連載パナマ・レポート56:ルベン・ロドリゲス 2024年12月分 - 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載パナマ・レポート56:ルベン・ロドリゲス 2024年12月分


連載パナマ・レポート 56: ルベン・ロドリゲス 2024年12月分

執筆者:Ruben Rodriguez Samudio(早稲田大学法学研究科講師・パナマ共和国弁護士)

I.政治

A.サイバーセキュリティ法案の署名拒否

11月30日、ムリノ大統は、憲法で保障されている権利を侵害する恐れがあるとして、11月19日に可決したサイバーセキュリティ法案の署名を拒否した。サイバーセキュリティ法案は、インターネット上の犯罪を定め、検察庁に司法の許可無しで「情報の引渡し命令」を発令する権限を与えたため、専門家は、権限乱用を招く可能性があると指摘している。
 パナマでは、サイバーセキュリティを中心とする法律は規定されていないが、分野によって政策が採用されている。銀行監督官は2025年にバーゼル合意の採用および銀行業界におけるサイバーセキュリティ強化対策を講じると発表している。

B.社会保険庁改正の委員会

法案の議論を担当している国会の労働、健康、社会発展委員会が各県でパブリックコメントを実施し、改正法案を批判する声が多いことが分かった。12月19日に、委員会が政府、労働者、企業の代表で構成されているワーキンググループを設けること発表した。また、野党のRM党は、社会保険庁の充当原資を確保するため、銀行の様々な手続きに新たな税金を課すこと、パナマ企業重役連合会が社会保険庁を監視する機関を設立するといった提案も出ている。11月6日に政府が法案を提出し、ムリノ大統領が2025年1月下旬に法案の可決を求めているが、労働、健康、社会発展委員会は議論を徹底的に行うことを発表している。

II. 経済

A.パナマ格付け

12月17日に、米国格付け会社のFitchが高いGDP、低いインフレーション、成長の見込み等を考慮し、パナマの格付け評価を変更せず、BB+、状況は安定としている。11月26日に同じく米国格付け会社のS&Pは政府の赤字、歳入不足を理由としてパナマの評価をBBBからBBB-に降格して、国の状況は安定としている。 また、11月30日に米国格付け会社であるムーディーズは社会保険庁の改正、国際訴訟、政府の赤字等を考慮し、パナマの評価を安定からマイナスに変更した。ただ、投資レベルの格付けと国債のBaa3評価については変更していない。

B.ドノソ鉱山の今後

ナバロ環境大臣がドノソ鉱山の閉鎖等は2025年に決定すると発表した。2023年11月に、パナマ最高裁判所は、カナダのFirst Quantum子会社である鉱業会社Minera Panamáの採掘権契約に関する法律が憲法、法律、パナマ政府が批准した国際条約を違反するため無効であると判示した。判決を受けた政府が鉱山の閉鎖を命令し、現在First Quantumは採掘せず管理のみ行っているが、専門家は鉱山の閉鎖は10年以上かかる可能性があると述べている。
 判決に対して、Minera Panamaの採掘権利が消滅したため、Minera Panamaはパナマ政府に対して仲裁を申し立て契約の再交渉を求めているが、ムリノ大統領は仲裁手続きを継続する限り交渉に応じないと述べている。さらに、12月22日にFirst Quantumのパスカル社長がトランプ次期大統領に政府との交渉への仲裁を求めることを発表している。しかし新たな契約が成立するには、Minera Panamaと直接交渉をするのではなく、国際調達を行う必要があるため、トランプ政権の仲裁は新たな契約には至らない。

III. 外交

A.トランプ政権との関係

 12月7日に、トランプ次期大統領が作成している移民返還計画では、出身国に返還不可能となった場合、第三国に送るという対策が明記され、パナマはその国の一つとされていることがわかった。これを受けて、12月21日にムリノ大統領は、移民問題に関して既にトランプ政権のスタッフとやり取りしており、両国の利益となる手段を取りたいと述べた。7月1日にはアメリカ政府とパナマ政府が移民の強制返還について本合意書を署名し、返還に必要な設備、交通機関、その他の支援はアメリカ政府が負担することとなっている。

 12月22日には、トランプ次期大統領がSNSで、カーター大統領がパナマ運河を1ドルでパナマに渡した上、運河の管理を中国や他の国ではなくパナマのみに託したにもかかわらず、パナマはアメリカの海軍、アメリカの船に法外な通航料を課しているとして、パナマ運河の通航料の引き下げを要請し、パナマ政府が応じない場合、運河の返還を求めると投稿した。これに対して、ムリノ大統領をはじめ、パナマの元大統領、政治家、民間企業が1977年の運河条約に基づいて管理権はパナマが有していることを強調している。また、トランプ次期大統領の投稿には触れず、在パナマアメリカ大使館が両国の好意的な関係を訴えている。
 
B.パナマ・コスタリカ商事紛争

 12月5日に世界貿易機関(WTO)の元で行われた仲裁では、WTOがコスタリカの主張を認めたことがわかった。ムリノ大統領は政府がWTOに不服申し立てを行うことを明らかにした。 
パナマとコスタリカの商事紛争がコロナ禍に悪化し、2020年5月に、コスタリカ政府は新型コロナウイルス拡大防疫対策としてパナマ発の国際運送トラックの入国を禁止した。これに対して、同年6月中旬に、必要な書類が期間内に提出されなかったため、パナマはコスタリカ産の乳製品および食肉処理場の25工場の衛生許可の更新を認めなかった。

当時、コスタリカ産の乳製品はパナマで発売される乳製品の40%を占め、パナマ食事衛生局(AUPSA)は、2014年以降コスタリカが衛生許可に必要な設備の検査を行っていないと発表した。これに対してコスタリカ政府は、パナマ政府の衛生許可更新拒否が貿易障害に該当するとして、世界貿易機関(WTO)に通知した。