンビア(485/480)、カタール(480/482)、モロッコ(479/478)、シリア(473/467)、アルジェリア(471/475)、モザンビーク(469/na)、インドネシア(468/473)、ブラジル(466/487)、エクアドル(465/467)、エジプト(465/463)、モンゴル(464/482)、マダガスカル(463/474)、アゼルバイジャン(462/463)、メキシコ(459/451) キルギス(457/450)、カポベルデ(456/na)クウエート(456/460)、中国(455/464)、日本(454/457)、 | 31(28)
|
大変低い
Very Low Proficiency |
ミャンマー(449/450)、パレスチナ(448/445)、アフガニスタン(447/456)、マラウイ(447/461)、カメルーン(445/438)、ウズベキスタン(439/442)、ハイチ(432/421)、スーダン(432/430)、ヨルダン(431/431)、セネガル(429/438)、カザフスタン(429/415)、オマーン(421/418)、サウジアラビア(417/408)、タイ(415/416)、イラク(414/410)、ベ二ン(413/416)、タジキスタン(412/388)、アンゴラ(409/416)、カンボジア(408/421)、リビア(405/392)、ルアンダ(401/405)、コートジボワール(394/409)、ソマリア(399/411)、イエーメン(94/392) | 24(22) |
合 計 | 116(113) |
注:特典は800点満点
「ラテンアメリカの英語力指数ランキングの現状」
次に、ラテンアメリカ諸国での英語能力ランキングと得点をみてみよう。カリブ海諸国の多くは英語を母国語とするので対象ではないこともあり、今回の調査では、下記の表2の21ヶ国(昨年20ヶ国)が対象である。長年、筆者もラテンアメリカでは英語がなかなか通じないという先入観を持っていたが、この調査結果をみると、イメージが少し変わってくる。日本は116ヶ国中92位であるが、ラテンアメリカの調査対象国21か国のうち、ハイチを除くすべての国が日本のランクを上回っている。
スリナムとアルゼンチンの2ヶ国が「高い熟達度」の国にランクされている。続いて、ホンジュラス、ウルグアイ、コスタリカ、パラグアイと続く。ラテンアメリカの大国のコロンビア、ブラジル、メキシコは「低い」格付けに位置する。バイリンガルと言われているパナマも「低い」位置づけである。
2023年と比較してランクを急激に上昇させている国は、チリ(+5)、ウルグアイ(+3)、ニカラグア(+3)、メキシコ(+2)、コロンビア(+1)の5ヶ国、順位に変化のない国は、アルゼンチン、パラグアイ、ペルーの3ヶ国、順位が低下した国は、ブラジル(-11)、キューバ(-9)、ボリビア(-6)、エルサルバドル(-5)、グアテマラ(-5)、ドミニカ共和国(-5)、コスタリカ(-3)、パナマ(-3)、ホンジュラス(-2)、エクアドル(-2)、ベネズエラ(-1)、ハイチ(-1)の12ヶ国である。
表2 ラテンアメリカにおける英語能力指数ランキング2024
ランク | 国名 | 得点 | 英語力熟達度(2023) |
27位(na/na) | スリナム | 563(na/na) | High Proficiency 高い熟達度 |
28位(28/30) | アルゼンチン | 562(560/562) | 同上 |
33位(31/48) | ホンジュラス | 545(544/522) | Moderate Proficiency 標準的能力 |
36位(39/49) | ウルグアイ | 538(533/521) | 同上 |
41位(38/37) | コスタリカ | 538(534/536) | 同上 |
45位(45/43) | パラグアイ | 531(530/526) | 同上 |
47位(41/44) | ボリビア | 525(532/525) | 同上 |
47位(52/45) | チリ | 525(518/524) | 同上 |
52位(43/38) | キューバ | 520(531/535) | 同上 |
53位(51/51) | ペルー | 519(521/517) | 同上 |
55位(50/50) | エルサルバドル | 513(524/519) | 同上 |
57位(56/67) | ベネズエラ | 510(508/492) | 同上 |
58位(53/58) | グアテマラ | 507(515/505) | 同上 |
59位(62/61) | ニカラグア | 505(503/499) | 同上 |
60位(55/53) | ドミニカ共和国 | 503(512/514) | 同上 |
74位(71/75) | パナマ | 488(486/482) | Low Proficiency |
74位(75/77) | コロンビア | 485(480/477) | 同上 |
81位(70/58) | ブラジル | 466(487/505) | 同上 |
82位(80/82) | エクアドル | 465(467/466) | 同上 |
87位(89/88) | メキシコ | 459(451/447) | 同上 |
99位(98/98) | ハイチ | 432(421/421) | Very Low Proficiency |
36位(35/33) | スペイン | 538(535/545) | High Proficiency |
50位(49/36) | 韓国 | 523(524/537) | High Proficiency |
91位(82/62) | 中国 | 455(464/498) | Low Proficiency |
92位(87/80) | 日本 | 454(457/475) | Low Proficiency |
注:( )内は2023年/2022年の数字、スリナムは今回から調査対象国になった。