連載エッセイ436:硯田一弘「南米現地最新レポート」その65 | 一般社団法人 ラテンアメリカ協会

連載エッセイ436:硯田一弘「南米現地最新レポート」その65


連載エッセイ436

「南米現地最新レポート」その65

執筆者:硯田一弘(アディルザス代表取締役、在パラグアイ)

「2025年1月5日発」
米国の言葉 staff(スタッフ)=職員・旗竿 西:asta 葡:mastro

2025年、明けましておめでとうございます。

一週間以上に亘る極寒のモントリオール滞在を経て、米国ワシントンとブラジル・サンパウロ経由でパラグアイに戻ってきました。

帰りのフライトは、昼前にワシントンに到着してサンパウロへの出発が夜10時過ぎだったので、久々に米国の首都を散策してきました。皆さんも御存知の通り、米国にはワシントン州という州がありますが、首都ワシントンはD.C.=Districto of Columbia=コロンビア特別区という特殊な行政区となっています。

米国の首都なのに、何でコロンビア?と思われる方、Googleの解説をご覧ください。

どちらも語源は米大陸発見者のコロンブスから来ている訳ですが、英語ではChristopher Columbus、スペイン語ではCristóbal Colón、イタリア語ではCristforo Colomboと表記が異なっていて、それぞれの言語で敬意を表している訳です。

日本語でのコロンブスっていうのも、英語のローマ字読みではなく、音を拾ったものでもなく(英語だとコロンバスって言うのが普遍的)、チョッと変わった感じがします。

前置きが長くなりましたが、今回DC初訪問となった女房殿と、DC弾丸観光をしてきました。首都ワシントン周辺には三つの空港があり、国内線はロナルドレーガン・ナショナル空港(DCA)、国際線はダレス国際空港(IAD)とボルチモワ空港(BWI)で、国内線のDCAは市街地に近いのですが、IADとBWIはかなり離れたところにあるので、注意が必要です。

お上りさん夫婦は、IAD空港の駅で電車の一日チケット=一日乗車券US$15/人を購入して、Metro Center駅を目指しましたが、上の地図でお分かりの通り、50㎞程の距離があり、電車に乗っても1時間ほど、半分は地上を走る郊外電車でした。

https://www.tripsavvy.com/washington-dc-airports-1040459

ワシントン地下鉄の歴史は比較的新しく、開業は1976年。僕が初めて乗ったのは1985年の研修生の時でしたから、まだ開業間もないピカピカの電車だったように記憶します。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AF%E3%82%B7%E3%83%B3%E3%83%88%E3%83%B3%E3%83%A1%E3%83%88%E3%83%AD#%E8%B7%AF%E7%B7%9A%E4%B8%80%E8%A6%A7

地下鉄駅から地上に出て、最初に気付いたのは米国ならあらゆるところに掲揚されている星条旗が、全て半旗=flag at half-staffになっていたことです。

これは勿論、年末29日に逝去されたジミーカーター元大統領への服喪を示すためで、米国では逝去から30日間は半旗にするようです。

ホワイトハウスでも、半旗の下に黒い喪章旗を掲揚していました。

一方で、モールと言われるホワイトハウスと議事堂周辺エリアでは、1月20日に行われる大統領就任式典の準備が着々と行われており、多くのスタッフが忙しそうに会場設営の作業を行っていました。

いよいよ始まった2025年と、それを象徴する米国大統領の交代直前の現場を直に見られたのは、ラッキーでした。今回は南米でなく北米の話題を二週連続でお届けしましたが、北中南米が今後どうなっていくのかを占う上でも、有意義な北米訪問になったと感じます。

南米と日本を結ぶお役にたてるよう、今年も頑張りますので、引き続き御支援・御指導宜しくお願いします。

「2025年1月12日発」
パラグアイの言葉 ruptura(ルプトゥーラ)=断交 英:rupture 葡:ruptura

昨年7月28日に行われたベネズエラ大統領選挙の結果、740万票を獲得してしょうりした筈のEdmundo Gonzalez候補が、340万票弱しか得票していないNicolas Maduro候補に敗れたとする不可解な結果は、その後も捏造した結果を基に政権の座に居座り続けるMaduroと取り巻きの脱法行為によって、本来1月10日に行われるべき政権交代が準備すらされていない中、パラグアイ政府が昨年の選挙結果に基づいてGonzalez氏を大統領とすべきというコメントを発し、これに反応した偽政権がパラグアイとの断交を発表しました。   https://resultadosconvzla.com/

このニュース自体は日本でも報道されたので、御存知の方もおられると思います。

https://www.lanacion.com.py/politica_edicion_impresa/2025/01/07/pena-respalda-a-gonzalez-y-exige-salida-de-embajador-venezolano/

結局、1月10日には何事もなかったかのように新しい任期の就任式が開催されました。

来週の月曜日=20日には、先週出向いたワシントンD.C.で同じような光景を目にすることになると思いますが、この写真で象徴的なのは、群衆の多くが警護のスタッフとベネズエラの治安悪化の現況となっているバイク乗り達で構成されているという、ベネズエラ偽政権を象徴する写真です。

今日のUltima Hora紙の電子版には、パラグアイとベネズエラが過去13年間に4回の断交を経験したこと、チャベス政権初期にはパラグアイも左寄りのニカノール氏が大統領であったことから良好な関係を保ったものの、更に左寄りのルゴ氏を国会が罷免したことで、両国の関係は長きに亘って微妙な状態となった訳です。

https://www.ultimahora.com/del-flechazo-chavista-a-rupturas-en-relacion-paraguay-venezuela

ベネズエラによる一方的な断交宣言は、パラグアイにとっては懸案となっている石油代金3億ドルの返済計画が凍結される結果を導くので、大きな問題としては取り上げられていません。

https://www.swissinfo.ch/spa/paraguay-reconoce-la-deuda-con-venezuela-y-afirma-que-%22conflicto%22-es-por-tasas-de-inter%c3%a9s/88689287

しかし、この断交によって在パラグアイ・ベネズエラ大使館は業務停止となり、パラグアイに避難してきている多くのベネズエラ人が、在留を裏付ける外交関係を失うこととなり、今後こうした移民の待遇がどうなるのか、という点が注目されます。

トランプ氏の大統領就任は、多くの米国人を国外に脱出する動きを生じるとも言われており、外交関係と移住者の身分保障というテーマは、今後も追いかけて行こうと思います。

「2025年1月19日発」
パラグアイの言葉 bruto(ブルート)=粗野な・総合の 英:gross 葡:bruto

今週の新聞で目を惹いたのはパラグアイ経済はアクセルとブレーキを同時に踏んでいるような状態であるという記事。

https://www.abc.com.py/negocios/2025/01/16/paraguay-acelera-y-frena-al-mismo-tiempo/

この記事では、パラグアイは南米諸国の中では最も高いGDP(国内総生産、スペイン語ではPIB=Producto Interno Bruto)値3.8%を示しており、主要産業である農業も世界的な紛争懸念等による市場の高騰を受けて収入も増加傾向にあり、経済対策はアクセルを踏む一方、金融政策はブレーキを踏んで引き締めに入っているという矛盾を生んでいると説明しています。国家債務もGDPの21%から39%の180億ドルに増加して警戒が必要とも言っているものの、これを人口700万人で割り戻すと一人当たり2571ドル≒40万円弱という数字になります。

翻って日本のGDP成長率は1.3%、2024年末の国債発行残高は1105兆円で、人口1億25百万人で割り戻すと884万円。パラグアイの22倍の債務を負っている計算になります。日本の金融政策では、ブレーキが壊れた状態が続いていることが判ります。

下のグラフは南米各国における社会インフラ投資のGDPとの比較ですが、ご覧の通り、2010年以降はパラグアイにおいて高い投資が行われていることが見て取れます。つまり、アクセルを踏み込んでいる部分。

今後注目すべき資源として、最もシンプルな水に注目してみますと、人口に対して豊富な資源量を持つのが南米であることも判ります。

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/globe_sdgs/180701/

粗野な分析と言われそうですが、世界的な紛争リスクを考慮すると、やはり最も重要なのは食糧の確保が引き続き重要なテーマであり、食糧生産の為に土と光とみずが重要とすれば、自ずと南米の重要性は明らかになります。1月も三週間が経過しようとしており、この火曜日には米国で新政権が発足しますが、世界秩序がどうなろうと、食を中心に安全保障を考えることを日本政府にもお薦めします。

「2025年1月26日発」
パラグアイの言葉 faena(ファエナ)=仕事・屠畜 英:task/slaughter 葡:tarefa/abate

ここのところ干天続きであったために、収穫期を迎えた大豆等の栽培作物や、牧畜への水不足の影響が懸念されはじめていたましたが、週後半になって纏まった降雨が何度もあって、農作物の作柄への懸念は少し和らいだ感があります。

天気予報では、来週末まで雨天が続くということで、逆に収穫直前の大豆にカビが生える等の懸念もありますが、既に収穫を終えたものも多く、少し先の収穫となるものもあるので、今年の作柄への影響は現時点では大きくないとされています。

牧畜に関しても、昨年から続く水不足の影響で放牧牛の生育状況は平年と比べると芳しくなく、今年度の収入は予想を下回る可能性があると報じられています。

https://www.lanacion.com.py/negocios/2025/01/24/estres-hidrico-en-produccion-de-terneros-y-faena-del-2024-generaria-disminucion-del-hato-ganadero/

また、降雨不足による河川水位の低下は、当然ながら川に生息する魚類の生態系にも大きな影響を及ぼしており、アルゼンチンの北部フォルモサ州では国境を流れるパラグアイ川の水位が1m以下になった為に漁獲の制限を行い、水産資源を保護すると発表しました。この措置は対岸のパラグアイでも協調して対処されることになると考えられます。

https://www.eldestapeweb.com/informacion-general/pesca/rio-paraguay-como-funciona-el-novedoso-sistema-de-veda-pesquera-en-formosa-para-cuidar-la-fauna-local-2025116105251

今日の言葉faenaは、仕事という意味ですが、南米南部では屠畜の意味も含むということは、牧畜業が中心のこの地域においては飼っている動物を屠って商品にすることが、仕事であるということを意味している訳です。

二番目のトピックス=漁獲制限の中には、似た単語でfauna(ファウナ)という単語が出てきます。これは動物相とか動物群という意味で、最近はやりの腸内フローラとか口内フローラという単語でお馴染みのflora=植物群と対を成す言葉です。

https://www.lanacion.com.py/pais_edicion_impresa/2025/01/24/incendios-ya-afectaron-mas-de-70000-hectareas-a-nivel-pais/

上の記事の通り、雨が降る前には、植物群が乾燥してあちこちで野火が発生していましたが、野火の影響で多くの自然動物群の生態域にも影響が及んでいましたので、向こう一週間降るとされている雨が、干天の慈雨として動植物全てに恩恵を与えてくれることを期待します。

以  上