『日本人が移民だったころ』
寺尾 紗穂 河出書房新社
2023年7月 195頁 1,800円+税 ISBN978-4-309-03122-4
著者は戦前南洋に移民し戦後南米へ再移住した移民に興味をもったことから、本書の後半では戦後パラオから復員しパラグアイ東南部のピラポに入植した鈴木光さんとフラム移住地の溝口孝市一家が農薬・除草剤の健康被害に苦しめられ、奨められた油桐から遺伝子組み換え大豆に変えた耕作の苦労、パラグアイ第二の都市エンカルナシオンに入って日本語学校の教師も務めた中村博子さん、そして1958年にフラムに移住し東部ラパス市長、農協中央会長、日本人会長などの要職を経て日系移民として初めて駐日大使となった田岡功さんが2011年の東日本大震災の際に義援金集めとパラグアイ大豆で作った豆腐100万丁を被災地に送り込んだことを紹介している。
著者は東京大学大学院で比較文化コースの修士課程を修了し、2006年にシンガーソングライターとしてデビュー、ノンフィクションやエッセイを執筆する文筆家でもある。パラオからの引き揚げ者の行方を追って沖縄からパラグアイまで開拓地を自身で巡り、戦争に翻弄された人たちの声を拾い集めた聞き書きルポルタージュ。
〔桜井 敏浩〕
〔『ラテンアメリカ時報』2024/25年冬号(No.1449)より〕