『ブラジルが世界を動かす ―南米の経済大国はいま』
宮本 英威 平凡社(平凡社新書)
2024年10月 296頁 1,100円+税 ISBN978-4-5828-6068-9
著者は日本経済新聞の記者としてブラジルとメキシコに計9年駐在し、うちサンパウロ支局長を2012年4月から5年と2021年10月から2年半と二度務めている。この間ブラジル各地で取材し多くの人びとと会って沢山の記事を執筆したものが、ブラジルのいまを知るための入門書となることを意図した本書の土台になっている。
序章「多様性の国」でブラジルが中南米最大の民主主義国であることから説き始め、政治は右派と左派の対立の中、大統領選挙で復権したルラ、米中の間で国際社会の新秩序構築を模索する外交、国際交渉の最前線となっている熱帯雨林アマゾン河流域の自然環境、コーヒーや鶏肉、エタノール燃料の普及からエンブラエールの飛行機に至る世界の供給源となった農業・産業、日本より進んだIT社会となり電子決済が普及しているデジタル・金融、地球の反対側同士でありながら様々な分野で民間協力が進みビジネスのパートナーとなっている日本との関係の章へと続き、終章の「未来の大国」では地政学上世界で最も安定し平和な地域と言われるブラジルだが、ボルソナロとルラそれぞれのシンパと反対者の司法も含めた左右の分断は激しく、日本との関係も首相のブラジル訪問が10年に一度であり、ブラジルの輸出先として日本は9位に沈み日本・ブラジル経済合同委員会でさえ日本軽視の兆候がある中で、日本がブラジルに対しアジアの窓口を務めるという観点からの関係強化が必要ではないかと指摘して結んでいる。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2024/25年冬号(No.1449)より〕